Q.高年齢者雇用安定法改正を受けて定年退職後の逸失利益の算定はどうなるのでしょうか。
高年齢者雇用安定法改正(平成16年,なお「高年法」と略称します。)によって,高年齢者の働き方も変化をしています。
新しい制度のもとで,継続して勤務できる場合あるいは現実に勤務している場合に逸失利益の基礎収入及び喪失期間について,どのように考えるべきかの問題です。
高年齢者雇用安定法改正(平成16年,なお「高年法」と略称します。)によって,65歳未満の定年の定めをしている事業主は65歳までの安定した雇用を図るために2006(平成18)年4月1日から,次のいずれかの措置をとらなくてはならなくなりました。それが,大きく影響をしてきています。
①定年年齢の引き上げ
②継続雇用制度の導入
③定年制度の廃止
そして継続雇用制度を導入する際に賃金低下を防ぐために雇用保険による高年齢雇用継続基本給付がもうけられています。
これは原則として60歳以降の賃金が60歳時点に比べて75%未満に低下した場合に本人に支給されるものです。
例えば61%以下に低下すれば各月の賃金の15%相当額となります。
すると,定年制度が従来とは異なっており,また継続雇用,高年齢雇用継続基本給付も導入されて極めて複雑になっています。
さらに老齢厚生年金を在職中に受給することも可能であるために,ますます複雑になります。
単純に事故時点での実収入を基礎に67歳まで請求すればよいとは,ならなくなってきています。
2 年齢が60歳から65歳までの年齢の場合については,どう考えますか。(クリックすると回答)
現時点では,ほとんどの企業において雇用確保がなされておりますが,この年齢帯においては,次のようなケースが考えられます。
(ア)既に定年年齢の延長を受けている場合
(イ)継続雇用制度を既に利用して再雇用されている場合
(ウ)定年前の場合
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(ア)既に定年年齢の延長を受けている場合
定年年齢まで事故時点での給与額を基礎収入とする妥当性があると思います。
問題は,延長するとしているだけで具体的に年齢を定めていない場合です。
通常は,少なくとも65歳までと推認をされると考えます。
(イ)継続雇用制度を既に利用して再雇用されている場合
再雇用の条件である給与額及び高年齢雇用継続基本給付も受給していれば,それを加算した金額が基礎収入となります。
また,定年延長後の就労形態として,それまでは期間の定めのない雇用契約であったのが,解約期間を定めている場合は,その期間終了までと考えられます。
あるいは,延長後の雇用期間を1年とする「契約社員」である場合には,更新された可能性の主張立証が必要です。
しかし,更新については会社の裁量によること,特に経済的事情次第であるため,原則としては更新されて少なくとも65歳までされると推認すべきです。
(ウ)定年前の場合
最も問題になろうかと思います。
継続雇用制度があっても無条件で継続雇用されるとは限らないからです。
また,雇用継続ができても,複数の形態の場合があり得ます。
継続雇用対象者の選定基準に照らして被害者が該当すること及びその場合の見込み収入額が主張立証されなければなりません。
また,この場合の収入額は,継続雇用の給与額によっては,高年齢雇用継続基本給付も受給することになるので,その分を加算したものとなります。
3 年齢が65歳以上67歳未満の年齢の場合については,どう考えますか。(クリックすると回答)
高年齢者雇用安定法改正(平成16年)によっても,この年齢帯に関しては,対象外とされています。
そこで,被害者の定年前の収入,職種,技能,地位,さらに勤務先の65歳以降の稼働実績から見て,再雇用の蓋然性とその場合の収入について主張立証する必要性があります。
4 年齢が67歳以上の年齢の場合については,どう考えますか。 (クリックすると回答)
原則としては,平均余命までの老齢厚生年金を基礎収入とすることになります。
つまり,
(老齢厚生年金額)×(平均余命に対応するライプニッツ係数)
となります。
但し,
67歳を超えて,就労しているお元気な方も増加しています。
そのような場合には,多くは基礎収入として実収入あるいは年齢別平均賃金になろうかと思います。
計算式としては,
基礎収入×該当年齢の平均余命の2分の1に対応するライプニッツ係数
となります。
また,60歳以上であれば67歳までの年数が平均余命の2分の1よりも短くなる場合もあります。
その場合は,平均余命の2分の1に対応するライプニッツ係数にするとされています。