Q.頭蓋骨骨折と後遺症(後遺障害)の関係についてはどうなりますか。小児あるいは高齢者特有の問題はありますか。
頭蓋骨骨折は,決して軽い問題ではありません。しかし,すべてが重症化するわけではありません。
重要なことは頭蓋骨骨折が脳損傷をもたらすかどうかです。
頭蓋骨骨折から脳損傷となることも多くありますが,脳損傷に至らないこともあり得ます。
逆に,頭蓋骨骨折がなくとも,脳損傷を発症することは珍しいことではありません。
いずれにしても,頭蓋骨骨折となれば治療の長期化と後遺障害の問題があります。
また小児あるいは高齢者特有の問題がありますので,
<頭蓋骨骨折後後遺症(後遺障害)実例>
(むさしの森法律事務所取り扱い例,なお,個人情報保護のために抽象化しています。
なお,認定結果待ちの案件も多数ありますので,ほんの一部です。)
ケース1
右前頭部・後頭部・側頭部頭蓋骨骨折(20歳代)
→高次脳機能障害9級+嗅覚脱失12級
ケース2
頭蓋骨陥没骨折,頭蓋底骨折(30歳代)
→高次脳機能障害5級+眼球運動障害10級
ケース3
頭蓋底骨折(30歳代)
→視力障害(8級)高次脳機能障害は無し。
ケース4
;
後頭部頭蓋骨骨折(20歳代)
→嗅覚脱失(12級)+脳の瘢痕(12級:高次脳機能障害は無し)
理屈で言えば,頭部外傷によって頭蓋骨骨折をするわけです。
(「頭蓋骨」についてはこちらへ)
骨折をしたということは,
①骨折そのもの
②骨折による頭蓋骨周辺の組織損傷
③骨折が発生するほどの外力によっての脳損傷,
が発生するために
①の骨折だけに注目していたのではいけないとされています。
「1 頭蓋骨骨折することの意味」のとおり,頭蓋骨骨折の場合には,骨折そのものの整復や固定は必要はありません。
むしろ,頭蓋骨周辺の組織損傷,頭蓋内血腫などの合併に注意して,その発症があれば増悪を食い止めることが治療の基本です。
さらに,骨折によって頭蓋骨が変形している場合には脳の圧迫があるため,その対策も重要な治療の基本となります。
形状から
(1)線状骨折
(2)陥没骨折
(3)縫合離開骨折
骨折部位(箇所)から
(1)円蓋部骨折
(2)頭蓋底骨折
(3)顔面骨折
特殊な骨折としては
(1)視神経管骨折
(2)眼窩底破裂骨折
(1)線状骨折は,円蓋部に多いとされています。
(「円蓋部」についてはこちらへ)
(2)一般的には,特に治療の必要性はないとされています。
(3)しかし,骨折の状況によっては,硬膜外血腫を形成する可能性があります。
(「硬膜外血腫」についてはこちらへ)
なお,硬膜外血腫は,通常は重症化しません。
(4)進行性骨折(拡大性骨折)とは
新生児・乳児(いわゆる赤ちゃん)は,線状骨折であっても,脳挫傷等から頭蓋内圧亢進を発生させて骨折縁が膨らんで骨折が進んでくる場合があります。
その場合には,頭蓋骨切除等の手術が必要となります。
【後遺障害(後遺症)】
後遺障害(後遺症)のおそれはあります。
その場合には脳損傷の程度によりますが,12級から1級までの可能性はあります。
(5)眼窩下面の線状骨折では眼球周辺の損傷となり外眼筋に損傷を与えて眼球運動障害を伴うとされています。
しかし,保存的に治療すれば大部分は治癒するとされていますが,ときには,治癒が遅れあるいは発見が遅れて手術が必要となることがあります。
【後遺障害(後遺症)】
複視となる可能性があります。
(「複視」についてはこちらへ)
正面視で複視の症状となれば8級2号です。
(1)円蓋部のみに陥没骨折はみられるとされています。
陥没骨折とは,骨折片が陥没しているものです。
(2)粉砕骨折とは,成人に特有です。
つまり,成人の場合に骨の弾性が低い,つまり骨が硬いために,陥没骨折となると,小さい骨片に分かれてしまって粉砕骨折となってしまいます。
