Q.高次脳機能障害における記憶障害とは何ですか。また,その検査方法はどういうものがありますか。
記憶障害は,高次脳機能障害の代表的なものです。 1 記憶障害の種類にはどのようなものがありますか。 (クリックすると回答)
2 エピソード記憶の障害(前向性健忘,逆向性健忘)とは何ですか。 (クリックすると回答)
その障害については,記憶とは何であるかと関連して様々なものがあります。
記憶とは,エピソード,知識,行為,手続きのいかんを問わず,あらゆる体験を脳が処理できる形に符号化(encode)し,貯蔵(store)し,取り出す(retrieve)機能の総体を言うとされています。(高次脳機能障害学p159 石合純夫著 医歯薬出版株式会社)
記憶の分類に対応して記憶障害も分類されています。
(1)エピソード記憶の障害(前向性健忘,逆向性健忘)
(2)短期記憶障害
(3)意味記憶障害
(4)作話
があります。
エピソード記憶とは,特定の時と場所で起こった個人的体験の情報に関する記憶です。
発症の時点から見て,それよりも新しい記憶が障害されているもの(前向性健忘),それよりも前の記憶が障害されているもの(逆向性健忘)に区別されます。
前向性健忘は近時記憶の障害です。
数個の単語を聞いて直後は思い出せるのに(即時記憶は正常であるのに),しばらくして干渉が入ると,あるいは干渉が入らなくとも,記憶情報のリハーサルをしないと数分後には思い出せないというものです。
これは,言語性に限らず,図形のような視覚性情報も障害されることがあります。
言語性と視覚性のいずれか一方だけの場合もありますが,程度の差はあっても両者とも障害されることが多いとされています。
逆向性健忘は,記憶情報がどの程度まで坂のぶることができるかを期間で表します。
古い情報よりも新しい情報の障害の方が強いという時間的勾配があることが少なくないとされています(Ribotの法則)。
短期記憶とは,記憶の保持,特に入力された状態のまま一時的に保持することができることを言います。
短期記憶障害とは数字をいくつか言ってそれを繰り返す数唱のような少量の情報をごく短時間蓄えてそれを取り出す記憶が障害されているものです。
しかし,数唱は,記憶障害と言うよりもワーキングメモリの中央遂行系における注意低下で生じることもあり得るため,純粋の短期記憶障害についての検討は現在でも十分ではないようです。
意味記憶は,事実,概念,語彙などの知識全般を含み,基本的にいつでも取り出せる確立した記憶です。
いつどこでどのようにして憶えたかという記憶過程にまつわるエピソードとは切り離して独立して利用できるものです。
そして,意味記憶障害とは「知識」と呼べる確立した記憶が幅広く,あるいは部分的に障害されたものです。
物品の意味を同定する,呼称する,用途を説明すること,名称に対して正しい物品や絵を選ぶこと,「語」の意味を理解したり説明したりすること等が障害されています。
意味記憶障害では,分からない,あるいははっきりとした自信がないといった対応がされます。
作話は,意識清明な状態で,意図無しで表出される記憶内容の変造をいいます。
聞く障害に伴って起こる症状です。
しかし,記憶障害患者が作話をする頻度は必ずしも高くないとされています。
なお,記憶検査方法については,続きをご覧下さい。
続きを読む
記憶障害の中でも前向健忘に関わるものが重要です。
前向健忘とは,いわゆる受傷後の学習障害です。
脳神経学的には記銘力と言われるものです。
つまり,新しく体験した事柄を留めておく能力が記銘力です。
これに対して古いことを留めておくことが記憶力であり対比される概念です。
受傷ないし原因疾患発症後では新しい情報やエピソードを覚えることができなくなり,健忘の開始以後に起こった新しい出来事の記憶はできなくなります。
すなわち,新しいことが記憶,学習ができなくなってしまいます。
参考となる検査法は,
ウェクスラーの中での記憶検査,対語記銘課題(三宅式など),単語リスト学習課題(Rey聴覚的言語学習テストなど),視覚学習課題(Rey-Osterrieth複雑図形検査,ベントン視覚記銘検査など)です。