Q.介護に関して将来にわたって定期的に交換することが必要となる物品(車いす,補助器具等)の費用を一括して請求できますか。
介護に関する装具・器具等は必要があれば認められます。
また,相当期間で交換の必要があるものは将来の買替費用も原則として認められるとされています。
1 介護に関する装具・器具等にはどのようなものがありますか。 (クリックすると回答)
車いす(手動,電動,入浴用)
電動ベッド,介護支援ベッド
エアマットリース代
介護用浴槽,入浴用介護リフト,入浴用いす
体位交換器
いす式階段昇降機
等があります。
2 他の損害項目との関係はどうなりますか。 (クリックすると回答)
これらの費用に含まれるとされた費用が,将来の治療関係費,雑費,家屋改造費等に含まれるとして認められた場合には,二重に賠償を認めることはできないとされています。
また,装具・器具等購入費が認められ,介護の負担が軽減されると認められる場合には,将来付添費(介護費用)の算定に当たり考慮されることになろうとされています。
(交通損害関係訴訟 青林書院 八木・佐久間編 p198)
3 将来の買替に係る金額の算定方法はどうですか。 (クリックすると回答)
被害者の余命期間において各買替えまでの,それぞれの装具・器具等の耐用年数に対応する中間利息を控除した現在価額(現価)の合計額が損害として認められるものと取り扱うことが通常とされています(交通損害関係訴訟 青林書院 八木・佐久間編 p198)。
一例として,
介護ベッド(購入価格664,125円)の耐用年数は8年程度であるが,5年ごとに買い換えるものとして,症状固定時からの平均余命57年間の現価額を算出すると,223万9,230円となります。
ライプニッツ方式による5年後,10年後,15年後,20年後,25年後,30年後,35年後,40年後,45年後,50年後,55年後の現価係数です。
なお,現価係数とは,あらかじめ,目標金額とする金額から現在必要となる金額を示す係数で将来の額から運用率を考慮して現在必要な額(現価)を求めるときに使用します。
現価係数=1/(1+r)n乗
r=年利率
n=年数
逸失利益と同じくライプニッツ方式ですので,年5%複利計算となります。
4 主なものの耐用年数は,どうなっていますか。 (クリックすると回答)
車いすが4年ないし5年,(なお,手押し式(手動)と電動式での違いを分ける考え方があります。)
また,介護用ベッドが8年ないし10年です。
(交通損害関係訴訟 青林書院 八木・佐久間編 p198)
そのほかのものとしては以下のとおりです。
判決例であり,絶対と言うことではありませんのでご注意下さい。
浴室用スリングシート=2年
特殊寝台専用マットレス=3年
体位変換補助用具=3年
車椅子付属品=5年
特殊寝台専用手すり=5年
ベッドサイドテーブル(特殊寝台付属品)=5年
トイレ用手すり=5年
浴室移乗台=5年
入浴時の移動式リフト=6年
情報通信支援用具,スプリント,マウススティック=6年
浴室用手すり(1式7万円余)=10年
クレーターマットレス=10年
乗り移り用リフト=10年
入浴用車いす=10年
電動式書見台=10年
また,車いす等で買替前に定期的な修理が予定されているものについて,その将来分の費用が認められることがあります。
5 装具・器具等の購入の立証方法はどうですか。 (クリックすると回答)
領収証,見積書,明細書,カタログ,被害者の生活状況に関する報告書・陳述書等が提出される必要があり,装具・器具等の必要性・相当性に関する医師の意見書の提出が必要となる場合もあります。
また,装具・器具等の耐用年数についても立証される必要がありますが,医師やメーカー等の耐用年数に関する意見書のほか,厚生労働省や各自治体が公表している装具・器具等の耐用年数に関する資料等が有力な証拠となるとされています。
(交通損害関係訴訟 青林書院 八木・佐久間編 p198,199)
6 逸失利益と同じように中間利息を控除することの当否はいかがでしょうか。 (クリックすると回答)
以上のとおり実務及び裁判例の取り扱いとしては,耐用年数を考慮した上で認められる将来の買替費用についても(ライプニッツ係数による)中間利息を控除するのが一般的な取り扱いです。しかし,介護に関する装具・器具等は,逸失利益とは異なり積極的な支出,しかも確実な支出が予定されているものです。
その点に着目して義足の買替(3年に1度の交換)費用算定に際し,中間利息を控除しないで認定した判決(福岡高裁平成17年8月9日判決)が注目されます。
(「交通事故賠償法第3版 藤村和夫・山野嘉朗著」日本評論社p257)
福岡高裁平成17年8月9日判決については,次の記事を参照して下さい
☆将来の義足交換費用について中間利息控除せず平均余命まで16回分の全額をそのまま認めた判決です。---交通事故賠償は,むさしの森法律事務所(リンク)