Q.近親者固有の死亡慰謝料はどのような場合にどれくらい認められますか。
死亡慰謝料に関して,父母・配偶者・子について,固有の近親者慰謝料が認められています。
しかし,必ずしもこの近親者の範囲に限られません。
また,逆に,これらの近親者に該当しても固有の慰謝料を否定される場合があります。
慰謝料金額としては,本人分との合計額で考えられていますが,加害者側,あるいは被害者遺族の事情により,合計額として一般的な基準額よりも相当増額される場合があると言えます。
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1 近親者固有の死亡慰謝料請求権とは何ですか。 (クリックすると回答)
交通事故により死亡した場合に,本人に死亡慰謝料請求権が発生してそれは相続の対象となります。
ここでの問題は,近親者が大切な人を亡くしたことに対する固有の慰謝料請求権があるかと言うことです。
民法第711条は,父母・配偶者・子に関しては固有の慰謝料請求権を認めると定めています。
そこで問題となるのは,固有の慰謝料請求権があるのは,条文に示されている近親者に限られるのか,逆に,常にその近親者には請求権があるのかと言うことです。
2 近親者の範囲は,実際にはどうなっていますか。 (クリックすると回答)
その1 拡張される場合
(1)兄弟姉妹
原則として認められると言えます。
しかし,被害者と生活をしていたとか,被害者に対して経済的に援助をしてきたなどの特別な事情を主張立証する必要があると言えます。
但し,逆にその点から否定した判決も多くあります。
(2)内縁
原則として認められると言えます。
しかし,法律上の正式の配偶者がいる場合には,重婚的内縁関係と言われますが,これについては認められないこともあり得ます。
法律上の正式の配偶者との関係が破綻していて内縁関係が一定の期間に及んでいる必要があります。
重婚的内縁関係にあり,扶養される権利を侵害したとして死亡慰謝料1500万円余を認めた判決例があります。
(3)婚約者
判決が少ないために断定することは必ずしもできませんが,一般的には難しいと思われますが,同居していて配偶者と同視できるような関係であれば認められる場合があり得ると思います。
判決例には,結論は否定したものですが,その理由付けからは,認められる余地を残しているというものがあります。
(4)事実上の養女(実際は姪)
被害者が生後まもなく引き取り養子縁組はしていなかったものの,事実上の養女として育てていて事故当時に同居していた姪について被害者死亡の固有慰謝料を認めた判決があります。
(大阪地裁 平成14年3月15日判決 自動車保険ジャーナル・第1465号)
その2 否定される場合(条文にあるのに)
配偶者であっても,離婚を前提に別居中に事故が発生した場合に,固有の慰謝料が否定される場合があります。事実上離婚状態にあったとして否定した判決例があります。
3 慰謝料額の相場はどうなっていますか。 (クリックすると回答)
近親者固有慰謝料が認められる場合には,その近親者が①相続人の場合②相続人以外の場合に分けることができます。
そして,①相続人の場合には,相続の対象となる下記の被害者の慰謝料にどの位プラスされるか,つまり増額事由として評価されるものとほとんどオーバーラップしてしまいます。
[1]一家の支柱 2800万円
[2]母親,配偶者 2500万円
[3]その他 2000~2500万円 (2016年版赤い本より改訂)
そして,②相続人以外の場合が加わった場合も,必ずしも固有慰謝料を認めて全体の死亡慰謝料額が増額されることはないと言われています。
それは,訴訟であれば原告の数が増えれば自動的に慰謝料額が増額するというのは,かえって不公平であるという考えがあるからとも言われます。
仮に相続人以外の固有慰謝料を認めたとしても合計金額だけを示して具体的な個別の金額は示さず,合計金額も結局は,上記の金額のままと言うことも良くある話です。
つまるところ②相続人以外の場合が加わった場合は,被害者との関係と慰謝料の増額を認める事由があるかで判断していると言えます。
4 近親者固有慰謝料を認めた具体例はありますか。 (クリックすると回答)
(1)事故の目撃による(2)遺族の将来介護を考慮した(3)事故態様の悪質さ及び(4)事故後の対応の悪質さ
が,認められる場合です。
これらの場合には,死亡した被害者本人分(相続される分)との合計額では,3の慰謝料の相場を上回るものとなっています。
なお,(3)事故態様の悪質さ及び(4)事故後の対応の悪質さ については,死亡慰謝料増額事由の一般的な考え方としても説明ができるものです。
(1)事故の目撃による
ア 母親の固有の慰謝料600万円を認めた
東京地裁平成15年12月18日判決
イ 父母各300万円,妹150万円の慰謝料を認めた
京都地裁平成19年10月9日判決
(2)遺族の将来介護を考慮した
近親者分(夫及び子二人)400万円を認めた
横浜地裁 平成18年5月24日判決
被害者は夫と2人暮らしで,家事全般をこなすとともに夫の介護もしていたものです。
(3)事故態様の悪質さ
飲酒運転,信号無視あるいは危険運転行為の場合には,近親慰謝料が認められて全体の死亡慰謝料も高額となると言えます。
(4)事故後の対応の悪質さ
ア 衝突後逃走し隠ぺい工作をした加害者に対し近親者慰謝料700万円を認めた
札幌地裁 平成18年7月19日判決
イ 刑事事件捜査段階では虚偽の供述をしており,遺族の思いは「精神的苦痛という面で無視できない」とし,「基準額の3割増の額」の死亡慰謝料2,750万円,さらに遺族固有分500万円を認定した。
大阪地裁 平成20年9月26日判決