Q.骨折・脱臼等に伴う神経麻痺とはどの様なものですか。
神経麻痺を生じさせる可能性がある受傷にはつぎのものがあります。
受傷毎に生じうる神経麻痺を説明してあります。
1 腕神経叢麻痺
2 肩関節前方脱臼
3 上腕骨骨幹部骨折
4 上腕骨顆上骨折
5 モンテジア骨折
6 橈骨遠位端骨折
7 骨盤骨折
8 股関節脱臼(骨折)
9 膝関節脱臼
腕神経叢麻痺
(scapulothoracic dissociation,リンク)とは,肩甲帯に強い牽引力が働いて肩甲関節が反ってしまった状態を言います。
腕神経叢損傷の型と損傷部位により異なります。
また用廃あるいは著しい機能障害であるか,さらにその関節の数により異なってきます。
後遺障害は,4級~14級と非常に幅があり得ます。
これには,腋窩神経麻痺
(リンク)があります。
希に,橈骨神経麻痺,尺骨神経麻痺,正中神経麻痺,腕神経麻痺)
肩関節脱臼という場合には,肩甲上腕関節脱臼を言います。
外傷性脱臼の中で現在でも多数を占めていると言われます。
肩関節脱臼は,上腕骨骨頭の位置により,前方と後方とに分けられます。
肩関節脱臼は,上腕骨骨頭の位置により,前方と後方とに分けられます。
腋窩(えきか)神経とは腕神経叢の分枝の1つであり後神経束から分枝するものでC5(第5頚椎)とC6(第6頚椎)に由来します。
腋窩神経麻痺の症状としては,肩痛または肩痛による挙上障害です。
要するに肩が痛くて手が上がらないことです。
これには,橈骨神経麻痺があります。
上腕骨は,腕の肩から肘までの部分の骨です。骨幹は長管骨一般の言い方で中央の管状の部分を言います。
上腕骨骨幹部骨折の詳細はこちらへ(リンク)
橈骨神経の役割としては,上腕の伸筋(上腕三頭筋,肘筋),前腕のすべての伸筋群を支配します。
さらに,上腕後面,前腕面の皮膚に分布し,また,手背の橈側(親指側)半分(つまり,第4指=薬指までの橈側半分)までの知覚を司っています。
橈骨神経麻痺の症状としては,障害部位により異なります。
(1)腋窩部麻痺
上腕三頭筋以下の支配筋(上腕三頭筋,肘筋,前腕のすべての伸筋群)の麻痺と感覚障害が起こります。
(2)上腕外側麻痺(=高位麻痺)
腕橈骨筋の麻痺,手関節の伸展不能,母指と他指のMP関節(中手指節関節)の伸展不能及び感覚障害が起こります。
(3)前腕部麻痺(=低位麻痺)
手関節の伸展は可能ですが,伸展した際に手関節が橈屈してしまいます。
これには,橈骨神経麻痺,正中神経麻痺があり得ます。
上腕骨遠位端骨折は,骨折の部位によって以下の様に分類されます。
(1)上腕骨顆上骨折
(2)上腕骨外(橈側)顆骨折
(3)上腕骨内側(尺側)上顆骨折
(4)上腕骨遠位部粉砕骨折
上腕骨顆上骨折は,上腕骨遠位端骨折の一つです。
正中神経の役割は,尺側(小指側)指根屈筋を除く前腕のすべての屈筋を支配しております。
正中神経麻痺(リンク)の症状は,
(1)低位麻痺(手関節付近の麻痺)
母指球筋の麻痺及び正中神経領域の感覚障害が生じます。
(2)高位麻痺(肘より近位=肩寄り の麻痺)
正中神経の支配筋全体の麻痺と感覚障害を伴います。
橈骨神経麻痺については,「3 上腕骨骨幹部骨折によるもの」をご覧下さい。
これは,橈骨神経麻痺(後骨間神経麻痺)です。
モンテジア(Monteggia骨折:尺骨骨幹部)骨折
(リンク)とは,一般的に尺骨骨幹部骨折※1と橈骨骨頭脱臼※2を合併した外傷を言います。
※1尺骨とは,腕を構成する二つの長管骨の内で小指側にあるものです。
※2橈骨とは,腕を構成する二つの長管骨の内で親指側にあるものです。
橈骨神経麻痺については,「3 上腕骨骨幹部骨折によるもの」をご覧下さい。
これには,正中神経麻痺,尺骨神経麻痺があります。
橈骨遠位端骨折とは,要するに前腕の骨折(リンク)です。
前腕の骨折としては,Colles(コレス,コーレス,コリーズ)骨折と,Smith(スミス)骨折等とがあります。
尺骨神経は,上腕では全く分布せずに尺骨間を通って前腕に達し,前腕では尺側指根屈筋のみを支配します。そして指では,母指球筋の母指内転筋のみを支配しています。
尺骨神経麻痺(リンク)の症状としては,
(1)低位麻痺(前腕以下の麻痺)
小指球筋,骨間筋,環指と小指の虫様筋の麻痺,尺骨神経領域の感覚障害があります。
そして,鉤爪手clawfingerと呼ばれる症状が出現することがあります。
(2)高位麻痺(深指屈筋への運動枝を分岐する部位よりも高位での麻痺)
低位麻痺の症状に加えて,深指屈筋麻痺のために小指と環指のDIP関節(遠位指節間関節)の屈曲が不可能になり,手関節屈曲力が低下します。
これには,坐骨神経麻痺,上殿神経麻痺があります。
骨盤骨折は,基本的に骨盤輪の連続性が保たれるかどうかで大きく分類されます。
つまり,単独骨折か,骨盤輪の破綻かどうかです。
坐骨神経とは下肢の末梢神経に分類されます。
つまり腰神経叢から出て下肢を支配する神経の1つです。坐骨神経麻痺
(リンク)は,完全な神経損傷となると膝部から下の完全麻痺となります。
不完全な神経損傷では総腓骨神経領域の麻痺となります。
要するに,膝関節の,あるいは膝関節及び足関節の用廃を含む重篤な後遺障害が残る可能性があります。
これには,大腿神経麻痺,坐骨神経麻痺があります。
股関節は,骨盤と大腿骨の結合部分です。
脱臼とは,外力により正常運動範囲以上の関節運動が強制され,関節を補強している靱帯や関節包などの支持組織が断裂破壊され,関節面相互の正常な位置関係が崩れてしまった状態を言います。
これには,総腓骨神経麻痺(リンク)があります。
腓骨神経の役割は,足関節の背屈と足趾の伸展を司る筋群を支配するとともに,下腿外側と足背の知覚を支配します。
膝関節脱臼等の腓骨上端の外傷が腓骨神経麻痺の原因となることがあります。
腓骨神経麻痺の症状としては,
足関節背屈障害の垂れ足drop footが特徴的な症状です。この場合に鶏足stepping gaitを来します。
感覚障害は,下腿前面(浅腓骨神経麻痺)と第1趾と第2趾の間の足背(深腓骨神経麻痺)に生じます。