Q.拡散テンソル画像とは何ですか。また,何が分かるのですか。

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A.

拡散テンソル画像は,数学的変換(テンソル)を用いて仮想神経線維の描出を可能とするものです。
拡散テンソル画像(DTI)は,拡散強調画像(DWI)を前身とする進化形というべきものです。

拡散テンソル画像は,通常のMRIでは困難な,白質繊維(神経線維),皮質脊髄路(錐体路)の状態,特に損傷状態の鑑別についてすぐれているのです。

但し,自賠責等級認定あるいは訴訟においては,あくまでも補助的手段に過ぎず,MRI・CTに代わるものではありませんので,注意が必要です。

 

1 拡散強調画像とは (クリックすると回答)

拡散強調画像(diffusion (weighted) image, 略してDWI)は,次の原理によります。核磁気共鳴画像法 (MRI) の一種で,プロトンの移動速度を1対のmotion probing gradient (MPG:傾斜磁場)によって位相変化量として計測する手技で水分子の拡散運動を画像化したものです。
なお,拡散(diffusion)とは,粒子,熱,運動量などが自発的に散らばり広がる物理現象です.。

そして大きな傾斜磁場(MPG motion probing gradient )が長時間にわたって印加されると,その間の各磁化ベクトルの移動によって生じる位相のずれが無視できなくなり,拡散が活発な領域ほど低信号として現れます。
こうして得られた画像を拡散強調画像と呼びます。
拡散強調画像(diffusion weighted image:DWI)とは,このように水分子に対して3方向の拡散の大きさを画像化したものです。

2 水分子の拡散運動と拡散制限とは (クリックすると回答)

水分子の拡散運動は,水のブラウン運動に関係します。

ブラウン運動(Brownian motion)とは,液体のような溶媒中(媒質としては気体,固体もあり得る)に浮遊する微粒子(例:コロイド)が,不規則(ランダム)に運動する現象です。
それは,結果として水そのものが熱などの力学的要素に依存しながらも不規則な運動をしていること,そして拡散していくことを示しています。

すなわち脳脊髄液では,水はあらゆる方向に自由に動くブラウン運動をしています。

しかし,神経細胞をつなぐ軸索(神経繊維)の中の水は,軸索の方向に制限された動きをしているのです。
つまり,脳内の水は,脳室内では自由拡散・皮質(神経細胞)は小範囲で自由拡散・白質(神経繊維)で制限拡散という均等ではない動きをしています。
すなわち,軸索(神経繊維)内で水は閉鎖空間であるために軸索(神経繊維)に垂直な方向への拡散が制限されるのです。

この制限拡散を拡散の異方性と呼びます(これに対して,拡散が空間的に等しい状態を等方性拡散といいます。)。
そして,通常DWIはスライス選択平面に対しXYZ軸方向のMPG:傾斜磁場を印可した3種類のDWIを3乗根表示します。

しかし,拡散異方性評価のために,XYZ軸方向への拡散制限の異方性を通常の3乗根表示ではなく,3色に色分け表示したのが3DAC法です。これにより皮質脊髄路,脳梁繊維,視放線が確認できるのです。
だが,これは軸索の走行(=拡散異方性情報)を,スライス平面へ色分けして投影した2次元情報にとどまるのです。

3 拡散テンソル画像(diffusion tensor image, DTI)とは (クリックすると回答)

白質(神経繊維)における軸索走行を3次元下に定量的に捉えるためには,上記3DAC法の様な3軸(XYZ軸)の傾斜磁場(MPG)のみならず複数方向(最低6軸)の傾斜磁場(MPG)による撮像が必要となり,この条件下での撮像を拡散テンソル画像(DTI)と呼びます。

実際には複数の傾斜磁場(MPG)から画像のボクセルごとにellipsoid(類楕円体)と呼ばれる拡散異方性とその3次元的な方向を含む情報を計算するものです。

すなわち,軸索の存在する部位では,軸索の方向に一致したellipsoid(類楕円体)が計算されます。

一般に拡散異方性は,FA(fractional anisotropy:異方性度あるいは異方性率)と呼ばれる数値で評価され,一定のFA値を上回る部位には軸索が存在すると仮定し,そのellipsoid(類楕円体)の方向が軸索の走行に一致すると考えます。
このように拡散テンソル画像(DTI)とは,数学的処理によるellipsoid(類楕円体)を空間的につなげていくことで仮想神経線維の描出が可能となります。
そして,それによって脳内の錐体路(皮質脊髄路)や脳梁を表示したり,3次元的に神経繊維を表示することができます。
そのため,神経眼科的には視放線の評価が可能となるのです。

4 臨床的応用は (クリックすると回答)

脳における拡散は白質繊維(注:神経線維)による異方性があるので,条件を満たしたMRI撮影をおこないテンソル解析すると,白質路の画像化(color map:繊維方向の違いの表示,tractography:特定の白質路の抽出)や白質繊維路による拡散異方性の程度が定量化(FA:異方性比率)できます。
また,拡散テンソル画像では脳梁,上縦束,上前頭後頭束や帯状即との鑑別も容易にできます。そして,①白質路の画像化②白質路の定量的評価に臨床応用されているのです。(臨床神経学48巻11号「拡散テンソル画像」森墾,東京大学医学部附属病院放射線科)
このように,臨床的応用としては,通常のMRIでは困難な,白質繊維(注:神経線維),皮質脊髄路(錐体路)の状態,特に損傷状態の鑑別についてすぐれているのです。

画像所見としては,具体的には,「帯状回を通過する繊維は両側ともやや抽出不良です。」のように示されます。
帯状回は前頭葉の内側に位置します。
すなわち,前頭葉内側の神経線維に抽出不良があるとは,軸索(神経線維)の走行が確認されないことであり,この所見は前頭葉内側の損傷を示すことを述べるものです。

5 自賠責等級認定においては (クリックすると回答)

あくまでも補助的手段に過ぎず,MRI・CTに代わるものではありませんので,注意が必要です。
拡散テンソル画像所見として異常,つまり,外傷性脳損傷の可能性が示唆されているものの,MRI・CTが正常である場合に,意識障害が基準に達するものではなければ,該当性は認められません。
また,この点については,裁判所の判断は現状を見る限りは同様ですので,訴訟での逆転も考えられません。

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