Q.高次脳機能障害としての遂行機能障害とは何ですか。流暢性も遂行機能障害の一つなのでしょうか。

[ウィスコンシンカード分類テスト,ストループテスト,トレイルメイキングテスト,保続,意味流暢性,文字流暢性,流暢性,遂行機能障害]

A.

遂行機能障害は,失語,失行,失認といった症状がなく,IQが高く,記憶検査も良好であったとしても,生じるものです。
その場合には,日常生活や社会生活に適応ができなくなってしまいます。
その評価としては,BADS (遂行機能障害症候群の行動評価)等があり,また,検査方法としては,ストループテスト等があります。

流暢性というのは,あるカテゴリーの中で,自らの方法で考え抜いて,できるだけ多く取り出して言い表したり書き表すことのできる能力であり遂行機能の1つです。
言い方を変えると語「想起」ということなのですが,遂行機能障害においては「流暢性」というのが一般的です。

1 遂行機能障害とは何ですか。   (クリックすると回答)


実生活を営む上で主体的に何かをしようとする際に必要不可欠な能力です。つまり,自分で考えて,計画をして,他人と交渉したり話し合いながら,計画を実現するための能力です。
そのためには,目標を設定・計画・計画の実行・順序に従った効果的な行動が必要です。

遂行機能障害とは,それらの障害が生じている状態です。

具体的な症状としては以下のものが挙げられます。 
(1)自分からは何もしようとはしない
(2)いわゆる極端なまでの指示待ち,指示がない限りは何もしようとはしない
(3)無計画性,行き当たりばったり
(4)行動の修正ができない,計画通りに行かない場合に軌道修正ができない,修正しようとはしない

2 流暢性の障害とは何ですか。  (クリックすると回答)


流暢性というのは,あるカテゴリーの中で,自らの方法で考え抜いて,できるだけ多く取り出して言い表したり書き表すことのできる能力を言います。
遂行機能の1つです。
したがって,その障害は遂行機能障害と言えます。
言語流暢性が主なものですが,その他に非言語性であるデザイン流暢性もあります。

3 遂行機能障害及び流暢性障害の検査にはどのようなものがありますか。  (クリックすると回答)


(1)ストループテスト
ストループテスト Stroop Testは,赤青緑黄の色名を当てさせるテストをした上で,赤青緑黄の4文字を意味と異なる色を書いておいて早く色名を当てさせるというもので,
色のみに集中して無関係な文字情報を排除することができるかを試すテストです。
処理速度と誤答数が判断基準となります。

(2)トレイルメイキングテスト
トレイルメイキングテストTMTとは数字を1から25まで順に結ぶ(Part A),数字とひらがなを「1→あ→2→い・・・」のように交互に結ぶ(Part B)という二つの課題からなり,注意の持続と選択,また,視覚探索・視覚運動協調性などを調べる検査です。

前頭葉損傷患者に鋭敏な検査で「Part B」では注意や概念の変換能力が必要とされる為,遂行機能検査としてよく利用されるものです。

つまり
A数字  処理速度
B数字-かな 処理速度
さらに,比B/Aを問題とします。比率が高い,つまりBになると処理速度が遅くなると,遂行機能障害が強く疑われてきます。
TMTの成績低下が前頭葉損傷の表れであるかは,議論が分かれるところであるとされています。

(3)ウィスコンシンカード分類テスト
基本的なルールは次の通りです。
カードを1枚ずつ,「色」「形」「数」で分類します。
まずは「色」で分類するのですが,被験者には内緒にしてあります。被験者が行った分類が正しいか,誤りであるかだけが,告げられます。
これを繰り返して,正しく分類ができて決められた枚数が続いたならば,今度はいきなり「形」の分類に移り,同じく正しい分類が決められた枚数続いたならば,「数」に移っていきます。
さらに「色」「形」「数」を繰り返します。カードの総数は128枚であり,連続10枚正解であれば,そのカテゴリー達成とします。

