Q.会社役員の休業損害・逸失利益を算定する場合の基礎収入として役員報酬全額が認められますか。

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A.

役員報酬は,会社員(サラリーマン)の賃金とは違います。
地位に基づく利益配当部分とされるものも入っています。
つまり,仕事に対応した労務対価部分と利益配当部分との合計額という考え方をします。

すると,休業損害・逸失利益の対象となるのは,労務対価部分であると考えるのです。

1 基本的な考え方(クリックすると回答)


(1)役員報酬の性格
サラリーマンの給与とは違って,会社役員の報酬は性格として2つの面があるとされています。

つまり,1つは会社役員としての地位にあることによる利益配当部分です。
もう1つは,実際に労務をしたことに対する労務の対価としての性格です。

(2)休業損害・逸失利益の対象となるもの
この様な役員報酬の性格を反映して,対象となるのは労務対価部分のみを基礎収入として休業損害・逸失利益を算定することで実務上は定着しております。

2 労務対価部分の判断要素(クリックすると回答)


(1)判断の要素とされるもの
判断の要素とされるものには次のものがあるとされています。

①会社の規模(同族会社かどうかも含めて),利益状況

②被害者である役員の地位・職務内容

③被害者の年齢

④被害者の役員報酬金額

⑤他の役員,従業員の職務内容と報酬,給料の金額(これは親族か非親族かで報酬金額があるのか,あれば親族として労務の対価以上に優遇されている利益配当部分とされる可能性が高いと考えます。)

⑥事故後の被害者である役員と他の役員の報酬金額推移(被害者役員の報酬金額に変化がなければ利益配当部分とされる可能性が高いと考えます。)

⑦類似法人の役員報酬状況(比較をしていわゆる相場よりも高額であればその部分は利益配当部分とされる可能性が高いと考えます。)


なお,死亡逸失利益については「就労可能期間中に収入額が減少する蓋然性が高い場合には,その事情も斟酌」されます。
それは,死亡による逸失利益額は,就労可能年齢までの間に被害者が得べかりし利益額を算定するものであるから(大阪地裁 平成21年12月8日判決 <出典> 自保ジャーナル・第1837号)です。


(2)名目との関係
実態で判断されますから,名目は全額給与としてあっても,その通り全額に労務対価性があるとは認められるわけではありません。

逆に,名目が全額役員報酬とあっても,全額について労務対価性が否定されてしまうわけでもありません。

なお,役員の収入について役員報酬と給与と区分して処理されている例がかなり多いとも言われていますが,その場合であっても,必ずしも実態を反映しているとは断定できないため,やはり実態に沿って判断されることになります。

3 一般的に裁判所の傾向(クリックすると回答)


裁判所は,さまざまな事実を総合して被害者の役員報酬の労務対価部分の割合認定をしようと努めています。

その場合には,被害者が実際にどのような仕事をしているのか,役員報酬が平均賃金,他の役員,従業員から見てどの位の乖離があるのかどうかを見ていると思われます。

特に,同年齢労働者平均賃金については重要な指標としていると思われます。

労務対価部分の割合認定が困難な場合には,事案に即した平均賃金の物差しを当てはめています。
会計書類から見て利益変動と役員報酬との関係について,合理的な説明ができるかどうかが鍵と思われます。

4 具体的判決例 (クリックすると回答)



会社役員ではあったが,技術者として高度な能力を有していて会社には労務を代替しうる社員いないような場合(大阪地裁 平成13年10月11日判決<出典> 自動車保険ジャーナル・第1456号),
あるいは,
収入には役員報酬額が含まれているものの,個人所得として正規に税務処理され,かつ会社の中心的な働き手であり,収入はその労務対価として不相当なものとは言えない場合(東京地裁 平成13年2月16日判決<出典>交民集34巻1号237頁)には,全額を労務対価部分と判断しています。

会社形態であっても実際には現場での仕事もリーダーとして行っている場合には,労務対価部分の比率を高く認めています。
理容室2店を経営し,7名の従業員を有し,理容業を行なう有限会社の代表者で2店を巡回し,カット等の理容の中心的作業は主に行なっていた場合(大阪地裁 平成13年7月10日判決<出典>交民集34巻4号886頁)
には80%としています。

全額というのは例外的で,80%というのも高い方だと言えます。

労働対価部分の割合としては,60%,70%と言うのが多く見られます。

しかし,労働対価部分についての認定は困難としたり,あるいはその認定を避けて,平均賃金,平均賃金の一定倍,あるいは同じ会社の年齢の近い従業員の一定倍という,認定方法をとっているものもあります。
いずれも小規模会社あるいは個人企業に近い会社と言える場合です。

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