Q.高齢者の死亡逸失利益における基礎収入についての裁判所認定の流れはどうですか。
年金に関する逸失利益は別の議論となりますので,年金以外の部分について検討することにします。
高齢者を65歳以上と定義して,最近の判決例を通して例職種別の基礎収入について,併せて生活費控除率,喪失期間も検討致します。
なお,引用した判決例は「高齢者の交通事故 古笛恵子弁護士編著 新日本法規」及び自動車保険ジャーナルDVD(主に平成10年以降のものに関して)からの引用です。
1 職種別では基礎収入に関してどのような違いがありますか。(クリックすると回答)
高齢者,特に女性の場合には家事従事者が多いと思われます。
しかし,家事従事者には専業者のみならず兼業者も含まれています。
そこで,専業家事従事者,兼業家事従事者,有職者等と分類をして判決例(判決時平成6年~同24年)を概観致します。
全部で24件の判決例にあたってみました。大きく分類すると,次のようになります。
〈専業家事従事者〉13例
〈兼業家事従事者〉3件
〈有職者〉6件(内1件否定例)
〈一家の支柱等〉1件
〈無職者・男性〉1件(否定例)
やはり専業/兼業によらず家事従事者が多いようです(全24件中16件で67%)。
また,〈有職者〉として働いておられた被害者の例も比較的多数あります(全24件中6件で25%)。
基礎収入については,家事従事者については当然ながら賃金センサスによりますが,年齢別あるいは全年齢いずれなのかという論点があります。
さらに高齢者と言うことで満額ではなく,多くが平均賃金から一定割合減額する方法となっています。
また,専業か兼業かによる大きな違いはなさそうです。
有職者については,流れは現実収入が基本のように思われますが,年齢・生活状況等を考慮して賃金センサスによっている場合もあります。
2 専業家事従事者の基礎収入はどのような流れですか。(クリックすると回答)
(番号は後記の判決例一覧のものに対応しています。)
〈専業家事従事者〉13例は,以下のとおりです。
②大阪地裁判決 平成8年1月18日
賃金センサス女性65歳以上の50%
⑤神戸地裁判決 平成8年4月10日
賃金センサス女性65歳以上の50%
⑥大阪地裁判決 平成8年6月20日
賃金センサス女性65歳以上の50%
⑦東京地裁判決 平成10年3月24日
賃金センサス女性全年齢の50%
⑬東京地裁判決 平成18年10月16日
賃金センサス女子労働者学歴計65歳以上平均の50%
⑮横浜地裁判決 平成21年2月19日
賃金センサス女子全年齢平均年収の70%
⑯神戸地裁判決 平成21年2月23日
賃金センサス学歴計女子65歳以上平均の100%
⑰横浜地裁判決 平成21年7月2日
賃金センサス女性労働者女子全年齢平均の100%
⑱名古屋地裁判決 平成22年3月12日
賃金センサス学歴計女子65歳以上平均の70%
⑲東京地裁 平成22年10月12日判決賃金センサス65歳以上の80%
?千葉地裁判決 平成23年7月25日賃金センサス女子学歴計70歳以上の80%
?名古屋地裁判決 平成23年12月21日
賃金センサス女子全年齢平均及び女性学歴計65歳以上の平均年収100%を段階的
?横浜地裁判決 平成24年11月15日
賃金センサス女子学歴計全年齢平均の50%
【コメント】
(1)賃金センサス女性65歳以上の年齢別によるものが8例,同じく70歳以上の年齢別によるものが1例で,全年齢によるものが3例あります。少し変則的なものは,?「賃金センサス女子全年齢平均及び女性学歴計65歳以上の平均年収100%を段階的」にしたものです。段階的というのは,全年齢平均を当初の3年間,その後の9年間は65歳以上の年齢別というものです。
(2)基礎収入に関して,⑮が興味深い理由を述べて全年齢平均を採用しています。
