Q.醜状障害における逸失利益は認められるのでしょうか。
醜状障害について労働能力喪失があるとして逸失利益が認められるかは,7級の著しい醜状であれば基本的には肯定される可能性が大きいですが,それ以外については,個別的な判断によっています。
また,男性については,女性と比較すれば認められにくいといえますが,肯定する裁判例も増えてきています。
醜状障害は,他の障害が労働能力喪失からの観点からダイレクトに定められていることに対して,他人から見られる自分,それを意識する自分という極めてデリケートな観点からの問題をはらんでいます。
しかし,人間は,他者との相互関係で生活をしていることから,コミュニケーションも対面によるものが多くあり,醜状が他人との円満な関係を形成する支障になることも否定できません。
醜状障害について対人関係の円滑化を阻害する面から労働能力喪失となるのか,つまり逸失利益が発生するのかが裁判例でも争点となります。
2 基本的な裁判所の観点は,どうですか (クリックすると回答)
実務的には,「被害者の性別,年齢,職業等を考慮した上で,
醜状痕の存在のために配置転換させられたり,職業選択の幅が狭められるなどの形で,労働能力に直接的な影響を及ぼすおそれがある場合には,労働能力喪失,つまり逸失利益肯定するが,
労働能力への直接的な影響は認め難いが,対人関係や対外的な活動に消極的になるなどの形で,間接的な影響を及ぼすおそれが認められる場合には,慰謝料加算事由として考慮する。
しかし,直接的にも間接的にも影響を及ぼすおそれが認められない場合には,逸失利益は否定し,後遺障害慰謝料の加算事由としても否定する。
3 労働能力に直接的な影響を及ぼすおそれがある場合とは (クリックすると回答)
(1)醜状障害の内容と程度(2)職業(3)性別(4)年齢の要素に分けて分析を行っています。
その趣旨をまとめると次のようになります。
(1)醜状障害の内容と程度
著しい醜状が問題となった事例では,女子の場合には広く逸失利益が肯定され,男子の場合にも少なからず逸失利益が肯定されていることから明らかなように,「出発点」は,醜状障害の内容と程度といえる。それは通常の就労者は,少なからず他者との直接的接触・交流の中で就労をしていることから,醜状障害が円満な対人関係を構築し円滑な意思疎通を実現する上での阻害要因となるのは容易に理解できるからである。醜状障害が「著しい」程度に達していれば,労働能力の喪失は相当程度明らかなものと考えられる。
(2)職業職業も重要な要素である。
円満な対人関係を構築し円滑な意思疎通を実現そのものが職業として中核をなしているような例えばホステス,営業担当者と,その実現が周辺的な位置づけに過ぎない肉体労働者とは,醜状障害の影響が異なるのは明らかである。職業によれば労働能力喪失が否定されることもあり得る。ただし,職業は流動的であることから,将来の就職,転職,配点等の可能性が認められる場合には,労働能力喪失と認められる可能性もある。
(3)性別判決の流れは,男性に比較して女性の醜状障害による労働能力喪失を認める傾向にある。それは,女性の方が一般的に円満な対人関係を構築し円滑な意思疎通を実現することを中核とする職業に就いていることが多いという見方も可能である。しかし,性別による差がある,つまり醜状障害による対人関係円滑化における労働能力喪失の程度には男女差があること明らかである。従って同程度の醜状障害であっても,男女で逸失利益を肯定するか否かの結論が分かれることもあり得る。
(4)年齢
醜状障害においては,年齢が与える影響は限定的である。ただし,将来の就職,転職,配点等の可能性を検討する際に例外的に考慮される要素とはなり得る。