Q.主婦(家事従事者)の後遺障害(後遺症)の基礎収入の考え方はどのようなものですか。
主婦とは,家事従事者を言います。これは,休業損害でも同じことです。
従って,男性でも家事従事者となります。
一方,男女問わず,自分だけのために家事をしているいわゆるお一人様は家事従事者とはなりません。
なぜ,主婦の後遺障害(後遺症)の逸失利益が問題となるかと言えば,対価である金銭をもらわない「労働」だからです。しかも,拘束時間の把握もできないからです。
そこで,賃金センサスにより女子平均賃金が使われますが,問題は家事従事者と言えるかどうか,そして年齢により全年齢平均か,年齢別平均のどちらによるかです。
1 一般的にはどうなっているのですか。 (クリックすると回答)
いわゆる赤い本のまとめでは,次のようになっています。
賃金センサスの学歴計女性労働者の全年齢平均の賃金額とします。
ただし,実際には,年齢別では全年齢平均より高い年齢層があります。その場合には裁判実務的には年齢別平均賃金を用いていると言えます。
有職の主婦(主婦以外に仕事をしている)の場合,
現実収入>平均賃金であれば実収入
現実収入<平均賃金であれば平均賃金
とします。
また,平均賃金+実収入としないのが一般です。
2 全年齢平均ではなく年齢別平均を用いることはできるのでしょうか。 (クリックすると回答)
全年齢平均を形式的に当てはめると年齢によっては,年齢別と逆転して低くなってしまいます。
その場合にはどうするのでしょうか。
例えば,症状固定時37歳の主婦について全年齢平均ではなく,年齢別平均を基礎収入として逸失利益を算定しました(神戸地裁 平成12年9月26日判決 平成25年版赤い本p85)。
3 逆に,年齢別では金額が全年齢より低くなる場合に全年齢を用いることはできるますか 。 (クリックすると回答)
60歳を超える場合には,年齢別が全年齢より低くなります。
しかし,高齢者となっても,十分に家事をこなして,さらにパートの勤務をしていらっしゃる場合も多くあります。
しかし,全年齢平均全額とするには働いていて相応の収入のある場合のようです。
割合的にする場合もあります(女子全年齢平均賃金の80%とする。さいたま地裁 平成17年2月28日判決 自動車保険ジャーナル・第1586号)。
4 家事労働の実態はどこまで必要なのですか。 (クリックすると回答)
実態として微妙なケースがあります。
①家事労働の対象となる子とは同居していない場合
主婦(当時58歳)は,事故当時長男とは同居していないものの,一定頻度で訪れていたため,家事を行っていました。
また結婚後も長男は同居をのぞんでいるという事情もありました。そこから,家事労働を行っていたと認められました(東京地裁 平成19年12月20日判決 自動車保険ジャーナル・第1743号)。
②内縁関係の場合
被害者(症状固定時31歳)は,婚約中で同居しており,家事をしていたほかに店の手伝いをする予定でした。そのことから,女性労働者年齢別平均を基礎収入としました。
(東京地裁 平成21年11月12日判決 自保ジャーナル・第1816号)
③無職者一人暮らしだが子と同居する可能性があった場合
無職者一人暮らし(当時69歳)について休業損害は否定したものの,長男家族と同居してその家事を分担する等の就労の可能性があり,労働意欲及び能力は有していたとして女性65歳以上平均としました。
(東京地裁 平成22年2月9日判決 交民集43・1・123)
④同居の実態が実際にあったかどうか微妙な場合には,認められても,割合としても30%程度と低くなります。(大阪地裁 平成18年6月26日判決 自動車保険ジャーナル・第1656号)
5 兼業主婦の場合は,どうでしょうか。 (クリックすると回答)
既に1で申し上げたとおり,現実収入と平均賃金(多くは,全年齢学歴計女性平均)との比較をして高い方となります。
そして,現実収入+平均賃金とはしません。
その理由としては,「その被害者の従事していた家事労働はもともと制限されたものであったことから,その被害者の得べかりし利益については,そのような取り扱いをすることによって,これを金銭的に評価することができるとの考え方による。」とされています(交通損害関係訴訟 青林書院 佐久間邦夫・八木一洋編集 p80)。
ところで,兼業主婦(当時45歳)で家事労働に従事するとともに,夫の経営する音楽教室でピアノ講師として週3日の割合で時間割の講座を持つ形で就労し,月10万円の給与を得ていた場合に,年齢別平均賃金を家事労働部分に充て,それ以外に月10万円の現実収入を加算した判決例があります。
名古屋地裁 平成18年12月15日判決
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1712号
これについては,一見すると,現実収入+平均賃金(年齢別)を認めたようにも思われます。
しかし,この判決の理解としては, 全年齢平均が相当でも,その金額よりも,フルタイムで働いた場合に得られたであろう金額がかなり大きいと推定される場合には,賃金センサス金額に少し上乗せをすることがあると言うことだと思います。
したがって,原則を変更するものではないと考えます。