すなわち,「平成16年賃金センサスでは,女子労働者学歴計60歳~64歳の平均年収が299万9,600円であるのに対し,65歳以上の平均年収は306万8,600円となっており,65歳以上の平均年収の方がむしろ高くなっている。」という前提があります。
そのために,65歳以上の平均年収ではなく,全年齢の割合的認定とすると言うことです。
しかし,年齢構造あるいは高齢者の働き場所の急激な変化によるものでしょうか。
60歳~64歳に比べて65歳以上の平均年収の方が高いという傾向には変化があり,賃金センサスを見る限りでは平成19年以降は逆転をしています。
なお,平成24年時点では70歳以上が65歳以上を上回る傾向は続いています。
したがって,⑮が指摘した上記の逆転は,平成26年時点では当てはまらないことになっています。
その点からすると,全年齢を前提として割合で調整するという方法が良いようにも思われます。
しかし,減額割合についても,基準が形成されていないために裁判官次第というおそれもあります。
(3)減額割合については,50%というのが65歳以上の年齢別平均とのセットで⑬東京地裁平成18年10月16日判決まで主流と言える傾向がありました。
しかし,前記の⑮以降は,様々な割合が見られ,中には100%とするものまであります。
(4)基礎収入として比較的高額なものを認める傾向は,平成20年代になってから多くあるように思われます。
それらについては,年齢で画一的に判断することから,家事労働の実態を裁判所としても把握することに努めており,とりわけ家族の介護も行っていた場合には賠償額に反映させることの表れではないかと考えます。
以下に,どのような家事従事者であるかの属性を簡単に記します。
⑰横浜地裁判決 平成21年7月2日
賃金センサス女性労働者女子全年齢平均の100%
○82歳男子でパーキンソン病の妻を介護しながらの家事従事者
⑱名古屋地裁判決 平成22年3月12日
賃金センサス学歴計女子65歳以上平均の70%
○83歳女子で長男と2人暮らし,勤務する長男と家事分担
⑲東京地裁 平成22年10月12日判決
賃金センサス65歳以上の80%
○83歳女子で家事従事者として全員就労の息子一家と同居
?千葉地裁判決 平成23年7月25日
賃金センサス女子学歴計70歳以上の80%
○80歳女子で家事労働全般と身体障害者の夫を介護
(5)?名古屋地裁判決は,段階的に基礎収入を変化させるものであり,しかも100%という特徴的なものです。しかし,これは65歳という現代では高齢者と呼ぶには憚れる場合であり,実母の見舞いも欠かさなかったような事例です。
3 兼業家事従事者の基礎収入はどのような流れですか。(クリックすると回答)
(番号は後記の判決例一覧のものに対応しています。)
〈兼業家事従事者〉3件は,以下のとおりです。
①東京地裁判決 平成6年7月15日賃金センサス女性学歴計65歳以上の80%
⑫東京地裁判決 平成17年2月23日賃金センサス女子労働者学歴計65歳以上平均の70%
⑳千葉地裁判決 平成23年7月11日賃金センサス女性学歴計の80%
【コメント】
たった,3件で傾向を分析することは困難です。しかし,減額割合から見ると専業者よりも結果的には高めのように思われます。
特に⑳は,女子全年齢の80%と基礎収入としては,極めて高めであると言えそうです。
4 有職者の基礎収入はどのような流れですか。(クリックすると回答)
(番号は後記の判決例一覧のものに対応しています。)
〈有職者〉5件(否定例を除く)は,以下のとおりです。
④東京地裁判決 平成8年4月10日
事故前年の現実収入
⑨神戸地裁判決 平成11年11月10日
賃金センサス男子学歴計の同年齢層
⑩大阪地裁判決 平成13年2月20日
賃金センサス高卒男子65歳以上平均の60%
⑪大阪高裁判決 平成16年2月17日
賃金センサス65歳以上の50%
⑯京都地裁判決 平成20年12月5日
現実収入(月額8,500円=賃料収入の10%)
【コメント】
(1)5件ですが,現実収入によるものと賃金センサスによるものとにきれいに半々に分かれました。