(4)流暢性障害の検査方法
①文字流暢性課題
文字流暢性課題は,欧米では「F,A,S」で始まる語を1分間に出来るだけ多くの動物名を言わせる方法が一般的とされています。
日本語では,「し」「あ」「か」等ランダムで行われているようです。
そのために,「頭」文字流暢性課題ともいいます。
②意味流暢性課題
意味(カテゴリー)流暢性課題は,多いのが動物の名前を挙げるものです。
次には野菜の名前と言うところです。
動物の名前では10個を言うことができれば印象としては正常という学者が多いようです。
③デザイン流暢性検査
自由条件と線数指定条件の方法があります。

4 BADS (遂行機能障害症候群の行動評価)とは何ですか。  (クリックすると回答)


およそ以下の6項目があるようです。
(1)規則変換カード検査
記憶及びある規則から他の規則への変換への適応力を検査します。
(2)行為計画検査
新しい問題解決の為に行為を計画する能力を検査します。
(3)鍵探し検査
有効で効果的な道筋を計画する能力を検査します。
(4)時間判断検査
自分自身の行動をチェックして周囲に気がつく能力を検査します。
(5)動物園地図検査
自由度の高い課題の中で自発的に計画を立てる能力及び自由度の低い課題で外部から与えられた具体的な戦略に従う能力の両方を検査します。
(6)修正6要素検査
行動を計画し,組織化し,監視する能力及び未来に渡って計画を遂行することを覚えている能力(いわゆる展望記憶)を検査します。

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5 ウィスコンシンカード分類テストWisconsin Card Sorting Test WCSTとは何ですか。(詳細)  (クリックすると回答)


(1)具体的な内容様々は変更を加えられることがありますが,基本的なルールは次の通りです。

カードを1枚ずつ,「色」「形」「数」で分類します。
まずは「色」で分類するのですが,被験者には内緒にしてあります。被験者が行った分類が正しいか,誤りであるかだけが,告げられます。
これを繰り返して,正しく分類ができて決められた枚数が続いたならば,今度はいきなり「形」の分類に移り,同じく正しい分類が決められた枚数続いたならば,「数」に移っていきます。
さらに「色」「形」「数」を繰り返します。カードの総数は128枚であり,連続10枚正解であれば,そのカテゴリー達成とします。

日本では,本来のやり方よりも試行回数を少なくした慶応版がよく用いられています。
違いは,
(ア)まずは,「色」「形」「数」で分類する検査であることを最初に教えます。
(イ)次に,分類が時々変わることも教えます。
(ウ)そして,6枚連続して正解すればそのカテゴリー達成として,合計48枚まで行います。

(2)ウィスコンシンカード分類テストWisconsin Card Sorting TestWCSTの評価はどうするのですか。

成績は,達成カテゴリー数と誤反応の数・タイプによって評価します。
達成カテゴリー数については,そのままの数値であるので特に説明は不要でしょう。

ネルソン型保続数について説明します。
保続とは,一度始めた行為の不適切な繰り返しを言います。ルールに従って変更ができないことです 。
保続には以前のカテゴリーに従いつづけるミルナーMilner型保続があります。
これに対して直前の誤反応と同じカテゴリーに分類する誤反応をくり返すのがネルソンNelson型保続です。

2種類の保続は基盤が異なるために1つの反応が両者に分類されることも少なくないとされています。
例えば,カテゴリーを達成せずに,「形」「数」で誤り続ければ両者でカウントされることになります。また,カテゴリーを達成した後に,その分類に固執し続ければやはり同数のカウントとなります。
ネルソン型保続でカウントされるのは,少なくとも1つのカテゴリー達成後に,「間違いです。」と言われて分類を変えていく中で,同一の誤った分類を続けてしまう場合です。
「間違いです。」と指摘を受けているにもかかわらず,続けてしまう点で保続の重さがあるのです。
セットの維(把)持困難とは,少なくとも2回の正答の後,3,4,5回目のいずれかで分類基準を変えてしまうことによりカテゴリーを達成できないことを言います 。