さらに頭皮が割れて開放性骨折となり,その上で脳挫傷を発生する複雑骨折となることが多いとされています。
(3)小児の場合には,骨が柔らかいことから,ピンポン球を押しつぶしたような文字通りの陥没骨折となります。
【後遺障害(後遺症)】
脳が局所的に圧迫されるために脳障害,さらには脳波異常を伴うてんかん発作となる可能性があります。
脳障害についても部位によるために様々な後遺障害(後遺症)があり得ます。
(「てんかん」についてはこちらへ)
(1)頭蓋骨にたわむような力が働くことによって頭蓋底に屈曲した線状骨折が生じたものをいいます。
(2)頭蓋底には,神経や血管が張りめぐらされていることから,脳神経や血管の損傷を合併したり,髄液が漏れたり,空気は入ってきて頭蓋内気腫を合併することがあります。
症状は,頭蓋底の前部・中部・後部の3つにいずれかにより異なってきます。
(3)前部頭蓋底骨折(医学用語としては,前頭蓋窩骨折)
眼の周りの皮下出血によるパンダの目徴候や鼻血が特徴です。
【後遺障害(後遺症)】
骨折の状況により,嗅覚障害(嗅覚障害についてはこちらへ),視神経管まで及べば視力障害が発生します。
嗅覚脱失となれば12級相当
一眼の視力を失えば9級2号,視野狭窄となれば9級3号
(4)中部頭蓋底骨折(医学用語としては,中頭蓋窩骨折)
耳出血が特徴です。
【後遺障害(後遺症)】
骨折の状況により,顔面神経麻痺,聴力障害,外眼筋運動麻痺,三叉神経麻痺があります。
(5)後部頭蓋底骨折(医学用語としては,後頭蓋窩骨折)
皮下出血はありますが,脳神経麻痺はないとされています。
【後遺障害(後遺症)】
特になし。
(6)脳損傷との合併
頭蓋底骨折と脳損傷とが合併している場合には,意識障害を生じてその後に高次脳機能障害等の後遺障害が残存する可能性があります。
【後遺障害(後遺症)】
12級から重症化すれば9級以上の可能性があります。
(1) 開放性脳損傷とは
骨折によって頭皮以下が割れてしまって,頭蓋内腔が外界と交通,つまり「むき出し」になっていることです。
2種類に分けられています。
(ア)外開放性脳損傷
(イ)内開放性脳損傷
(2)外開放性脳損傷と内開放性脳損傷
(ア)外開放性脳損傷は,骨片が直接に脳を損傷するものです。
(イ)内開放性脳損傷は,硬膜が破損して脳損傷を起こすものです。
いずれも,挫滅した脳が脱出するために頭蓋内亢進が激しくなることはなく,意識障害は比較的軽度であるのに対して,実際の症状は重症の場合が少なくないと言われています。
また,「むき出し」であるために様々な感染症のリスクがあります。
(3)治療
外開放性脳損傷は,挫滅創を切除して頭蓋内圧亢進に対応します。
内開放性脳損傷は,髄液漏となることがあるので,それに対応します。
【後遺障害(後遺症)】
頭蓋内圧亢進が長期化すると,視力障害(失明)あるいは眼球運動障害(複視)となる可能性があります。
一眼の視力を失えば9級2号,視野狭窄となれば9級3号
(「複視」についてはこちらへ)
なお,正面視で複視の症状となれば8級2号です。
(1) 交通事故によるものが多い
注意力と動作の緩慢さから防御反応が低下していることから,歩行中の事故が頭部外傷に結びつきやすくなります。
つまり,もう少し若ければ上肢・下肢・体幹の骨折ですんだものが,転倒によるなどして頭部外傷となりやすいと言えます。
(2) 頭蓋骨骨折となりやすい
骨皮質が薄くなっている上に,骨粗鬆症もあるために,頭蓋骨の弾力性は低くなっています。
そのため同程度の外力でも高齢者の場合には頭蓋底骨折や粉砕骨折となりやすいのです。
(頭蓋底骨折についてはこちら)
(粉砕骨折についてはこちら)
(3) 合併症を起こしやすい
加齢によって,頭蓋骨と硬膜との癒着が強くなっているために,骨折と共に硬膜も断裂しやすくなっています。