(2)賃金センサスによる例についても,⑪賃金センサス65歳以上の50%という,家事従事者と同様のものまでもあります。
そこで,それを含む3例についてコメント致します。
⑨71歳男子で兼業農家だが,農業以外にも,はさみ製造業を営んでいた。
⑩69歳男子神職だが,事故前3年間の平均収入が年71万余円
⑪74歳女子一人暮らしでアルバイト
いずれも公的な資料からの現実収入ではなく,賃金センサスを用いて割合による「調整」をはかったと考えられるものです。
もちろん,高度の蓋然性に関する証明がなされたためと考えられます。
5 生活費控除率については,どのような流れでしょうか。(クリックすると回答)
(1)全体の傾向
逸失利益を否定した2例を除く22例については,次の分布になります。
30% 10例
40% 10例
50% 2例
(2)30%と40%の違いについて
一般に死亡逸失利益に関し損益相殺の一つとして,生活費を控除することろ,その控除率については,女性に関して一家の支柱の場合を除いて一般に30%とされております。
そこで,30%とした事例に関しては原則通りと言えます。
すると,A男性で30%とした⑨〈有職者〉⑰〈専業家事従事者〉の理由が知りたくなります。
その一方で,B女性で40%としている②⑤⑥⑦⑯⑱?という少ないとは言えない事例の理由も知りたくなります。
Aについて,
⑨〈有職者〉は,同居の家族が多くおり就労者の数から一家の支柱という年齢ではなく,現実の生活費の負担が少ないと推認された場合です。
⑰〈専業家事従事者〉は,男性においても家事従事者という評価の場合には,女子平均賃金によるためにバランスから控除率も女性と同じ30%とする点から説明できそうです。
Bについては,端的に傾向として80歳代(直前の79歳も含めて)であると言うことが理由と考えられます。
さらに,
(4)50%としている例
女性で50%としている2例もあります。
⑬〈専業家事従事者〉は「家事の全てとまではいわないものの,その一部を担当していたと認められるから」という理由で家事従事者であることを「辛うじて」認めたもので,その点が影響した可能性があります。
⑲〈専業家事従事者〉は,家事労働の多くを行っていたと言うことを認定していたにもかかわらず,80歳代であることを考慮しても,「厳しい」判決と言えそうです。
(5)男性(一家の支柱)について
男性では有職者については40%とするものがほとんどです。
これは,一家の支柱として被扶養者1人(おそらく配偶者である妻)の場合と考えられ原則通りです。
高齢者であっても,有職者で一家の支給であれば,その通りの生活費控除率になると言えそうです。さらに被扶養者の人数が増えることによって30%となる例もある(?)ことから,高齢者の場合においても,判決例の流れは原則を貫いていると言えます。
④〈有職者〉東京地裁判決
被害者妻が原告であることから,被扶養者1人です。
⑩〈有職者〉大阪地裁判決
息子夫婦と同居していましたが,被害者の扶養家族は妻1人です。
⑭〈有職者〉京都地裁判決
妻と同居して,一家の支柱と認定されました。
ところで,?は,一家の支柱として30%としております。
これは「Aは,妻,子及び母を扶養していたことを考慮すると,生活費控除率を30%とするのが相当である」と判決が述べているとおり,被扶養者が2人以上の場合であって妥当です。
【30%】10例
①〈兼業家事従事者〉東京地裁判決 平成6年7月15日
77歳女子(農業兼家事従事者)
生活費控除率30%
⑨〈有職者〉神戸地裁判決 平成11年11月10日
71歳男子(兼業農家,農業以外にも,はさみ製造業)
生活費控除率30%
⑪〈有職者〉大阪高裁判決 平成16年2月17日
74歳(女子一人暮らしでアルバイト)
生活費控除率30%
⑫〈兼業家事従事者〉東京地裁判決 平成17年2月23日
71歳女子(兼業主婦)
生活費控除率30%
