Q.腰椎椎間板ヘルニアを素因とする後遺障害(後遺症)の等級と減額の具体例はありますか。

[ヘルニア,労働能力喪失,後遺障害,椎間板,素因減額,腰椎]

A.
裁判例の傾向)あるいは,自賠責認定からは,後遺障害12級神経症状が多いと言えますが, 14級にとどまるものも多くあります。
また,障害程度によって7から5級となることもあります。
なお,素因減額)されることも多くあります。

1 具体的に等級別に例を示して下さい。(クリックすると回答)

 (1)14級(5事例)
判決1から5までです。ほとんどは手術をしなかった事例ですが,判決5は手術をしています。

労働能力喪失期間は,3年(判決3,4),5年(判決1,5),8年(判決2)となっています


喪失率は,ほとんど原則どおりの5%ですが,判決4は,7%としています。
素因減額については,否定するものが多い中で,判決3(2割),判決5(25%)と14級でありながら,肯定したものがあります。


(2)12級(8事例)
判決6から13までです。判決8は,自賠責非該当を裁判所が12級と認定したものです。
手術の点について,明らかなものは2事例(判決6,13)のみです。

労働能力喪失期間は,5年(判決9,13),9年(判決10,11),10年(判決6,8),20年(判決7),39年(=67歳まで,判決12)となっています。
9年は被害者の年齢(60歳代)から見れば,あり得なくはない結論ですが,それ以外の5年(判決9,13)は,余りにも短いものです。
判決9は,素因減額7割,判決13は5割ですから,いずれも素因の寄与を大きく評価したものと言えます。

喪失率は原則通り14%です。
素因減額については,なし(判決8,10,11),3割(判決12),5割(判決13),7割(判決6,9),8割(判決7)とばらつきがあることが分かります
症状の程度および事故と素因の寄与割合を総合考慮していると思われます。

(3)9級
判決14
被害者(当時39歳主婦),神経系統の機能障害9級,手術あり,素因減額なし,喪失期間10年
脊柱管狭窄,靱帯肥厚という素因があり発症した事例ですが,素因減額をしませんでした。

(4)7級
判決15
被害者(症状固定時40歳の主婦),神経障害7級,手術あり,喪失期間27年間(67歳まで),素因減額3割
この事例は,ヘルニアの発症が交通事故による受傷直後ではなく相当期間が空いた事例です。
その点が素因減額に反映されている可能性もあります。

(5)6級(併合)
判決16
被害者(当時37歳専業主婦),併合6級後遺障害(両下肢麻痺,排泄障害等),喪失期間27年間(67歳まで),素因減額8割
両下肢麻痺,排泄障害等で介護が一定必要という悲惨な状況ですが,素因減額8割という事例です。

(6)6級
判決17
被害者(当時36歳男子・左官),神経障害5級,素因減額なし,喪失期間28年
この事例は,少し特殊でヘルニアの手術のために右上腕神経麻痺の症状が発現して後遺障害となったものです。
手術の適応であったかどうかが争点となり,それを裁判所が認めた結果としてこの判断となりました。


2 前提となった判決例はどうですか。(クリックすると回答)


判決1
被害者(当時23歳男子医学部学生),神経症状14級,手術なし,喪失期間5年
横浜地裁 平成13年10月12日判決 

判決2 
被害者(当時37歳男子歯科医師),神経症状14級,手術なし,喪失期間8年,素因減額1割
大阪地裁 平成8年7月5日判決
追突事故で腰部捻挫等の診断を受け,事故後約4か月間治療を行ないましたが,その後約8ヶ月間治療を中断したところ,腰椎椎間板ヘルニアとなり再び治療を受けました。
裁判所は,中断後に再開したヘルニア治療も含めた全治療期間を事故と相当因果関係のある損害と認めました。

判決3 
被害者(37歳女子家業の酒店に従事する主婦),神経症状14級,手術なし,素因減額25%,喪失期間3年
京都地裁 平成14年4月4日判決(確定)
「私病があったところ,本件事故による衝撃が加わった結果,顕在化した」
労働能力喪失期間は,将来の後遺障害に対する馴れの可能性から3年間としています。

判決4 
被害者(42歳女性)神経症状14級,素因減額なし,喪失期間3年,喪失率7%
神戸地裁 平成13年12月5日判決(確定)
裁判所は,軽微な「事故でもヘルニアが発生する」としました。

判決5 
神経症状14級,手術あり,喪失期間5年,素因減額2割
横浜地裁 平成20年8月28日判決(確定)

判決6 
被害者(当時35歳男子大工),神経症状12級,椎間板摘出手術あり,素因減額7割,喪失期間10年間
札幌地裁 平成5年7月7日判決 

判決7
神経症状(特に杖歩行が必要な程度の右下肢痛み)12級,手術なし,素因減額8割,喪失期間20年間
大阪地裁 平成8年10月31日判決 

判決8
被害者(当時26歳女性会社員),神経症状12級(自賠責は非該当),手術なし,素因減額なし,喪失期間10年
横浜地裁 平成12年5月30日判決(確定) 

判決9
被害者(30歳主婦),神経症状12級,手術なし,喪失期間5年,素因減額7割
神戸地裁 平成13年9月5日判決
被害者(30歳主婦)が,駐車場内で停車中,他の乗用車に逆突された接触程度の軽微事故です。

判決10
女子成型工),神経症状12級,素因減額なし。喪失期間9年間
大阪高裁 平成14年6月13日判決(確定)

判決11 
被害者(当時61歳女性工員),神経症状12級,素因減額なし,喪失期間9年
大阪地裁 平成13年12月25日判決

判決12 
被害者(事故当時27歳),神経症状12級,手術なし,素因減額3割,喪失期間39年
大阪地裁 平成12年3月15日判決 

判決13 
神経症状12級,手術あり,喪失期間5年,素因減額5割
名古屋地裁 平成11年4月23日判決 
被害者が,バンパーが損傷する程度の追突事故で受傷して,約3年6ヶ月間加療し症状固定に至ったものです。

判決14 
被害者(当時39歳主婦),神経系統の機能障害9級,手術あり,素因減額なし,喪失期間10年
横浜地裁 平成7年9月29日判決 
事故以前から腰部脊柱管狭窄症又は黄色靱帯(黄靱帯)肥厚が存在し,本件事故によって被害者の第4腰椎と第5腰椎との間の椎間板に腰椎椎間板ヘルニアが生じて後遺障害となった。

判決15
被害者(症状固定時40歳の主婦),神経障害7級,手術あり,喪失期間27年間(67歳まで),素因減額3割
浦和地裁 平成12年3月29日判決 
被害者の椎間板ヘルニアは,本件事故による受傷直後に生じたものではなく,本件事故後相当期間の経過後に発現しました。

判決16 
被害者(当時37歳専業主婦),併合6級後遺障害(両下肢麻痺,排泄障害等),喪失期間27年間(67歳まで),素因減額8割
横浜地裁 平成21年11月19日判決
判決17 
被害者(当時36歳男子・左官),神経障害5級,素因減額なし,喪失期間28年

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