Q.逸失利益で問題となる年少女子,つまり女の子(子ども)の範囲は何歳までを言うのでしょうか。---交通事故賠償は,むさしの森法律事務所
おおむね義務教育終了である中学生までですが,高校生まで広げていく考え方もあり,実際にもそのような判決も出されています。
1 どうしてこのことが問題となるのでしょうか。 (クリックすると回答)
子ども(女子)が死亡した場合の逸失利益の計算について,その基礎収入は,男女計の全労働者平均賃金によることが裁判の傾向です。
それは,幼くして亡くなった18歳未満の子ども(女子)の場合に,死亡逸失利益で男女格差が生じることをなくそうという考え方からです。
また,無限な将来の可能性があったにもかかわらず命を絶たれたわけですから,それに対する配慮もあると思います。
まず,年少者とは,18歳未満を前提としても何歳までを言うのか,義務教育終了までなのか,それとも高校卒業までを言うのか問題があります。
2 三庁共同提言以降の裁判所の方向性は,どうですか。 (クリックすると回答)
三庁共同提言では,この女の子(子ども)の範囲についても,明らかにはされていませんでした。
「交通賠償論の新次元」(判例タイムズ社 p27~31)では,三庁共同提言以降の平成19年4月21日時点での東京,大阪,名古屋の各地方裁判所交通専門部の総括裁判官から以下のとおりの方向性ないし傾向について示されています。
必ずしも統一されているわけではありませんが,およそ中学生までとして,それ以上の年齢であっても含まれる可能性があると言えます。
東京地方裁判所:基本的に義務教育終了時まで(つまり中学生まで),ただし,高校生さらには大学生まで広げても良いとの見解が部内にはある。
大阪地方裁判所:少なくとも中学生以下,ただし,「部総括裁判官個人としては」高校卒業までの範囲
名古屋地方裁判所:原則としては中学卒業までとして,高校生についてはケースバイケース
3 【参考】「逆転」現象についての考え方はどうですか。 (クリックすると回答)
年少女子,つまり子ども(女子)における男女賃金格差については,裁判所における努力,それは他ならぬ被害者側の努力の反映でありますが,徐々に解消に向かっています。
しかし,それは新たな問題を生じさせているのです。
それは,年少女子の死亡逸失利益の方が就労している女性労働者の逸失利益よりも高くなる,という「逆転」現象です。
年少女子の死亡逸失利益の方が就労している女性労働者の逸失利益よりも高いと考えるのではなく,(ましてや,年少女子の死亡逸失利益を下げる方向で考えるのではなく),就労している女性労働者の逸失利益が低いことに問題があるのです。
年少女子には,全労働者(男女計)平均賃金を使い,就労している女性労働者には女性平均賃金を使う,という物差しが異なればこの様な結論になるのは自明です。
しかし,物差しを統一することは実際には不可能ですから,「逆転」現象については,慰謝料での調整によりバランスをとることが必要だと考えます。