Q.30歳までの若い就労者の逸失利益においての基礎収入の考え方はどうなるでしょうか。---交通事故賠償は,むさしの森法律事務所
全年齢平均賃金によることになりますが,男女計ではなく男女別労働者計平均賃金の中で年齢・経歴等の事案に合わせて学歴別あるいは学歴計での平均賃金を用いることになります。
ただし,場合によって事案に応じて7から9割に減額をする傾向にあります。
1 逸失利益の計算方法は,どうなりますか。 (クリックすると回答)
逸失利益とは,後遺障害による労働能力喪失あるいは死亡していなければ得られたであろう利益のことです。
計算式としては,次のようになります。
後遺障害の場合には,
基礎収入額×後遺障害等級に対応する労働能力喪失率×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
死亡の場合には,
基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
死亡の場合に,生活費控除率を差し引くのは,生存したであろう生活費が死亡したことによって不要となったための損益相殺と言うことで説明されています。
また,死亡の場合には,労働能力喪失率は100%=1のため「×1」は,省略してあります。
後遺障害と死亡に共通する就労可能年数に対応するライプニッツ係数とは,現在年齢から67歳までの年数に対応するライプニッツ係数ということです。
ライプニッツ係数とは,将来にもらえる収入を現在もらうことに対して現在価値に引き直す方法です。
2 若年者について基礎収入で問題になるのは,どのようなことですか。 (クリックすると回答)
三庁共同提言では「比較的若年者」とは(おおむね)「30歳未満」であるとされています。
この様な「比較的若年者」の場合は,事故時点の実収入にはばらつきがあり,他方では年齢から言って将来の可能性があると一般的に認められるものです。
そこで,後遺障害あるいは死亡なりで将来の可能性を奪われた逸失利益を計算する場合において事故時点の実収入を基礎収入とすると,金額が低くなりがちであり,被害者が持っていた「将来の可能性」に対して正当な評価と言えないのではないかというのがスタートです。
しかし,それでは実収入に対して平均賃金を適用するとしても,全年齢平均賃金なのか,学歴別平均賃金なのか,男女計か,男女別か等が問題となります。
さらに,根本的な問題として若年者というだけで一律に将来の可能性があるとして平均賃金を適用することが本当の意味で公平なのか,が問題となります。
3 三庁共同提言ではどのようになっているでしょうか。 (クリックすると回答)
三庁共同提言というのは,平成11年11月22日に東京,大阪,名古屋の交通専門部の総括裁判官から出されたものです。
逸失利益について若年者については
原則として比較的若年,おおむね30歳未満の,比較的若年の被害者で生涯を通じて全年齢平均賃金または学歴別平均賃金程度の収入を得られる蓋然性が認められる場合については,
基礎収入を全年齢平均賃金または学歴別平均賃金によることとし,それ以外の場合には事故前の実収入による」としています。
つまり比較的若年の被害者について言えば,逸失利益の基礎収入として「全年齢平均賃金または学歴別平均賃金程度」とすると述べています。
しかし,これ以上は述べていないとも言えるのです。
4 どのように考えるべきでしょうか。 (クリックすると回答)
「交通賠償論の新次元」(判例タイムズ社 p43~46)では,三庁共同提言以降の平成19年4月21日時点での東京,大阪,名古屋の各地方裁判所交通専門部の総括裁判官から各現状での若年就労者の基礎収入に関する傾向ないし方向性が述べられています。
原則として全年齢平均賃金ということでは一致していますが,例外のあることも認めています。
その場合の例外とする基準と,例外の場合の扱い方については微妙な差があるようにも思われます。
東京地方裁判所:原則として全年齢平均賃金,しかし,それまでの生活歴,就職歴から見て将来的にも平均賃金の収入を得る見通しが低いと判断すると,全年齢平均賃金の7~8割とする。
大阪地方裁判所:現実に被害者が当該年齢の平均賃金を得ている場合(例えば25歳ならその年齢の平均賃金に相当する実収入である)には,全年齢平均賃金,しかし,得ていない場合には,全年齢平均賃金の一定割合とする(具体的な割合は明言せず)
名古屋地方裁判所:原則として全年齢平均賃金であるが,無職等の一定の場合には,全年齢平均賃金あるいは年齢別平均賃金から減額する。
5 最近の裁判の傾向はどうでしょうか。 (クリックすると回答)
実収入が低いアルバイト・派遣社員・契約社員等の非正規雇用について検討してみます。
ア 女子の場合
概ね,女子については,全年齢女子労働者計として,その中で年齢・経歴等の事案に合わせて学歴別あるいは学歴計での平均賃金を用いて,場合によってその上で減額をしている傾向にあります。
減額をする場合はそれほど多くはありません。
イ 男子の場合
概ね,男子については,全年齢男子労働者計として,その中で年齢・経歴等の事案に合わせて学歴別あるいは学歴計での平均賃金を用いて,場合によってその上で減額をしている傾向にあります。
ウ 全体として
男女それぞれ,全年齢男女別労働者計として,その中で年齢・経歴等の事案に合わせて学歴別あるいは学歴計での平均賃金を用いて,場合によってその上で減額をしている傾向にあります。