Q.交通事故紛争処理センターにあっせん申立をしたのに,損害保険会社(あるいは共済)のセンターへの申し出により訴訟移行となることはありますか。
1 交通事故紛争処理センターの運営要領
平成13年1月1日以降からセンター内部の訴訟移行審査委員会が損害保険会社(あるいは共済)から訴訟によるように要請があった場合には,個別具体的に判断をしています。しかし,その判断基準は明らかにはされていません。
そして,実際にセンターにあっせんを申し立てたものの,訴訟に方針転換する事例も少なからずあるようです。
2 訴訟移行となる場合
判断基準は明らかになっていませんが,センターの30周年記念論文集に関係する論文が掲載されています。
(交通事故損害賠償の新潮流 ぎょうせい 2004年9月1日 p14から30)
それによると以下のとおり分類されるということです
①事故状況,損害等につき,当事者の主張が著しく相違し,紛争処理の前提としての事実の把握が不可能なもの
②医学的判断が是非必要とされるもの
③係属中の訴訟に関係するもの
④単なる交通事故でない可能性があるもの
3 具体的には
①は,事故状況,損害について,相違点が多すぎたり,その幅が大きすぎているため,証拠に基づいて裁判所に事実の認定が必要なもの場合です。
②は,事故による受傷であるのか,あるいは後遺障害の程度を判断するに当たって医学的判断が必要であったり,前の事故や既往症の影響の有無や程度を判断するに当たって必要な場合です。
③は,そもそも訴訟係属中の事案はセンターとしても受け付けませんから,共同不法行為事案で別件が既に訴訟係属している場合です。
④は,マイルドに表現されていますが,事故偽装が疑われるような,いわゆるモラルリスクに関わるような事案です。
4 むすび
交通事故紛争処理センターは,遅延損害金,弁護士費用を除いて考えると,ほぼ訴訟基準に近い損害額を認定されることから,無料で迅速な解決が望めます。
しかし,①から④で述べたような場合には,訴訟移行となる可能性もあります。
特に,事故状況,認定等級を含む損害に隔たりがあるような場合,また,医学的判断が争点となる場合には,自賠責の認定等級にもよりますが,示談あっせんを前提とするセンターではなく訴訟を当初から検討すべきだとも言えます。