そのために頭蓋底骨折では髄液漏を合併しやすくなります。
また感染症も合併しやすくなります。
しかし,頭蓋骨と硬膜の癒着が強いために硬膜外血腫の発生率は低いと言われます。
(4) 頭蓋内血腫・脳挫傷の発症率が高い
高齢者のために脳萎縮が進んでいます。
そのために頭蓋と脳との隙間が広いために頚椎を支点として加速度運動が加えられた場合には,脳が激しく運動して血管の断裂が生じやすくなります。
そのため頭蓋内血腫・脳挫傷の発症率が高いのです。
(頭蓋内血腫・脳挫傷についてはこちら)
他方では,頭蓋内血腫が生じたとしても,隙間が広くて余裕があり,脳内の水分含有量が低いことから脳浮腫が生じにくく,生じたとしても遅い傾向があります。
そのために,頭蓋内圧亢進の進行が遅くなります。そのことはよいのですが,逆に,症状悪化の診断が遅れやすいか見のがしやすいとされています。
(5) 時として致命傷になりかねない
高齢であるために,脳にとどまらない,心臓・肺・腎臓といった全身機能の障害を伴い,それが事故による受傷後の二次的脳損傷を生じやすいとされています。
また,衰弱している中で合併症を併発すると致命的なものとなるリスクも高いものです。
9 小児の頭蓋骨骨折及び頭部外傷の問題は?(クリックすると回答)
(1) 頭部外傷を受けやすい
まず特徴としては,小児は頭部外傷を受けやすいことにあります。
それは,小児は頭部の占める割合が大きく,小脳の発達が十分ではないために転倒しやすいことにあります。
そして,転倒したための接触損傷だけではなく,加速度損傷も起こしやすいことになります。
特に2歳以下では仰向けに転倒したような場合には,脳挫傷を伴わない硬膜下血腫を発症するリスクもあります。
(2) 頭蓋骨がまだ柔らかい
そのために陥没骨折が多くなっています。それもピンポン球骨折となり,粉砕骨折にはなりにくいとされています。
また柔らかいため頭蓋骨骨折がはっきりしていなくとも,その下に出血や損傷をしていることがあります。
(3) 硬膜と頭蓋骨の癒着が強く,硬膜が薄い
そのために,頭蓋骨骨折と併せて硬膜裂傷が起こりやすく,進行性頭蓋骨骨折になることが多くあります。
(4) 骨癒合が十分ではない
そのために骨折のない硬膜外出血が発生することがあります。
しかし,硬膜と頭蓋骨の癒着が強いために,硬膜外血腫が発生しても出血が拡大することは少ないとされています。
頭蓋骨は骨が成長と共に完全に縫合して閉じていきます。
乳児以下では泉門があり完全には閉じておらず,幼児でも癒合が十分でないために骨縫合離開が起こりやすいのです。
このことは,頭部外傷に対して頭蓋内圧亢進を圧力を逃がして起こりにくくする作用となります。だが,いったん頭蓋内圧亢進が出現すると急激に悪化します。
(5) 循環血液量が少ない
そのために,頭蓋内出血により出血性ショックを起こしやすく,小さな血腫での出血量程度であっても循環血液量の現象を生じて貧血を起こしやすくなります。
(6) 脳が発達する可能性が残されている
そのために,成人に比較して脳損傷からの機能的な快復力が良いと言えます。
しかし,反面脳が未成熟であるために外傷後に早期てんかんを起こしやすいとされています。
10 頭蓋骨骨折と頭蓋内出血の関係はありますか(クリックすると回答)
頭蓋骨骨折に伴うものでは急性硬膜外血腫,急性脳内血腫(その中でも脳挫滅部に連続する場合)があります。
急性硬膜下血腫は,脳挫傷に伴うもので,脳挫傷が必ずしも頭蓋骨折がなくとも生じることから,やはり,頭蓋骨骨折とは必ずしも関係しないとされています。
なお,詳細は,以下のQ&Aを参照して下さい。
Q.頭蓋骨骨折と急性頭蓋内血腫の関係はありますか。頭蓋骨骨折がなかったのに脳出血して血腫ができることがありますか。