Q.会社役員が交通事故で受傷あるいは死亡して会社の売り上げが減少した場合に会社は損害賠償を請求できますか。
会社役員と会社が経済的に見て一体であると考えられる場合には,請求できると言えます。しかし,一体と言うことについては,基準が定まっているとは言えず,主張立証については十分な検討が必要です。
1 どういうことが,問題となるのでしょうか。(クリックすると回答)
「企業損害」といわれる問題です。
交通事故による受傷や死亡は会社役員個人に対する事故です。
それに対して会社は法律的に見れば別の法人格を持っています。
この様に別人格の会社がその固有の損害を加害者に請求できるかどうかという問題です。
(1)相当因果関係説
加害行為と損害との間に相当因果関係がある限りは会社からの請求も認められるという考え方です。
(2)債権侵害説
事故によって会社は会社代表者との契約による仕事をしてもらう債権(委任あるいは準委任による労務給付請求権)を侵害されたのであるから会社からの請求も認められるという考え方です。
(3)原則否定説
交通事故の損害賠償を請求できるのは原則としてはあくまでも直接の被害者個人に限られますが,例外として経済的に見て一体の関係あるいは財布が同じ関係にある場合には会社からの請求も認められるという考え方です。
(4)全面的否定説
会社は,交通事故の権利主体には絶対になれず固有の損害賠償請求はできないという考え方です。
ただし,この説によっても,会社が,個人と経済的一体性があり,役員報酬を肩代わりして支払ったような場合には,例外として,その賠償請求は認められるとされています。
3 それでは,どのように考えればいいのでしょうか。(クリックすると回答)
問題となるのは,会社役員としても代表者の場合が多いと思います。
日本では,個人企業から法人成りした零細企業が多く存在します。
そのために法人化していない個人企業とのバランスから,そのような零細の法人については例外として企業損害の請求を認める(3)原則否定説が考え方の落ち着きどころとして妥当と思います。
また,多数説と思われます。
4 リーディングケースと実務は,どうなっていますか。 (クリックすると回答)
最高裁昭和43年11月15日判決がリーディングケースとされています。
これは,薬局を経営する会社が,その代表者が事故で受傷したために売り上げが減少したことに対して加害者に会社としての損害賠償を請求したものです。
この会社は,代表者の個人企業が法人成りしたもので社員としても社長夫婦のみで代表者は,唯一の取締役であり薬剤師でもありました。
最高裁判決は,「法人とは名ばかりの個人会社であり,その実権は従前同様代表者個人に集中して,会社の機関としての代替性はなく,会社と代表者個人とは一体をなす関係にあると認められるのであって,そのような場合に原審が代表者個人に対する加害行為と代表者の受傷による会社の利益の逸失との間に相当因果関係があることを認めたのは正当である。」と判断しました。
個人会社ではないが,代表者がオーナーと言えるような会社について(1)肩代わりして支払ったと役員報酬(2)企業としての逸失利益についての損害賠償請求については認められると考えます。