Q.脳と中枢神経の特殊性とは何ですか。それが,生命侵害や重症となることとの関係はどうですか。
脳と中枢神経は,生命を維持するだけではなく,意識を保ち,あるいは人格を形成しているとても大切な臓器です。
そのために他の臓器とは異なる特殊性があります。
したがって,その損傷は命に関わる場合もあり,重篤な後遺障害を残すことがあります。
1 酸素不足は,どのような影響をしますか。 (クリックすると回答)
中枢神経は,グルコースと酸素で代謝をしていますが,これらについては神経細胞内には蓄積することができません。
そのために十分な血行によって補給されなければなりません。
ということは,とても酸素不足に弱いと言えます。外傷性脳損傷となった場合に,気道を確保して酸素吸入をするのはそのためです。
脳や中枢神経にある神経細胞は,他の細胞,例えば皮膚細胞とはことなって死滅と再生を繰り返すことがありません。
形成されて死滅すればそれで終わりという生涯細胞life cellです。
高齢者は,加齢により脳容積が減少しているために,MRIやCTでその状況が見て取れると言われています。
脳への物質の出入り口には,血液脳関門(BBB:blood brain barrier)があります。
これは,もちろん脳組織を保護するものですが,治療のために脳実質(本体)に薬剤が到達しにくいと言うことにも働きます。
そのために脳の感染症が治りにくいことになるのです。
中枢神経それ自体は物理的な力にとても弱くできています。
そのために脳は頭蓋骨・脊髄は脊柱というとても強固な骨でおおわれており,その上で,髄液で充たされてその上に浮いてショックアブソーバーとなるように保護されているのです。
5 脳は閉鎖空間におさまっているので衝撃に強そうなのですが。。 (クリックすると回答)
中枢神経細胞は,外力や血流の障害で浮腫を生じると,そのために全体の容積が増大してしまいます。
脳は,4で述べたように頭蓋骨という強固な骨におおわれて,出入り口もしっかりと血液脳関門で閉じられて,閉鎖空間におさまっています。
しかし,浮腫により全体の容積が増大するとそれが逆に悪い方向に行ってしまいます。つまり,脳自体がふくれあがって自らを圧迫することになります。
その典型例が脳ヘルニアです。(リンク)
脳の動脈,静脈は他の臓器と大きく異なっています。
脳は,左右の内頚動脈と椎骨動脈の4本の動脈から血液を受け取っています。
さらに,左右の内頚動脈は左右でつながり(前交通動脈),内頚動脈と椎骨脳底動脈系も左右でつながっています(後交通動脈)。
これをWillis動脈輪と呼んでいます。
動脈のある箇所で閉塞が生じた場合に,この様な交通動脈群は血液補給の迂回路となるために側副血行路と呼ばれています。
これ以外にも脳内には多くの側副血行路があります。
静脈には,他の臓器にはみられない硬膜で作られた静脈洞があります。
さらに脳や顔面には通常ある逆流防止のための静脈弁がありません。
また,脳内の血流はある程度の血圧変動があっても血管抵抗の調節で一定に保たれます(脳血流の自動調節機能)。
しかし,血圧の変動が大きく限界を超えると自動調節機能が破綻してしまいます。