Q.横断歩道上での対向する歩行者と自転車の事故における過失割合はどうなりますか。---交通事故賠償は,むさしの森法律事務所
この点は,現時点では議論が統一されていません。
しかし,「歩行者の基本過失相殺率は0%」として例外を基本的には認めるべきではありません。
これに対して,歩行者にも原則として一定の基本過失相殺率を認める(10%)見解もありますが,賛同できません。
1 日弁連分析ではどうなっていますか。(クリックすると回答)
日弁連交通事故相談センターでは,「自転車事故過失相殺の分析」(ぎょうせい 平成21年9月25日初版)において,この点も分析しております。
同書p117では,「法規制上又は運転慣行上,横断歩道上の歩行者は,絶対的に近い保護を受けているといえる。」として,「歩行者の基本過失相殺率は0%」としております。
但し,「歩行者の横断歩道上での立ち止まり」及び「歩行者が自転車横断帯を横断していた場合」には歩行者の過失相殺の可能性があることを示唆しております。
具体的な過失相殺率は示されてはおりません。
2 横断歩道上での対向する事故で歩行者にも過失相殺を肯定する見解とは(クリックすると回答)
自転車が横断歩道を走行する際に,周囲の歩行者の安全に対して通常の安全配慮義務を上回る特別の注意義務が負わされているとは解されないこと,
反対に,歩行者も自転車と混在しうる空間を歩行する以上,周囲に対する最低限の安全確認義務を負うべきであると解する。
そこで,歩行者の過失相殺率については10%を相当とする。
(「交通事故損害賠償実務の未来」p198 法曹会平成23年3月30日初版)
3 歩行者にも過失相殺を肯定する見解に対する反論はどうですか。(クリックすると回答)
道交法施行令2条1項には,「横断歩道を進行しようとする普通自転車は,・・・・・」という規定があるので,
道交法2条1項4号が横断歩道を「歩行者の横断歩道の用に供するための場所」としているにもかかわらず,自転車が横断歩道を進行することを予定しているものといえそうである。
しかし,自転車も通行できる「歩行者の用に供するための場所」である点で,横断歩道は自転車の通行が許容されている場合の歩道と変わりがない。
しかも,歩行者としては,横断歩道の付近では横断歩道を横断することが義務づけされている(道交法12条1項)のに対し,
自転車は,別に横断歩道を横断しなくてもよいのにあえて横断歩道を横断しているのであるから,歩行者と自転車の混在という状態を引き起こしているのは明らかに自転車の方である。
(中略)
自転車が横断歩道の少し脇を横断することによって容易に自転車と歩行者の安全な棲み分けがなされ得るのであるから,
そのように容易な配慮もせずにあえて横断歩道を通行する自転車に,原則として100%の過失が認められることに何ら不公平な点はないと考える。
(「交通事故損害賠償実務の未来」p198より 法曹会平成23年3月30日初版)
議論としては,まだ始まったばかりであり,裁判例も現時点では分かれる可能性がある論点です。
結論としては,歩行者として自転車が横断歩道を通行することを前提に注意義務を課される,
つまり過失相殺をされるというのは,(交通)優者の危険負担の原則にも反すると考えます。
したがって,自転車の過失100%として歩行者に過失を課さない考え方に賛同します。