⑮〈専業家事従事者〉横浜地裁判決 平成21年2月19日
75歳女子(夫を看病する専業主婦)
生活費控除率30%
⑰〈専業家事従事者〉横浜地裁判決 平成21年7月2日
82歳男子(パーキンソン病の妻を介護しながらの家事従事者)
生活費30%控除
⑳〈兼業家事従事者〉千葉地裁判決 平成23年7月11日
75歳女子(主婦及び不動産所得)
生活費控除率30%
【判決該当部分】
亡花子は,夫である原告甲野と2人暮らしであり,主な収入は年金のほか,約212万円と認められる不動産所得があること,亡花子が継続的に生命保険料60万円余りを支払っていたこと等の諸般の事情を総合考慮すると,生活費控除率については,30%とするのが相当であると解される。
?〈専業家事従事者〉名古屋地裁判決 平成23年12月21日
65歳女子(専業主婦,夫との二人暮らし),
生活費控除率30%,
?〈専業家事従事者〉横浜地裁判決 平成24年11月15日
81歳女子(家事従事者=同居の孫に対する)
生活費控除率30%
?〈一家の支柱等〉東京地裁判決 平成24年11月30日
男子70歳(一家の支柱及び母親の介護)
生活費控除率30%
【40%】10例
②〈専業家事従事者〉大阪地裁判決 平成8年1月18日
85歳女子家事従事者
生活費控除率40%
④〈有職者〉東京地裁判決 平成8年4月10日
87歳男性医師
生活費控除率40%
⑤〈専業家事従事者〉神戸地裁判決 平成8年4月10日
86歳女子家事従事者
生活費控除率40%
⑥〈専業家事従事者〉大阪地裁判決 平成8年6月20日
79歳女子家事従事者
生活費控除率40%
⑦〈専業家事従事者〉東京地裁判決 平成10年3月24日
83歳女子家事従事者
生活費控除率40%
⑩〈有職者〉大阪地裁判決 平成13年2月20日
事故前3年間の平均収入が年71万余円である69歳男子神職
生活費控除率40%
⑭〈有職者〉京都地裁判決 平成20年12月5日
81歳男子(不動産管理の仕事に従事)
生活費40%控除
⑯〈専業家事従事者〉神戸地裁判決 平成21年2月23日
80歳女子(家事従事者)
生活費控除率40%
⑱〈専業家事従事者〉名古屋地裁判決 平成22年3月12日
83歳女子(長男と2人暮らし,勤務する長男と家事分担)
生活費控除率40%
?〈専業家事従事者〉千葉地裁判決 平成23年7月25日
80歳女子(家事労働全般と身体障害者の夫を介護)
生活費控除率40%
【50%】2例
⑬〈専業家事従事者〉東京地裁判決 平成18年10月16日
75歳女子(息子夫婦と同居し家事や野菜作りをする)
生活費50%控除
⑲〈専業家事従事者〉東京地裁判決 平成22年10月12日
83歳女子(家事従事者として全員就労の息子一家と同居)
生活費控除率50%
6 喪失期間についてはどうでしょうか。(クリックすると回答)
A 平均余命の2分の1としたもの
認容した22例中の18例として,ほぼ8割です。
判決例の流れは,原則通りと言えます。
B それよりも短いもの
①⑬が該当します。
①は,農業兼家事従事者として基礎収入を認定したものです。その前提で1年間ですが,平均余命の2分の1よりも短くしました。就労状況からみて,その年数まで継続できなかったという理由です。
⑬は,75歳女子で80歳までの5年間としております。この場合も若干ですが短くなっておりますが,①とほぼ同様の理由からです。
C それよりも長いもの
④は,87歳という高齢でありながら現役の医師でした。ほぼ平均余命まで就労ができたという理由によります。
D 以上の分類に属さないもの
既に,御紹介した?です。基礎収入については,段階で区分しておりますが,のべで12年間の喪失期間を認めています。
①〈兼業家事従事者〉
東京地裁判決 平成6年7月15日 交民27・4・932
賃金センサス女性学歴計65歳以上の80%
77歳女子(農業兼家事従事者)
生活費控除率30% 喪失期間4年間(平均余命の2分の1=5年間よりも短い)
