Q.びまん性軸索損傷における意識障害は,どのような意味があるのでしょうか。

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A.

交通事故によるびまん性軸索損傷により高次脳機能障害が発症したかについては,
意識障害が事故直後に生じたか,それがどの程度の意識障害で,どの位の時間継続したかが重視されます。

意識障害の程度が,必ずしも重度,中度ではなくても外傷性脳損傷による高次脳機能障害の発症を認める判決が出てきた時期がありました。

しかし,ここ2,3年(2015年末時点)では,逆に意識障害の内容の議論が緻密化して,自賠責判断を訴訟で覆すことが極めて困難となっていると言えます。


1 びまん性軸索損傷
交通事故による脳損傷には,脳挫傷,脳出血といった局在的脳損傷とは異なるびまん性軸索損傷による脳損傷があります。

むしろ,高次脳機能障害が発症するリスクが極めて高いとされています。

それにも関わらず,びまん性軸索損傷は,受傷時には局在的脳損傷と異なり,脳の出血が画像によっても見つけにくく,見落とされやすいという特徴があります。


2 交通事故を原因とするためのポイント
高次脳機能障害が器質性脳損傷による,
つまり交通事故を原因とされるためには,
以下の4つが基本的なポイントとなります。

(1)頭部打撲・受傷
(2)頭蓋内の受傷
(3)障害残存画像(事故後の脳萎縮・脳室拡大を示す画像)
(4)事故直後の意識障害


3 事故直後の意識障害の意味
意識障害があったということが頭部に外力の加わった何よりも重要な現れだからです。そして,意識障害の程度と時間と,その後の脳機能障害の程度とはほぼ比例関係にあるというのが現在でも定説と言えます。

自賠責のこの点での判断基準は次のとおりです。

①半昏睡以上の意識障害(JCSで3桁が,または,GCSで8点以下)が6時間以上続く
または

②軽症意識障害(JCSが2から1桁,または,GCSで13から14点)が1週間続く
問題は,自賠責の判断基準に達していない場合にもびまん性軸索損傷→びまん性脳損傷→高次脳機能障害が認められるかです。

4 平成20年頃の判決

(1)神戸地裁 平成20年10月14日判決  5級
意識障害(JCS10→11)が1週間継続

(2)大阪高裁 平成21年3月26日判決 9級
病院に搬送後,名前,場所は答えられたものの,事故状況は思い出せないという見当識障害があり,搬送後約6時間後にようやく意識清明になった

(3)東京地裁 平成21年3月31日判決 5級又は3級
「ボーとした状態」であり,自動車から出るように促されても,出てくることができず,結局,10分前後で到着した救急隊員によって車外に出され,(救急車で搬送された病院では)意識レベルは清明だが衝突時の記憶がない

(4)名古屋地裁 平成21年7月28日判決 7級
救急搬送された病院では,意識清明となっていた点から自賠責は意識障害がないとしたことに対して,判決は,「子どもが泣いていることをしばらく気づかなかった」意識もうろう状態にあったとした


これらの点から,自賠責基準から見て意識障害に該当しない場合であっても,このころの判決例としては,びまん性軸索損傷→脳損傷→高次脳機能障害を認める方向にあったと言えます。
(1)を最後に,軽度な意識障害でも,因果関係を認める判決例は,どうやら存在しないようです。もっとも,(1)も事実関係では,「大声で叫ぶ,体動あり」「不穏様,入眠傾向あり,事故の記憶なし」「転倒の衝撃で脳震盪を起こしているのか。」といった診療録の記載が証拠となっていて,必ずしも,意識障害は「軽度」とはいえないとも言えます。

(2)は,JCS,GCSでの数値のハードルを下げる争い方をしたのですが,自賠責の高次脳機能障害の審査対象事案となる基準値がイコール高次脳機能障害となりうる因果関係を示すものではないと断定されています。

(3)は,軽度外傷性脳損傷(MTBI)を主張したものです。
立証の難しい一過性の15分間程度の「意識障害」では認められないと言うことなのでしょう。

 

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(1)意識障害については,受傷時意識消失ありとされ,初診時はⅠ-2Rであったとして,
画像所見は認められないが頭部に衝撃を受け記憶障害があり精神症状が現れているとして高次脳機能障害を認め等級としては7級(自賠責非該当)と認めるした。

名古屋地裁 平成24年2月24日判決(確定)
<出典> 自保ジャーナル・第1872号

(2)厚生労働省労働基準局労災補償部補償課長名義の文書も,画像所見が認められない場合であっても
障害等級第14級を超える障害が残る可能性があることが研究において示唆されている旨指摘するほか,
平成23年報告書においても,審査必要事案の選別基準として間口を広げることが提案されているが,
その場合にも,「意識障害(JCSが3~2桁,GCSが12点以下)が少なくとも6時間以上,もしくは,
健忘症あるいは軽度意識障害(JCSが1桁,GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上続いていること」とされているところ,
本件ではこれらには該当しないものである。
 (本件では,GCSが1桁であった期間は明らかでない上,GCSについても,14点の状態となったのはいずれも1日のうちの一時点であり,
その他は15点であったものであるから,これが1週間以上継続していたということはできない。)

東京高裁 平成26年7月24日判決(確定)
1審 東京地裁 平成25年9月13日判決
<出典> 自保ジャーナル・第1930号

(3)原告は,本件事故の衝撃で頭部を含む全身を路面に強く打ち付け,本件事故直後に15分程度の意識障害があった旨主張し,これに沿う供述をする。
しかし,救急搬送されたB大学病院の診療録には本件事故現場での意識障害の記載や頭部外傷の記載はなく,
本件事故から1時間経過後ではあるが同病院に搬送された時には意識清明で,頭部や後頸部の疼痛の訴えはなく,
本件事故の態様についても覚えていて健忘も窺われないから,頭部を強打したとも意識障害があったとも認めることはできない。
また,原告は,J病院では,B大学病院に搬送された時点で意識が戻った旨を述べて,意識障害の時間をより長く述べており,不自然であって,信用性に乏しい。
上記原告の説明を前提に原告を高次脳機能障害と診断している丁山医師の診断は,異なる事実を前提に上記診断に至っているから,これを直ちに採用することはできない。

名古屋地裁 平成27年4月17日判決(確定)
<出典> 自保ジャーナル・第1950号

 

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