Q.逸失利益の計算に用いるライプニッツ係数とは何ですか。
話せば長いですが,数式にすれば,。。わかりやすいとも言えませんが。
お読み頂ければ幸いです。
1 ライプニッツ係数が登場
一般的に逸失利益(後遺障害)の算定式は次のようになります。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応したライプニッツ係数
例えば年収500万円で労働能力喪失率35%とします。
すると,まず年収500万円×35%=175万円となります。この被害者は,年間当たり185万円の労働能力を喪失したことが金額で示されます。
そして,労働能力喪失期間が15年間とします。15年間に対応するライプニッツ係数というと,10.3797です。
そこで,175万円×10.3797=1816万4475円となります。
ところで,175万円の15年間分なので,
185万円×15年=2625万円とは,ならないのですね。それがまさにライプニッツ係数が登場するからです。
2 ライプニッツ係数とは何か
上の例で言えば,毎年175万円としても,1年後,2年後,....15年後のものまであります。それを,一時金として一括して支払うというのが損害賠償での逸失利益の考え方です。
現在の175万円と1年後の175万円とは価値が違います。それは,先のものであればあるほど価値が違っています。この様に,将来の経済的利益を現在において取得しようという場合には,現在の価値に直す手続きが必要です。将来の支払いに利息を付けるのと逆に利息分を引いて現在価値に直すことを行います。それを中間利息の控除と呼んでいます。
計算を簡単にするために100万円ということにします。
そして,ライプニッツ係数では年複利で年間5%の民法に定める法定利息を前提とします。
1年後の100万円を現在の価値に直すと,
100万円/(1+0.05)=95万2380円となります。
2年後の100万円を現在の価値に直すと,
100万円/(1+0.05)2=90万7029円となります。
n年後の100万円を現在の価値に直すと,
100万円/(1+0.05)nということになります。
(1+0.05)のn乗ということですね。
このnに年数を入れると(代入すると),その年の分を現在の価値に直した金額が求めることができます。
すると,毎年100万円を10年間にわたってもらうことを現在で一括してもらうことにした場合の計算は,
100万円/(1+0.05) + 100万円/(1+0.05)2 + ・・・・・・・・・ + 100万円/(1+0.05)10
となります。
100万円は,どの分子にも共通なので,次の通りになります。
100万円×{1/(1+0.05) + 1/(1+0.05)2 + ・・・・・・・・・ + 1/(1+0.05)10}
この1/(1+0.05) + 1/(1+0.05)2 + ・・・・・・・・・ + 1/(1+0.05)10の部分が,実は10年間に対応するライプニッツ係数です。
3 ライプニッツ係数の計算(具体例)
それにしても,1/(1+0.05) + 1/(1+0.05)2 + ・・・・・・・・・ + 1/(1+0.05)10の計算は,面倒ですね。
ここまで読んで頂けた方は,少ないかもしれません。もう少しおつきあい下さい。
S(10)=1/(1+0.05) + 1/(1+0.05)2 + ・・・・・・・・ + 1/(1+0.05)10・・・・・①
Sは,sum合計でS(10)は10乗までの合計を示す約束として下さい。
ここで,(1+0.05)を両辺にかけます。
S(10)×(1+0.05)={1/(1+0.05) + 1/(1+0.05)2 + ・・・・・・・・ + 1/(1+0.05)10}×(1+0.05)
これは,次のように変化(変形)されます。
S(10)×(1+0.05)={1+1/(1+0.05) + 1/(1+0.05)2 + ・・・・・・・・ + 1/(1+0.05)9・・・・②
①から②を引いてしまいましょう。
-0.05×S(10)=-1+1/(1+0.05)10
両辺を-0.05で割りましょう。-0.05とは,-1/20です。つまり-1/20で割ることは,-20をかけることと同じです。すると,
S(10)=20-20/(1+0.05)10
=20{1-1/(1+0.05)10}
これが,10年間に対応するライプニッツ係数です。実際には,(1+0.05)10と言う面倒な計算がありますね。電卓ではなくパソコンの関数にやらせてみますか。
4 ライプニッツ係数の計算(一般)
3では,10年間のライプニッツ係数の求め方をしました。
それでは,一般としての求め方をやってみましょう。
途中まで同じですので,
S(10)=20{1-1/(1+0.05)10}
この10をnに置き換えます。
すると,
S(n)=20{1-1/(1+0.05)n}
となります。これがn年間のライプニッツ係数の求め方です。
実際には,パソコンで関数を作成して,数値入力すれば簡単に出てくるはずです。
5 ライプニッツ係数による中間利息控除の問題点
一言で言うと,中間利息が引きすぎではないかと言うことです。
それは,法定利息年5%で複利式からの結果です。ライプニッツ係数による計算方法は,法定利息年5% でなければならないと言うことではないので,法定利息5%が高すぎる上に,ライプニッツ方式が複利計算であるから相乗効果で引きすぎの結果になるのです。
ちなみに,
S(n)=20{1-1/(1+0.05)n}
の式にある1/(1+0.05)n
これは (1+0.05)n を分母としています。
すると,nが仮に無限大としますとlim 1/(1+0.05)n はゼロです。
n→+∞
つまり,無限大で初めて20になるから,人間相手のS(n)は20を超えることはないのです。
n=86という御長寿の場合でもライプニッツ係数は19.6989です。
単利であるホフマン係数ではn=36で20を超え,n=86では32.9525となります。
いわゆる三庁共同提言,ライプニッツ係数によることになり,全国一律でホフマン係数からライプニッツ係数へと横並びとなっています。
例えば20歳であれば47年間のライプニッツ係数=17.9810に対してホフマン係数=23.8323で,かなりの差となってきます。
この点から,ライプニッツ係数によることは動かせないとしても,法定利息5%に対して,逆に年間5%の運用益が現在の経済情勢では得られないのであるから,この中間利息についてだけ5%を維持する合理性がないとして2ないし3%にするようにとの主張が出てくるのです。