Q.むち打ち損傷,頚椎捻挫,外傷性頚部症候群というのは,どのような関係になっていますか。
むち打ち損傷という表現は,現在ではほとんど俗称に近く医療現場,特に診断書ではあまり用いられません。
頚椎捻挫が,それに代わる主要な名称です。
そして,頚椎捻挫は外傷性頚部症候群という大きなくくりの一つです。
1960年代に自動車の急増,いわゆるモータリゼーションによる交通事故の増加に伴い,問題化したものです。
頚椎全体が鞭のようにしなることに例えていわれたものです。
しかし,「むち打ち損傷」が一時期に不治の病とマスコミ等で報道されたため,現在では医療現場では傷病名として使用しないことが多く,むしろまれと言われています。
頚椎とは本来の意味は首の骨です。捻挫というのは,捻転つまりひねったことを言います。
頚椎捻挫とは,頚椎部軟部組織(筋肉・靱帯等)の損傷です。但し,骨折・脱臼(いわゆる骨傷)を伴わないものをいいます。
頚椎部軟部組織(筋肉・靱帯等)と頚椎を含めたものが厳密には頚部です。
頚椎捻挫ではなく(外傷性)頚部損傷という用語を用いた診断書もありますが,実際には頚椎捻挫と同じ意味で使っていることが多いと思います。
また,接骨院(整骨院)における施術証明書・施術費明細書では頚椎捻挫ではなく頚部捻挫の用語を用いることが多いと聞いていまが意味は同じです。
海外では,WAD=whiplash-associated-disorders(直訳するとむち打ち関連症候群でしょうか。)というとらえ方が出てきており,現在では日本もこれにならっています。
つまり外傷性頚部症候群として大きくとらえて,頚椎捻挫をその一つの型(タイプ)としています。
外傷性頚部症候群は,3つの型(タイプ)があり頚椎捻挫以外では
神経根損傷型
脊髄損傷型
があります。
この2つについても,外傷性頚部症候群と言う場合には,骨折・脱臼(いわゆる骨傷)を伴わないものであることは頚椎捻挫と同じです。
4 治療の途中で相手方保険会社(共済)からMRI検査を勧められるのは,なぜですか。(クリックすると回答)
単なる頚椎捻挫の場合には,外傷性頚部症候群であっても軟部組織中心の傷害です。
しかし,頚椎からの末梢神経を圧迫して神経障害が出現している可能性があります。
したがって,MRI検査を勧めるのは,神経圧迫を示す画像所見を示してほしいというメッセージです。
5 外傷性頚椎(椎間板)ヘルニアの診断名の場合には「有利」でしょうか。(クリックすると回答)
診断名がヘルニアであると言うことについて簡単に言うと三つ問題があります。
第1に,本当にヘルニアであるのかどうか自賠責認定では問題となります。
ヘルニアの状態ではなくて膨らんだだけの膨隆と言われる神経圧迫の原因となっていないものをヘルニアと診断している可能性があります。
第2に,事故前からヘルニアの部位が存在していることは年齢等により大いにあり得ます。
神経根圧迫による神経症状が出現していないために神経検査による他覚的所見がないのに画像所見のみでは事故との因果関係の証明とはいえません。
あるいは,仮に神経検査による他覚的所見があるが,そこで示されている以上がある部位と画像でのヘルニアの部位が一致しなくては,それも事故との因果関係の証明とはいえません。
第3に,外傷性という言葉のマジックです。医師が外傷性と診断したとしても,事故との因果関係を一発で証明するものではないのです。
第1,第2の問題をクリアしなければなりません。さらに,外傷性とは外傷後と言うべきものです。
どういうことかと言えば,ヘルニアは主に,加齢等による変性であり,症状はなくとも病的な状態です(病変)。
たまたま,事故前に症状が出現していなくとも事故を契機に出現したという評価を賠償上はします。
つまり,仮にヘルニアが画像上も神経検査上も認められたとしても,損害額を減少させる素因減額の対象となるのです。
したがって,有利かどうかは一概に言えませんが,今後の治療方針を判断していく上では重要な要素となると言えます。