Q.死亡や後遺障害のために退職した場合に,定年まで勤務した際の退職金との差額を請求できますか。

[定年退職,死亡,退職金,退職金差額]

A.

請求はできると考えますが,勤務先に退職金支給規程があること以外にもいくつかの要件が必要です。
また,そもそも一定の基礎収入で67歳まで働けたとして請求した場合との金額の大小あるいは証明の問題を検討する必要があります。

1 問題の所在は,どこにありますか。   (クリックすると回答)


交通事故の被害者が,死亡したり,後遺障害を負ったために,勤務先を退職することはよくあることです。
その場合に,定年まで勤務して支払われたであろう退職金よりも金額が少なくなってしまいます。
この退職金差額を請求できるかどうか,その場合の金額の計算方法はどうか,ということが問題となります。

退職金支給規程がある会社に勤務していたのだから,当然に支払われる,ということにはいかないのです。
この退職金差額支給権も死亡あるいは後遺障害の逸失利益に属するものです。したがって,支払われたであろうという蓋然性が必要なのです。

2 退職金差額支給権の発生要件はどのようなものでしょうか。  (クリックすると回答)


およそ次のように考えられるとされています。
(1)勤務先に退職金支給規程があること
(2)交通事故による死亡または後遺障害と退職とに因果関係があること
(3)被害者が(事故に遭遇しなければ)定年退職時まで勤務を継続して定年退職時に退職金が支給される蓋然性があること

3 退職金差額の計算は,具体的にはどうしますか。  (クリックすると回答)


(定年退職時に支給されたであろう退職金-現実に支給された退職金)×(死亡または症状固定日から定年までの年数に対応するライプニッツ係数)

退職金差額も逸失利益であり,将来に得られたものを一時金として現在取得するために,中間利息の控除がなされます。

4 具体的な発生要件での問題点は何ですか。  (クリックすると回答)


2をもう一度繰り返します。
(1)勤務先に退職金支給規程があること
(2)交通事故による死亡または後遺障害と退職とに因果関係があること
(3)被害者が(事故に遭遇しなければ)定年退職時まで勤務を継続して定年退職時に退職金が支給される蓋然性があること

(1)については,当然というべきです。

(2)については,死亡との因果関係は当然といえますが,後遺障害の場合に問題となります。それは,後遺障害の程度(等級)との対応です。
1から3級という労働能力喪失率100%という場合には,死亡に準じて検討できますが,残存能力がある場合に問題となります。
4級の労働能力喪失率92%も,残存能力8%というのは現実的な労働能力とは考えられないので,これも準じることができると思います。
5級の労働能力喪失率79%も準じることができるのではないでしょうか。

併合11級(喪失率20%)のタクシー乗務員の事例で複視を理由に肯定した判決があります(大阪地裁平成15年5月30日)。おそらく,この喪失率20%というのが肯定されるかどうかのボーダーであろうと思います。
その場合にも,この判決例のように職種と障害の内容・程度によって判断されると考えられます。

(3)については,死亡または症状固定時における将来の予測(多くは・・・であったろうという「あり得たが消え去った未来予測図」)ですので,総合的な判断とならざるを得ないと思います。
被害者の年齢・職歴・定年退職時までの期間・勤務先の規模・勤務先の業種などの経営状況・勤務先の退職金の支給状況等から判断されているようです。

5 現実的な賠償の観点からのアドバイスは何ですか。  (クリックすると回答)


示談交渉あるいは訴訟実務では,一般的に一定の基礎収入で就労可能年齢である67歳までの逸失利益を請求しております。
その場合には,67歳までということからも退職金差額も感覚的には織り込み済みということで請求をしない場合が多いようにも思われます。
確かに,67歳までの就労可能年齢と退職金差額の問題は理論的には別の問題です。
しかし,基礎収入と就労可能年齢までの年数から考えての逸失利益金額から見て論点を増やしてもという感覚が実務的にはあるかもしれません。

理論的に詰めて考えると,想定される定年年齢を60歳として,
①60歳までの逸失利益
②退職差額金
③61歳から67歳までの逸失利益
と3つに区分して,この合計額となるのではないでしょうか。
しかし,②の点もさることながら,③はあまりにも将来予測になり不確定要素がります。
技巧的に過ぎる上に,③を考えると,そのまま同一金額で単純に67歳まで請求した金額より減少してしまう可能性もあります。
したがって,現実的には立証手段も検討して,いずれが得策かを選択していくことになろうかと思います。

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