Q.年金について死亡逸失利益として認められますか。その場合の生活費控除率は,どうですか。また,年金を受給前の場合にはどうなりますか。
被害者が交通事故で死亡した際に年金を受給していた場合,逸失利益として認められるかどうかは,年金の種類や性格により異なります。
一般的にみていわゆる遺族年金以外の年金については原則として逸失利益が認められていると言えます。
また,計算方法は,受給していた年金を基礎にして,平均余命まで支給されていたことを前提にしています。
生活費控除率は,年金の性格から高めで原則としては60%として考えて,例外的に50から80%で調整していると言えそうです。
年金未受給,つまり受給前に死亡した場合には計算は複雑になり,「不確実な」要素が入っていることは否定できません。
そのため,事例により認められるかは異なります。
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1 年金について逸失利益性は認められますか。
年金には国民年金・厚生年金・共済年金があり,
それぞれに老齢,退職時支給・後遺障害支給・遺族支給があります。
(1)逸失利益の発生が認められるもの
老齢,退職時支給される国民年金・厚生年金・共済年金
例えば,老齢基礎年金,公務員退職共済年金,恩給等です。
(2)逸失利益の発生が否定されるもの
遺族支給の年金
2 年金の逸失利益の計算は,どのようにしますか。
以下の算定式によります。
受給していた年金額(年額)×(1-生活費控除率)×死亡時年齢から見た平均余命数に対応するライプニッツ係数
例えば74歳で死亡した女性が50万3,900円の年金を受給していたならば,74歳からの平均余命は15年間であるので,それに対応するライプニッツ係数は,10.3796ですから,以下のようになります。
なお,生活費控除率は50%としました。
50万3,900円×(1-0.5)×10.3796=261万5,140円(円未満切り捨て)
3 年金の死亡逸失利益が認められる場合の生活費控除率はどの位ですか。
原則としては60%ですが,事案により50から80%での範囲と言えます。
ただし,年金以外の収入があったり主婦であったりした場合には,事案に即した控除率が採用されていると言えます。
年金については,制度の目的から,どうしても受給した分をそのまま生活費に使ってしまうと考えられ,従って,生活費控除率は高めになりがちです。
しかし,それぞれの状況に応じて異なってくると言えます。
年金以外に収入がある場合には通常の生活費控除率で行い,年金のみが収入の場合には幾分高めの生活費控除率で行う傾向があるようです。
4 年金受給前に事故で死亡した被害者について将来の年金に対する逸失利益は認められますか。
受給前であっても,年金の逸失利益を肯定することはできます。
その場合に,受給資格を既に取得していたかどうかにより,結論が異なってくることがあります。
つまり受給資格がない場合に,損害計算が煩雑になるだけではなく,将来の不確定な要素によらざるを得ないためにせっかく主張立証しても否定される可能性があるので十分に検討する必要があります。
受給前の場合の計算式を考えてみましょう。
ちなみに
受給後の場合には,
受給していた年金額(年額)×(1-生活費控除率)×死亡時年齢から見た平均余命数に対応するライプニッツ係数
となります。
これに対して,受給前では
{(予想される老齢・退職年金額)×(1-生活費控除率)×
[(平均余命に対応するライプニッツ係数)-(予想される支給開始までの年数に対応するライプニッツ係数)]}
-{予想される保険料の年額×保険料の支払いを要する年数に対応するライプニッツ係数}
受給前ですから,「受給していた年金額(年額)」に代えて「予想される老齢・退職年金額」を基礎額にします。
そして,受給後であれば単純に「死亡時年齢から見た平均余命数に対応するライプニッツ係数」をかけるところ,「(平均余命に対応するライプニッツ係数)-(予想される支給開始までの年数に対応するライプニッツ係数)」という算定をします。
その上で,生存していたならば支払いが必要な保険料を差し引かなくてはならないのです。
それが,{予想される保険料の年額×保険料の支払いを要する年数に対応するライプニッツ係数}です。
しかし,例えば現在50歳である場合に,支給開始が65歳(あるいは67歳)とした場合に,予想される老齢・退職年金額,平均余命,予想される支給開始までの年数,予想される保険料の年額,予想される支給開始までの年数等は,将来予測のために統計資料あるいは制度の変動もあり得るために「不確実な」要素が入っていることは否定できません。
ましてや,財政状況を考えると年金制度が今後どのようなものになるのかは,全く予断を許すことができない状況です。
その点が,受給前でも年金の逸失利益を肯定する原則に立ちながらも,受給資格などで「線引き」をする問題が生じている理由です。