Q.学生の休業損害は,認められるのでしょうか。
学生(大学生,短大生,浪人生)が,事故によって,アルバイト収入がなくなれば休業損害として認められます。
当たり前のようですが,学生は勉強することが本分ですので休業損害が認められる限度はあります。
事故により治療で卒業が遅れたり,就職遅れが生じます。
卒業遅れと就職遅れは違います。
判決例では,一定の条件で就職遅れについて休業損害として認めています。
1 アルバイト収入について休業損害を認めるでしょうか。(クリックすると回答)
学生は,学業を本分とするものであり,アルバイトの目的はパソコンや引越に備えて家具の購入といった副次的なもので短期的なものが予想されるというのが,裁判所の基本的な考え方です。
そのために,両立不可能と思われるような金額や就労時間を主張する場合には,十分な説明が必要だろうと考えられます。
さて,大学生の傍ら,パチンコ店ホール係のアルバイトをしていた被害者について,月平均稼働15日として,休業損害311万0100円を認めた判決があります(さいたま地裁 平成15年12月16日判決<出典> 交民集36巻6号1611頁)
本件は本件事故以前3ヵ月(平成11年9月~11月)の被害者の実働実績が22日,11日,14日とばらつきがあり,1日7時間15分勤務であったことから,果たして学業との両立が可能であるのか,どの点で線引きをすべきかが問題となりました。
判決は,「被害者の月平均稼働日数は多くとも15日程度と考えるのが相当である。」1日7時間15分勤務のアルバイトを大学生が毎月20日以上長期間続けることは一般に困難であると考えられることなどから月の半分は,1日7時間15分勤務のアルバイトが可能であったという判断です。
結論としては妥当です。
大学3年生になると,就職活動をせずにアルバイトに精を出していると卒業するつもりがないと疑われる可能性もあります。
大学3年生のアルバイト収入について就職活動のために直ちにバイトを自粛しなければならない状況にはなかった等として事故前日までの102日間の実収入を基礎収入に,症状固定まで384日間(休業損害)199万円余を認めた判決があります(名古屋地判平成23年2月18日 自保ジャーナル・第1851号)。
この判決では,まだ大学3年生になったばかりの時期であり,すぐに本格的な就職活動のためにアルバイトを自粛しなければならないような状況になるともいえないとしております。
さらに,本件事故当日もアルバイトに行く予定であったこと,本件事故当日のように大学の講義が終わってからの時間帯にアルバイトに行くということであれば,学業や就職活動とアルバイトを両立することは十分に可能であるとしております。
2 事故により卒業が遅れ,就職が遅れる分について休業損害は認められるのでしょうか。(クリックすると回答)
就職遅れによる損害は認められています。
事故当時大学2年生につき,事故により留年し1年半就職遅れが生じた場合に,実際に就職ができたことから,賃セ男性大卒20歳から24歳平均を基礎(収入)に,1年半分を休業損害として認めた判決があります。(東京地判平成12年12月12日 自動車保険ジャーナル・第1387号)。
就職遅れというのは,卒業遅れとは異なります。
本件では,4年生大学2年生で事故に遭いました。
したがって,具体的な就職活動については,開始していません。
本件は,留年をし,実際に1年半遅れで就職したことから「就職遅れ」が認められたものです。
それでは,大学に入学もしていない大学浪人生はどうなるのでしょうか。
大学浪人生は無職ですが,事故によりさらに浪人を余儀なくされたものです。
その点について,卒業が必然的に1年遅れることになるので就職遅れとして休業損害を認めたものがあります。
大学浪人生(男)につき,事故の翌年大学に入学した場合に,事故がなければ事故の年に入学していたものと認められるとして,賃セ男性大卒20歳から24歳平均を基礎(収入)に,1年分を認めました(東京地判平成13年3月28日 自動車保険ジャーナル・第1409号)。
判決は,大学受験を治療のためにすることができずにさらに浪人をしたことをもって,「就職遅れ」と認めました。
大学に入学すれば,そのまま確実に卒業でき,就職もできることを前提にしているものです。
なお,本件は,原告は浪人による逸失利益という項目で就職までの期間が延びた損失として請求していたものを判決では,休業損害として整理しています。