Q.加重障害とは何ですか。また,損害賠償額の認定に影響があるのでしょうか。

[加重障害,労働能力喪失率,既存障害,減額,素因減額,自賠責保険,赤い本]

A.

加重障害とは,自賠責における考え方です。どのような場合に加重障害となるのか。
そして,損害賠償額認定にどのような影響(減額)があるのか問題となります。

1  加重障害とは何ですか。
      一般に加重障害とは,既に後遺障害のある被害者が,2度目の事故により傷害を受けたことによって,同一部位について後遺障害の程度を加重した場合における2度目の事故による後遺障害をいいます。
      すなわち,
      (1)既存の後遺障害がある
      (2)2度目の事故による後遺障害が生じた
      (3)上記(1)(2)の障害が同一部位である
      (4)(2)により(1)の後遺障害の程度を加重された
      という場合の(2)を加重障害と呼ぶという自賠責上の概念です。

2 加重障害となる同一部位とは何ですか。
    自賠責支払い基準が準拠している労災認定基準では,「部位」をさらに生理学的な観点から35種に細分した「系列」と解して,すなわち「同一部位」とは「同一系列」と解しています(通説および自賠責認定実務)。
    すると,「神経系統の機能又は精神の障害」を系列で考えると,脳・せき髄という中枢の障害も局部の神経の障害も同一部位となってしまうことになります。
    たとえば,高次脳機能障害あるいはせき髄損傷により5級の認定を受けたとして,前の事故で頚部痛14級9号の認定がされていれば同一系列=同一部位であり加重障害になるため,5級から14級の自賠責保険金額を引いた金額となります。
    しかし,これに対して「同一の部位」とは,損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位を言うと解すべきであるという判決が最近出されて注目されています。(東京高裁平成28年1月20日判決)。
    既存障害が最初の事故による後遺障害が胸髄損傷による下肢麻痺(1級1号)であるのに対して,2度目の事故による頸椎捻挫による両上肢痛の残存でした。
    自賠責認定実務では,確かに同一系列ですが,損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位ではないというのです。

3 加重障害を素因減額として賠償においても考慮するのですか
    逸失利益については,素因減額とするかどうかはとも欠くとして,最初の事故の影響を考慮して減額をするという考え方が多いようです。考え方は次の3つがあります。
   
    ①2度目の事故によって新たに生じた労働能力の喪失の程度を認定し,その直前の収入の金額に,当該労働能力喪失率を乗ずる方式
    ②2度目の事故後の後遺障害による逸失利益の金額から,二度目の事故による受傷がなかったとした場合の既存の後遺障害のみによる逸失利益の金額を控除する方式
    ③2度目の事故後の後遺障害による逸失利益の金額から,既存の後遺障害を理由に素因減額をする方式

    後遺障害慰謝料については,見解が分かれています。
    ①既存障害は斟酌せず2度目の事故による慰謝料額とする。
    ②現存障害と既存障害に相当する慰謝料額の差額とする。
    ③素因減額で調整する。
    裁判例も3分できるような状況であるが,①が有力となりつつあるとされています(浅岡千香子裁判官「加重障害と損害額の認定」2006年版赤い本下巻p157)。

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