②〈専業家事従事者〉
大阪地裁判決 平成8年1月18日 交民29・1・44
賃金センサス女性65歳以上の50%
85歳女子家事従事者
生活費控除率40% 喪失期間3年間(平均余命の2分の1)
③〈無職者・男性〉
東京地裁判決 平成8年1月31日 交民29・1・190
否定
71歳無職者(男性)
④〈有職者〉
東京地裁判決 平成8年4月10日 交民29・2・570
事故前年の現実収入(年収672万円余)
87歳男性医師
生活費控除率40%,喪失期間4年間(平均余命)
⑤〈専業家事従事者〉
神戸地裁判決 平成8年4月10日 交民29・3・765
賃金センサス女性65歳以上の50%
86歳女子家事従事者
生活費控除率40%,喪失期間2年間(平均余命の2分の1)
⑥〈専業家事従事者〉
大阪地裁判決 平成8年6月20日 交民29・3・911
賃金センサス女性65歳以上の50%
79歳女子家事従事者
生活費控除率40%,喪失期間5年間(平均余命の2分の1)
⑦〈専業家事従事者〉
東京地裁判決 平成10年3月24日 交民31・2・423
賃金センサス女性全年齢の50%
83歳女子家事従事者
生活費控除率40%,喪失期間4年間(平均余命の2分の1)
⑧〈有職者〉
高知地裁判決 平成10年1月22日 交民31・1・43
75歳女子(訪問販売外交員)
否定 就労が病弱で継続の可能性が乏しい。
⑨〈有職者〉
神戸地裁判決 平成11年11月10日 交民32・6・1802
賃金センサス男子学歴計の同年齢層(395万5800円)
71歳男子(兼業農家,農業以外にも,はさみ製造業)
生活費控除率30%,喪失期間6年間(平均余命の2分の1)
⑩〈有職者〉
大阪地裁判決 平成13年2月20日 自動車保険ジャーナル・第1404号
賃金センサス高卒男子65歳以上平均の60%
事故前3年間の平均収入が年71万余円である69歳男子神職
生活費控除率40%,喪失期間7年間(平均余命の2分の1)
⑪〈有職者〉
大阪高裁判決 平成16年2月17日 自保ジャーナル・1533
賃金センサス65歳以上の50%
74歳(女子一人暮らしでアルバイト)
生活費控除率30%,喪失期間7年間(平均余命の2分の1)
⑫〈兼業家事従事者〉
東京地裁判決 平成17年2月23日 自保ジャーナル・1600
賃金センサス女子労働者学歴計65歳以上平均の70%
71歳女子(兼業主婦)
生活費控除率30%,喪失期間8年間(平均余命17年の約2分の1)
⑬〈専業家事従事者〉
東京地裁判決 平成18年10月16日 自保ジャーナル・1675
賃金センサス女子労働者学歴計65歳以上平均の50%
75歳女子(息子夫婦と同居し家事や野菜作りをする)
生活費50%控除,喪失期間5年間(80歳まで,平均余命の2分の1以下)
⑭〈有職者〉
京都地裁判決 平成20年12月5日 自保ジャーナル・1790
現実収入(月額8,500円=賃料収入の10%)
81歳男子(不動産管理の仕事に従事)
生活費40%控除,喪失期間4年間(平均余命の2分の1)
⑮〈専業家事従事者〉
横浜地裁判決 平成21年2月19日 自保ジャーナル・1790
賃金センサス女子全年齢平均年収の70%
75歳女子(夫を看病する専業主婦)
生活費控除率30%,喪失期間7年間(平均余命の2分の1)
【判決重要部分】
本件事故当時行っていたような家事労働を継続して行い,女子労働者学歴計65歳以上の平均賃金に相当する経済的利益をあげていた蓋然性が高いとは言いにくい。
また,原告らは,平成16年賃金センサスによる年収を基礎収入として請求しているが,平成16年賃金センサスでは,女子労働者学歴計60歳~64歳の平均年収が299万9,600円であるのに対し,65歳以上の平均年収は306万8,600円となっており,65歳以上の平均年収の方がむしろ高くなっている。
