Q.脳損傷に伴う幻覚とは何ですか。

[保続,幻視,幻覚,後頭葉,眼球運動,複視]

A.

 

幻覚は,病的な知覚体験です。これに対して錯覚は,外的刺激に対する知覚の変容であって,必ずしも病的なものとは言えません。幻覚は臨床的には陽性視覚性症状として幻視,錯視といわれています。

1 幻視とは
光視(単純幻視),複雑幻視とがあります。

(1)光視(単純幻視)
光の点・線,フラッシュ,虹等のような光が様々な明るさ,色で見えるもの,幾何学的図形や何らかの形に例えられるものから,点や全くの不定形のものまであります。

(2)複雑幻視
人(顔,全体,身体部分),動物,風景,乗り物,その他の物体などが,外的刺激とは関連なしに現れて見えるものです。カラーまたは白黒で,前者では現実とは異なる色彩のこともあります。見える像は静的なことも動的なこともあります。

2 錯視とは
視覚保続とも言われ,外的刺激が時間的・空間的に変容して見える現象です。
反復視と多視とに分けることが出来ます。

(1)反復視
視覚対象が除去されたにもかかわらずその像が見える現象です。視覚対象が取り除かれた(または視線を移した)後,数秒間以上対象が見え続ける場合と,しばらくして再現する場合があります。色はありのまま,ネガのような色,白黒など様々です。

(2)多視
対象物が実際にあるよりも多く,並んでいるあるいは散らばって見える現象です。実物の他にもう一つ見える場合は,いわゆる「複視」といえますが,共同性眼球運動障害の場合と異なり,多視の場合には一側の目で見ても2つに見えます。眼位と物体の関係が静的でも生じる場合,視線または物体が動いた時,像が数珠つなぎに多数見える場合も含まれます。

3 変形視とは
広義の変形視は,視覚対象の形態,大きさ,距離,方向,色,立体感のいずれか,または複数における変容を指します。大脳性の変形視は,眼科的疾患によるものとは異なり両眼性で起こるとされています。変形視には,(狭義の)変形視,大視症,小視症があります。

(1)(狭義の)変形視
視覚対象の全体または一部がゆがんで見える。顔またはその一部に比較的多く現れます。

(2)大視症
視覚対象の一部または部分が,周囲と不釣り合いに大きく見える,縦横の比率が異常なこともあります。

(3)小視症
視覚対象の一部または部分が,周囲と不釣り合いに小さく見える,縦横の比率が異常なこともあります。

4 脳損傷に伴う幻視,錯視
脳損傷に伴う幻視,錯視は,通常は,幻聴を伴わないとされています。また,患者は幻視,錯視が現実ではないことに気付いているものの,それに確信を持てないでいることも多いとされています。病巣部位は,後頭葉とその周辺のことが多いが,損傷範囲が広く中大脳動脈領域ないしは頭頂・側頭葉に及ぶと症状は出現しにくくなるとされています。

(石合純夫著 「高次脳機能障害学」医歯薬出版(株)p112から115参照)

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