Q.遷延性意識障害(植物状態)の症状固定時期はどのように考えるのでしょうか。---後遺障害賠償は,むさしの森法律事務所
遷延性意識障害(植物状態)の症状固定時期については,
脳神経外科的な診断基準に当てはめるだけではなく,
在宅での治療・看護・介護が可能となるために必要な治療であるならば,
その治療終了時とすべきであると考えます。
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1 どうして問題となるのでしょうか。 (クリックすると回答)
遷延性意識障害(植物状態)の症状固定時期が,どうして問題となるかと言えば,症状固定時期を境として治療費等の負担が被害者側になるかどうかが変わってくるからです。
また,現実的な問題として後遺障害慰謝料の金額は定額として判断されますが,症状固定前の入院慰謝料が入院期間が長期間となれば相当な金額となります。
そのために,賠償側としてはどうしても症状固定時期を早めにして入院慰謝料を圧縮する傾向にあります。
他方,確かに長期にわたり同様の症状と治療が継続していて変化が期待できない場合に,そのままにして症状固定としないことも問題であり,どこかで調整を図る必要があることも否定できません。
2 基本的にはどのように考えられるのでしょうか。 (クリックすると回答)
診断基準としては,以下の6項目を充たして,それが3ヶ月以上継続してほぼ固定している状態です。
(1)自力で移動できない
(2)自力で食物を摂取できない
(3)糞尿失禁がある
(4)目で物を追うものの認識ができない
(5)簡単な命令に応じることもあるが,それ以上の意思の疎通ができない
(6)声は出るが意味のある発語ではない
すると,6ヶ月は極端としても,賠償側としては,1年以上6項目を充たしている状態にあれば症状固定であると主張する傾向になると思われます。
現実問題としても,一旦遷延性意識障害(植物状態)に陥ると,そのままの状態で変化しない例が多く見られるとも言えます。
頚部から下方は自発運動が不能であり,発語や自力による栄養摂取,排泄等も不能である状態で,事故当初から上全く変化が見られなかった場合には,遅くとも本件事故から2年を経過した時点で症状固定と認めるのが相当だと思われます(大阪地方裁判所平成13年10月11日判決)。
3 画一的な判断には問題はありませんか。 (クリックすると回答)
しかし,上記の診断基準6項目は脳神経外科的なものです。これには少なくとも2つの問題点が指摘できます。
第1は,一旦,6項目を充たしたとしても時間の経過で,そのいずれかが外れる,つまり脱却する可能性があり得ることです。
その可能性を被害者側が求めている場合に,症状固定として加害者側あるいは裁判所が否定してもよいかという問題です。
第2は,診断基準6項目に該当して遷延性意識障害(植物状態)とされても生命維持のためあるいは在宅での治療・看護・介護が可能となるために必要な治療であるならば症状固定としないで,つまり症状固定時期をずらしても認めるべき場合があるのではないかという問題です。
第1については,医学的な問題と,心情の問題とが交錯しており難しいと言えます。
第2については,医療行為が一定期間を経過しても必要か否かと言うことになります。
在宅介護の希望がありその可能性がある場合には,そのための「準備」というべき必要な治療期間であればそれを含めて事故から4年近く経過後の症状固定時期を認める可能性もあります(福岡地裁 平成17年3月25日判決<出典> 自動車保険ジャーナル・第1593号)。
具体的に上記判決は,以下の様なケースでした。
被害者は,内科的には微熱が続き尿路感染症,呼吸器感染症が続いていてその治療が継続されており,また平成11年終わりころには胃管チューブにより流動食を摂取できるように胃ろう造設及びその後症状が安定して退院することができるまでの治療は,在宅での治療・看護・介護が可能となるために必要なものであったといえるから,
これらの要件が満たされた時点である平成12年5月18日までは,治療継続する必要があったものであり,かつ,本件事故と相当因果関係のある治療であったということができる。