これは,60歳以上の女子高齢者については,労働者自体がかなり少なく,労働の内容もさまざまであることなどによるものと考えられ,その平均年収を同世代の女性の家事労働の経済的評価に当たっての基礎収入とすることにそもそもそれほど合理性がなく,前記の
ようにより高齢者の方が基礎収入が高くなってしまうといった現象も生じることになってしまう。そこで,家事労働の実態を考慮し,それに応じて全年齢平均年収を割合的に減額した額を基礎収入とするという方法も考慮に値する。(中略)
そこで,本件においては,平成17年賃金センサス女子労働者学歴計全年齢平均年収の343万4,400円の7割に相当する240万4,080円を基礎収入として,逸失利益を算定することとする。
⑯〈専業家事従事者〉
神戸地裁判決 平成21年2月23日 交民42・1・213
賃金センサス学歴計女子65歳以上平均の100%
80歳女子(家事従事者)
生活費控除率40%,喪失期間5年間(平均余命の2分の1)
⑰〈専業家事従事者〉
横浜地裁判決 平成21年7月2日 自保ジャーナル・1798
賃金センサス女性労働者女子全年齢平均(343万4,400円)の100%
82歳男子(パーキンソン病の妻を介護しながらの家事従事者)
生活費30%控除,喪失期間(平均余命の2分の1)
【判決重要部分】
これらの認められる事実によると,太郎の行っていた家事は,太郎と妻である原告春子の家事と原告春子の介護を行っているもので,同年齢の家事従事者より家事の量が多いということができる。このような事情を踏まえると,太郎の基礎収入は,賃金センサス女性労働者女子全年齢平均である343万4,400円と認めることができる。
そして,その就労可能期間は,家事労働であるとしても,高齢になれば次第に行うことが難しくなるのが通常であることから平均余命の全期間にわたって行えるとは認められず,平均余命の期間の半分を就労期間と認めることができる。そして,就労期間経過後は年金収入のみとなること,年金の額からその多くが生活費に費消されるのが通常であることから,就労期間中については生活費控除率を通常の30%とするが,年金収入のみになった後は生活費控除率を50%と認めることができる。
⑱〈専業家事従事者〉
名古屋地裁判決 平成22年3月12日 自保ジャーナル・1841
賃金センサス学歴計女子65歳以上平均の70%
83歳女子(長男と2人暮らし,勤務する長男と家事分担)
生活費控除率40%,喪失期間5年間(平均余命の2分の1)
⑲〈専業家事従事者〉
東京地裁 平成22年10月12日判決 自保ジャーナル・1843
賃金センサス65歳以上の80%
83歳女子(家事従事者として全員就労の息子一家と同居)
生活費控除率50%,喪失期間5年間(平均余命の約2分の1)
⑳〈兼業家事従事者〉
千葉地裁判決 平成23年7月11日 自保ジャーナル・1855
金センサス(産業計・企業規模計・女・学歴計)346万8,800円の80%
75歳女子(主婦及び不動産所得)
生活費控除率30%,喪失期間8年間(平均余命の約2分の1)
【判決重要部分】
亡花子は,本件事故当時75歳であり,特に病気もなく,原告甲野のために家事労働に従事し,原告甲野の仕事を手伝っていたことが認められる一方,亡花子の年齢にかんがみれば,今後,さらに高齢となっていく中で,全く同等の家事労働等を8年程度にわたって継続的に行うことが可能であったと認めるに足りる十分な事情は見当たらない。そうすると,これらの事情を総合考慮すれば,基礎収入としては,平成19年の賃金センサス(産業計・企業規模計・女・学歴計)346万8,800円の8割に相当する平均賃金である277万5,040円とするのが相当である。
また,就労可能期間については,平均余命を考慮して,8年(ライプニッツ係数は,6.4632)と解するのが相当である。
