Q.駐車場内における歩行者と車の事故の過失割合はどうなりますか。

[子ども,小学生,幼児,歩行者,被害者側の過失,過失割合,過失相殺,駐車場,駐車場内]

A.

駐車場は,車両のみならず乗降する人の往来があるところでもあります。
とりわけスーパー,商店街に付設されている駐車場あるいはサービスエリア等の駐車場は,歩行者にとり極めて危険な場所でもあります。
したがって,駐車場内で通路を走行したり,あるいは,駐車区画(スペース)から発進する車両には,左右・前後の安全を確認する義務が課せられております。
事故が起こった場合には,車両は歩行者に比べて重い責任を負い80ないし90%(あるいはそれ以上)の過失となる可能性も大きいと言えます。

1 スーパー駐車場内からの発進
「駐車場には相当数の車両が駐車しており,家族連れを含む買物客が駐車場内を行き来している状況。」として,加害車両運転者9:被害者1の過失割合となりました。(東京地判平成15年7月29日)

2 商店街の駐車場内の通路における事故
「駐車場の駐車車両と商店街との間の通路であり,その幅員が約5mである」として加害車両運転者9:被害者1の過失割合となりました。
(東京地判平成24年2月14日)

3 サービスエリアの駐車場内の通路における事故
サービスエリアも車両のみならず,歩行者の往来の多い場所です。
そのため車両の過失が大きいとされますが,「漫然と通路を横断した」として,車両が頻繁に通行する通路を斜め横断した被害者にも過失が大きくなる可能性もあります。
その結果として加害車両運転者8:被害者2の過失割合となりました。
(東京地判平成19年11月28日)

4 郊外型ショッピングモール駐車場内の通路における事故
被害者の過失も認められる場合でしたが,本件では,加害者が「度重なる違反歴で免許停止処分を受け,本件事故当時,運転免許停止中であった等から」過失相殺減額を行うことは相当でないとしました。
(京都地判平成19年10月9日)

5 パチンコ店の駐車場内での転倒後の轢過事故
歩行者が仮に事故と無関係に転倒したとしても,車両の往来には,注意する義務があるようです。
転倒した状態で被告乗用車に左手足を轢過されたとする60歳女子につき,轢かれることのないよう速やかに体勢を立て直す等の措置を講じるべきであった等から,過失を2割と認定しました。
(名古屋地判平成21年2月27日)

6  駐車場(トラックステーション)内で運転手の歩行者と大型貨物車の衝突事故
駐車場(トラックステーション)内で運転手の歩行者と被告大型貨物車の衝突につき,「トラックステーション内では人より車両が優先であるかのような主張」は到底採用できないとし,ステーション内でも社屋との行き来することの多い場所で進行方向への注意を怠った被告の過失割合を90%と認めました。
(札幌地判平成21年12月21日)

7  開店直後のパチンコ店駐車場内での歩行者と低速走行車両の接触事故
車両と人の往来で混み合う状況で,低速で走行したとしても,車両の責任は重いとされます。
歩行者10%,車両90%とされました。
(大阪地判平成22年11月16日)

8  病院駐車場内の自動車と車いすの衝突事故
車いすで病院に来た老夫婦がバックした自動車が衝突して,その自動車が損傷した賠償を請求された事案です。「車いすは道路交通法上は歩行者と同様に保護されるべきものとされており(道路交通法2条3項1号),また,被告は高齢者であったこと」から老夫婦の過失は5%となりました。(東京地判平成23年10月21日)


判決の詳細は続きをご覧下さい。

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1 スーパー駐車場内からの発進
「駐車場には相当数の車両が駐車しており,家族連れを含む買物客が駐車場内を行き来している状況であったから,車両の運転者としては,小さな子どもが本件駐車場内を歩行していることを予測して,前後左右の安全を十分に確認した上で,車両を進行させるべき注意義務があった。」として,加害車両を駐車区画から発進させるに当たり,左側に気をとられて,右後方を歩行してきていた幼児(注:本件事故により死亡)を確認を怠り気付かずに衝突させた加害車両の運転者の責任を認めました。しかし,その幼児の親にも自分の車両の方に気をとられて幼児との距離を7.8メートル開けてしまった被害者側の過失があるとしました。その結果として加害車両運転者9:被害者1の過失割合となりました。(東京地判平成15年7月29日)

2 商店街の駐車場内の通路における事故
「駐車場の駐車車両と商店街との間の通路であり,その幅員が約5mであることからすると,同通路を走行する自動車は,通路上を横断しようとする歩行者の存在を予測して,その有無及び動静を確認し,安全な速度と態様で走行すべき義務がある」として,約5mの距離で歩行者を発見してブレーキをかけたものの衝突した加害車両運転者の責任を認めました。他方では,通路を走行する車両の有無及び動静を確認すべきことを怠った歩行者にも過失があるとしました。その結果として加害車両運転者9:被害者1の過失割合となりました。
(東京地判平成24年2月14日)

