Q.最近の判決例における外傷性胸郭出口症候群との診断根拠の動向はどうですか。---交通事故賠償は,むさしの森法律事務所

[交感神経,末梢神経,神経症状,胸郭出口症候群,腕神経叢,自律神経]

A.

鎖骨下あるいは腋窩動脈および腕神経叢が,何らかの原因によって圧迫を受けると,頚部,肩部,上肢などの痛み,異常感覚,脱力などの症候を起こすことがあります。
これらを総称して胸郭出口症候群とよんでいるのです。

この診断根拠は,議論があり,これまで様々な根拠に基づいてなされてきた歴史があります。
かつては,有用とされていたものも,現在では疑問視がされていたりしており,なかなか医学上の診断も難しくなっております。

また,後遺障害認定において他覚的所見がある(=12級と認定)とされることは難しいようです。

1 胸郭出口症候群とは何ですか。   (クリックすると回答)


鎖骨下あるいは腋窩動脈および腕神経叢が,何らかの原因によって圧迫を受けると,頚部,肩部,上肢などの痛み,異常感覚,脱力などの症候を起こすことがあります。

その圧迫の部位や原因によって,前斜角筋症候群,頚肋症候群,肋鎖症候群,過外転症候群などの名称がつけられており,これらを総称して胸郭出口症候群とよんでいるのです。 なお,頚肋とは第7頚椎に連結する突起状の骨です。

胸郭出口とは,狭義では鎖骨の下,第1肋骨の上,中斜角筋の前方,前斜角筋の後方およびその下を通る鎖骨下動脈,腕神経叢,さらに鎖骨下筋の後方,前斜角筋の前方の鎖骨下動脈走行部を含めたものを言い,広義ではさらに烏口突起を含めたものを言います。

胸郭出口症候群については,前斜角筋症候群(今日では斜角筋症候群とされる)と,頚肋症候群とに大別されます。
前者は,斜角筋の筋内の異常により,後者は,頚肋により,神経(腕神経叢)・血管(鎖骨下動脈)が圧迫されるものです。

2 発症のメカニズムは,どうなっていますか。  (クリックすると回答)


当初は,鎖骨下動脈の圧迫による阻血が原因と考えられていました。
そのために,数々の人名テスト(注:アドソン,ライト)による橈骨動脈の拍動の停止が重要な徴候とみなされていたのです。

しかしその後,多くの健常人でこれらのテストが陽性であることが分かり,しかも,症状が誘発されないことから本症状の多くは神経症状と考えられるようになったのです。

ところが,神経症状としてもその原因については腕神経叢そのものへの圧迫によるもの,鎖骨下動脈圧迫による阻血を介するもの,自律神経障害(交感神経の過剰興奮)による虚血によるなど種々の説があるようです。

胸郭出口症候群の病態.jpg

3 他覚的所見と検査方法は,どうなっていますか。  (クリックすると回答)


症状としては,1)神経症状・2)血管症状・3)血管神経混合症状があります。
それらはさらに,分類されていて,それぞれに検査方法が対応するのです。

1)神経症状
①末梢神経症状
モーレイテストおよびエデンテスト(肋鎖間圧迫テスト)が該当します。
②交感神経症状

2)血管症状
①鎖骨下動脈症状
ここにアドソンテスト,ライトテストが該当します。
②鎖骨下静脈症状

3)血管神経混合症状
ここにルーステストが該当します。

4 現在のアドソンテスト,ライトテストの意義は,どうなっていますか。  (クリックすると回答)


これらは,血管症状の鎖骨下動脈症状をみるものであり,他覚的には最も捉えられやすいものですが,確定的診断に短絡的に結びつけることは危険であり,その意義を否定する意見も多いようです。

確かに,胸郭出口症候群が鎖骨下動脈の圧迫による阻血が原因ではなく,神経症状として現在では捉えられていることから考えると,常にこれらのテストを実施することが診断学的意義を有するものとは言えないと考えられます。

従って,これらのテストを実施していないとしても患者の胸郭出口症候群の診断を否定する理由とはならないと思われます。
なお,アドソンテスト等の脈管系テストを行う医師は多いが,診断に必要な検査ではないとまで明言する医師もいるようです。

5 現在のエデンテスト(肋鎖間圧迫テスト)の意義は,どうですか。  (クリックすると回答)


他覚的に捉えられる末梢神経症状の乏しいことが胸郭出口症候群の診断の難しいところです。
したがって,症状の再現テストであることから,このテストを実施することが診断学的意義を有するものとまでは言えないと考えます。

6 現在の造影CTの意義は,どうですか。(クリックすると回答)


造影CTにより血管・神経についての状態が一定判明する可能性があることは否定出来ません。
しかし,胸郭出口症候群が神経症状であり,阻血はその原因の1つである可能性として現在では捉えられていることは,既に述べたとおりです。

したがって,造影CTで鎖骨下動脈圧迫が認められなかったとしても胸郭出口症候群の診断を覆す理由とはならないと言えそうです。

次に,神経についてですが,通常は脊髄の造影CTにより神経根圧迫を判断するものである。
腕神経叢は末梢神経が密集している部位であり,神経圧迫は造影CTによっても判明するものではないと言えそうです。

7 胸郭出口症候群の診断根拠の動向は,どうなっていますか。 (クリックすると回答)


ルーステストにより陽性を示しているならば血管神経混合症状を示すものです。
その上で,他覚的所見としては,末梢神経の伝導速度の遅延があり神経障害が認められるならば十分であると言えそうです。

なお,神経伝導速度と胸郭出口症候群の診断との関係に関する判決例を引用しておきます。

この判決によれば,神経伝導速度の遅延の証明は同症の確定診断となりうる としている。さらに,遅延する例は重症であるともしていることは重要です。

神経伝導速度の遅延する例については,判決によることも検討すべきかもしれません。
京都地裁 平成15年2月21日判決(確定)
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1533号(平成16年3月18日掲載)
診断方法として脈管圧迫テスト(万歳位試験)があるが,同方法では徒手的に偽陽性が多く出現し,電気生理学テストは末梢神経障害の診断に有用であり,腕神経叢を挟んだ神経伝導速度の遅延の証明は同症の確定診断となりうるが神経伝導速度の遅延する重傷例はまれである

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