さらに,証拠(略)によれば,亡花子は,夫である原告甲野と2人暮らしであり,主な収入は年金のほか,約212万円と認められる不動産所得(なお,原告らが指摘する修繕費約55万円については,当年に限った特別な修繕に係るものと認めるに足りる証拠はないので,実質的に300万円に近い収入があったとまでは解されない。)があること,亡花子が継続的に生命保険料60万円余りを支払っていたこと等の諸般の事情を総合考慮すると,生活費控除率については,30%とするのが相当であると解される。
?〈専業家事従事者〉
千葉地裁判決 平成23年7月25日 自保ジャーナル・1866
賃金センサス女子学歴計70歳以上の80%
80歳女子(家事労働全般と身体障害者の夫を介護)
生活費控除率40%,喪失期間4年間(平均余命の約2分の1)
?〈専業家事従事者〉
名古屋地裁判決 平成23年12月21日 自保ジャーナル・1869
賃金センサス女子全年齢平均及び女性学歴計65歳以上の平均年収100%を段階的
65歳女子(専業主婦,夫との二人暮らし),
生活費控除率30%,
喪失期間12年間,但し3年間は全年齢平均・9年間は65歳以上の平均
【判決重要部分】
被害者が本件事故当時65歳であり,本件事故の年である平成19年の簡易生命表による65歳女性の平均余命が23.59年であることからすれば,被害者の就労可能期間をその約2分の1である12年(ライプニッツ係数8.8633)と認めるのが相当である。
そして,被害者が本件事故当時,夫と2人暮らしで家事に従事していたほか,毎日のように認知症で入院中の母親夏子(大正10年8月生まれ。本件事故当時86歳。その約2年5ヶ月後である平成22年4月26日に死亡)を見舞っていたこと,家事については年齢が多少高齢になってもその能力が大きく損なわれるとは認めにくいこと,被害者が本件事故当時65歳で,毎日のように約3㌔㍍離れた病院まで母親を見舞いに行くくらい元気であったこと,平成19年の簡易生命表による70歳男性の平均余命が14.80年であることから上記12年の間は被害者は夫である原告一郎と暮らし続け,自分のためだけではなく同原告のためにも家事をしていた蓋然性が高いと認められることなどからすれば,被害者の家事従事による基礎収入については,上記12年間の就労可能期間のうち68歳までの3年間(ライプニッツ係数は2.7232)はその大部分の期間について母親の見舞いなどもあったであろうことから賃金センサス平成19年の女性学歴計全年齢の平均年収である346万8,800円,その後の9年間(ライプニッツ係数は8.8633-2.7232=6.1401)は賃金センサス平成19年の女性学歴計65歳以上の平均年収である274万4,400円と認めるのが相当である。
?〈専業家事従事者〉
横浜地裁判決 平成24年11月15日 自保ジャーナル・1887
賃金センサス女子学歴計全年齢平均(345万9,400円)の50%
81歳女子(家事従事者=同居の孫に対する)
生活費控除率30%,喪失期間5年間(平均余命の2分の1)
?〈一家の支柱等〉
東京地裁判決 平成24年11月30日 自保ジャーナル・1888
賃金センサス男子70歳以上平均の60%
男子70歳(一家の支柱及び母親の介護)
生活費控除率30%,喪失期間7年間(平均余命の2分の1)
【判決重要部分】
(1)亡太郎の本件事故当時の就労状況(自営の不動産管理業,会社勤務,母親の介護),
(2)亡太郎の死亡時の平均余命は15.08年であること(平成22年簡易生命表)から,就労可能期間は7年と認められるところ,母親(本件事故当時96歳)の平均余命は3.81年であること(平成22年簡易生命表)から,上記就労可能期間の間には在宅介護業務に従事する必要がなくなる可能性があったこと,
(3)他方,亡太郎は,就労可能期間の間には,E会社から低額ではあるが報酬を得られるようになった可能性があったことなどを考慮すると,
亡太郎の死亡逸失利益算定の基礎収入として,平成22年賃金センサス学歴計70歳以上男子の平均賃金348万600円の60%に相当する208万8,360円とするのが相当である。