3 サービスエリアの駐車場内の通路における事故
サービスエリアで休憩を取り買い物をしてから,駐車していた自動車に戻ろうとして通路を徒歩で横断する途中で加害車両と衝突して転倒したという事故です。
加害車両運転者は,通路を時速約25キロメートルで走行しており,助手席にいた父親から前方に駐車しているトラックにフェラーリが積載されていることを告げられ,そのフェラーリに気をとられているうちに,被害者が約7.5メートル前方を歩行していることに気付いたものの間に合わなかったというものです。
「車両の有無及び動静を十分確認する義務があるのに,漫然と通路を横断した」として,車両が頻繁に通行する通路を斜め横断した被害者にも過失があるとしました。
その結果として加害車両運転者8:被害者2の過失割合となりました。
(東京地判平成19年11月28日)

4 郊外型ショッピングモール駐車場内の通路における事故
大規模小売店駐車場内で佇立中のAをオフロード車が轢過,死亡した事案につき,A(注:当時8歳の小学生)は見えにくい時刻に,わずかに車両用通路に入って佇立中で全く落ち度がないとまではいえないが,歩行者誘導帯とカート置場近くで車両用通路にわずか入った地点で轢過するまでAに気付かず,度重なる違反歴で免許停止処分を受け,本件事故当時,運転免許停止中であった等の被告の過失に対し,Aに過失相殺減額を行うことは相当でないとしました。
(京都地判平成19年10月9日)

判決の結論部分を引用します。

①被告は,前方注視義務という運転者にとって最も基本的な注意義務を怠って,本件事故を発生させたこと,
②太郎が佇立していた位置が本件車両用通路の中央部分ではなく,しかも歩行者用誘導帯及び本件カート置き場近くであったこと(従って,大規模小売店に設置された大規模駐車場を利用する運転者としては,歩行者の通行を予想して運転をしなければならなかったにもかかわらず,被告は,衝突し轢過するまで太郎に気付いておらず,被告の前方不注視の程度には大きなものがあると考えられること),
③被告は,本件事故当時,運転免許停止中であったこと等の諸事情が認められること
からすると,太郎,原告一郎又は原告花子に何らかの落ち度を観念することができるとしても,法の基礎をなす衡平の観点からすれば,本件において太郎及び原告らの損害額を算定するにあたって,過失相殺減額を行うことは相当でないものというべきである。

大型のショッピングモールの建設が盛んに行われています。本件は,その通路に8歳の小学生が,少し入って立っていてオフロード車に轢過されて死亡するという痛ましい事故です。「佇立していた位置が本件車両用通路の中央部分ではなく,しかも歩行者用誘導帯及び本件カート置き場近くであったこと」が大きな要素となりますが,被害者の親も知覚にいたところ被害者側の過失が全くとられなかったのは,加害者が当時運転免許停止中であったことが大きいかもしれません。

5 パチンコ店の駐車場内での転倒後の轢過事故
夜間,パチンコ店駐車場内で,転倒した状態で被告乗用車に左手足を轢過されたとする60歳女子につき,轢かれることのないよう速やかに体勢を立て直す等の措置を講じるべきであった等から,過失を2割と認定しました。
(名古屋地判平成21年2月27日)
この判決の被害者である原告の過失判断部分を引用します。
「原告においても,夜間,駐車場という自動車の往来を予想しうる場所に転倒したのであるから,自動車に轢かれることのないよう速やかに体勢を立て直す等の措置を講じるべきであったが,これが遅れた面があることは否定しがたいというべきである。もっとも,被告においては,自動車運転上の基本的注意義務である前方注視を怠り,交通弱者である歩行者を轢過しているのであって,その過失は軽視できないというべきである。そうすると,上記事故態様を総合的に考慮し,原告の過失を2割として過失相殺を行うことが相当である。」

パチンコ店の駐車場内は危険であることから,転倒した場合に「自動車に轢かれることのないよう」する義務があると言うことですね。

6  駐車場(トラックステーション)内で運転手の歩行者と大型貨物車の衝突事故
駐車場(トラックステーション)内で運転手の歩行者と被告大型貨物車の衝突につき,「トラックステーション内では人より車両が優先であるかのような主張」は到底採用できないとし,ステーション内でも社屋との行き来することの多い場所で進行方向への注意を怠った被告の過失割合を90%と認めました。
(札幌地判平成21年12月21日)
この判決の双方の過失に関する部分を引用します。
「本件トラックステーションは,荷物の積み降ろしのため,頻繁に大型貨物自動車等が出入りする極めて危険な場所であり,そのことは,原告においても認識していたものと認められる。にもかかわらず,原告は,同ステーション内を小走りで進行し,大型貨物自動車である被告車両に気付かなかったというのであるから,当時の天候が吹雪であったことを踏まえても,周囲の動向の把握を怠った落ち度があるといわなければならない。
しかし,他方,本件トラックステーションは車両運転手がA会社社屋と同ステーション内に停車した車両との間を行き来することの多い場所であり,このことは被告においても認識していたものと認められる。にもかかわらず,被告は,進行方向への注意を怠ったまま被告車両を進行させてこれを原告に衝突させたのであるから,その責任は重大であるといわなければならない(なお,被告は,本件トラックステーション内では人よりも車両が優先であるかのような主張ないし供述もするものの,到底採用できない。)。
以上を総合考慮すると,過失割合は被告:原告=9:1を相当と認める。」