6 言語流暢性(課題)Word Fluency Taskとは何ですか。(詳細) (クリックすると回答)


(1)文字流暢性課題
文字流暢性課題は,欧米では「F,A,S」で始まる語を1分間に出来るだけ多くの動物名を言わせる方法が一般的とされています。
日本語では,「し」「あ」「か」等ランダムで行われているようです。
そのために,「頭」文字流暢性課題ともいいます。

(頭)文字流暢性課題は,文字によりかなりのバラツキがあります。
1つの文字で正答数が0から2個というのであれば,明らかに異常といえますが,3文字であれば平均30個で範囲も20から50以上までと幅があります。
20を下回るからといって,必ずしも異常と言い切れないとされています。
そして,受傷前と比較することがかなり難しいものです。そこで,受傷後の経過を観察するものとして用いられています。

研究者によれば,平均年齢63.3歳,平均教育年数12.9年で,「か」平均12.0個,「せ」平均10.1個,「あ」平均9.7個と言われています。

文字流暢性は,前頭葉の病変でも低下することがよく知られており,特に左側でその程度が強いとされています。

(2)意味流暢性課題
意味(カテゴリー)流暢性課題は,多いのが動物の名前を挙げるものです。
次には野菜の名前と言うところです。
動物の名前では10個を言うことができれば印象としては正常という学者が多いようです。

研究者によれば,41~50歳平均14.8個,51~60歳平均14.3個,61~70歳平均14.4個と言われています。

意味流暢性は,左右いずれの前頭葉の病変でも低下するとされています。

7 デザイン流暢性検査 design fluency testとは何ですか。(詳細) (クリックすると回答)


非言語性の流暢性検査です。ジョーンズ・ゴットマンJones GotmanとミルナーMilnerの方法が知られています。

方法としては,
自由条件と線数指定条件の方法があります。
日本では余り利用されてはいないようです。

(1)自由条件
5分間に実際の物品や,それに類似したもの,あるいは呼び名がない図形のデザインをできるだけ多く書かせる作業です。

(2)線数指定条件
4分間にできるだけ書くことは同じですが,今度は,4本の線のみで書くように線数を指定するものです。
ただし,曲線も線としてカウントし,線が途中で曲がれば2本とカウントすると条件が指定されています。

8 遂行機能障害の診断基準は,どうなっていますか。 (クリックすると回答)


「高次脳機能障害者支援の手引き」として平成20年11月に厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部及び国立障害者リハビリテーションセンター連名で発表されました。診断基準ガイドラインが示されました。

そこでの症状としての遂行機能障害としては以下のとおり説明されています。
① 目的に適った行動計画の障害:行動の目的・計画の障害である。
② 目的に適った行動の実行障害:自分の行動をモニターして行動を制御することの障害である。

もう少し詳しく述べると,
① 目的に適った行動計画の障害:行動の目的・計画の障害である。行動の目的・計画の障害のために結果は成り行き任せか,刺激への自動的で,保続的な反応による衝動的な行動となる。ゴールを設定する前に行動を開始してしまう。
明確なゴールを設定できないために行動を開始することが困難になり,それが動機づけの欠如や発動性の低下とも表現される行動につながることもある。
実行する能力は有しているために,段階的な方法で指示されれば活動を続けることができる。
② 目的に適った行動の実行障害:自分の行動をモニターして行動を制御することの障害である。
活動を管理する基本方針を作成し,注意を持続させて自己と環境を客観的に眺める過程の障害により,選択肢を分析しないために即時的に行動して,失敗してもしばしば同様な選択を行ってしまう。
環境と適切に関わるためには,自分の行動を自己修正する必要がある。この能力が障害されることにより社会的に不適切な行動に陥る。
評価法としては,BADS (遂行機能障害症候群の行動評価)等がある。

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