トラックステーションは,大型貨物自動車がひっきりなしに出入りする場所であるために,ともすれば,車両優先の感覚になりがちなのかもしれませんね。特に,事故当時は吹雪であったとのことで急いでいたのかもしれません。しかし,そのような「身勝手な」論理は通用しないと言うことでしょうか。

7  開店直後のパチンコ店駐車場内での歩行者と低速走行車両の接触事故
被告春子は,パチンコ店の駐車場である本件現場を進行するに当たっては,開店直後という時間帯であり,店舗へ入場しようとする多くの来場者が歩行していることが十分に予想されたのであるから,周辺の動静を十分に確認して走行すべき注意義務があったにもかかわらず,被告車を駐車場の駐車区分に駐車させることにもっぱら関心を集中させていたため,自車周辺に対する注意を怠り,本件事故を発生させたものである。したがって,被告春子は,本件事故について,もっぱら過失のあることが明らかである。
もっとも,原告の方も,本件現場が駐車場であり,多くの来場者の車両が駐車場所を求めて走行していること,特に当時は開店直後という時間帯であって周囲が騒がしく,駐車しようとする車両が多い状況にあることを認識できたにもかかわらず,結局,比較的低速で走行していた被告車が衝突するまで,これに気が付かなかったという点において,周辺の車両の動静に対する注意が不十分な点があり,一定の過失があるといわなければならない。
したがって,これら諸般の事情を勘案すれば,本件における過失割合は,原告10%,被告春子90%とみることが相当である。
(大阪地判平成22年11月16日)

開店直後のパチンコ店の駐車場は車両と人間の往来が多くて,我先にと急いでいるために,とても危険なのだと思います。パチンコをやらないので実際の状況を知りませんが。
それでも,車両の注意義務が大きいと言うことです。低速走行していただけではだめですと言うことなのでしょう。しかし,低速であったがために,被害者も動静を注意すれば回避できた余地があったために10%の過失をとられています。

8  病院駐車場内の自動車と車いすの衝突事故
(注:本件判決は,自動車所有者が原告として車いすに車両を傷つけられたとして車いすの人を被告として訴えたものです。結論は,原告95%,被告5%の過失割合となりました。)

原告は,病院建物出入口に一番近い駐車スペースに原告車を駐車しようとして,原告車を後退させていたのであり,病院建物出入口を出入りする歩行者や車いすに乗った患者等が本件駐車場を通行する可能性は十分予想し得るのであるから,原告車を後退させるに当たっては,後方左右の安全確認を十分行うべき注意義務があったというべきである。
そして,原告は,後退を開始する前に本件車いすの存在を認識していたのであり,また,本件車いすは,原告車の左側から原告車に接近してきたものと認められるから,原告が,原告車を後退させるに当たって,本件車いすの動静に注意し,後方左右の安全確認を尽くしていれば,本件車いすが接近してくるのに気が付き,すぐに停止するなどして本件車いすとの衝突を回避することができたことが認められる。
しかるに,原告は,後退開始前に本件車いすの存在を認めた後,その動静を注視することなく,本件車いすと衝突するまで,本件車いすが接近してくるのに気が付かずに後退を続けたことが認められるから,安全確認義務を怠った過失が認められる。
本件事故の態様,原告と被告の過失の内容に加え,本件駐車場は病院の敷地内の駐車場であって道路交通法2条1項1号所定の「道路」に該当しないと解されるから,本件駐車場には道路交通法の適用はないものの,本件車いすは道路交通法上は歩行者と同様に保護されるべきものとされており(道路交通法2条3項1号),また,被告は高齢者であったことを併せ考慮すると,本件事故に関する過失割合は,原告95%,被告側5%とするのが相当である。
(東京地判平成23年10月21日)
本件は,車いすで病院に来た老夫婦がバックした自動車が衝突して,その自動車が損傷した賠償を請求された事案です。「車いすは道路交通法上は歩行者と同様に保護されるべきものとされており(道路交通法2条3項1号),また,被告は高齢者であったこと」から老夫婦の過失は5%となりました。

なお,本稿の執筆に当たっては,日本加除出版(株)発行「交通事故における過失相殺率」(伊藤秀城著)を参照させて頂きました。

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