Q.被害者の直接請求権について自賠責保険と任意保険の違いはありますか。---交通事故賠償は,むさしの森法律事務所
いずれも,直接請求権が認められています。
しかし,自賠責保険では法律上の権利であるのに対して任意保険は保険契約で認められた権利です。
そのために,現実には大きな違いがあります。
1 自賠責保険における被害者の直接請求権とは(クリックすると回答)
自賠責保険契約においては,契約関係は保険契約者と自賠責保険会社です。
被害者はあくまでも契約外の第三者です。
しかし,法律ではこの第三者である被害者に自賠責保険会社に対する直接請求権を認めています(自賠法第16条1項)。
なお,これは車両の保有者に運行供用者責任(自賠法第3条)が発生することが前提です。
この自賠責保険における被害者の直接請求権は,自賠法が創設した特別な権利と言えます。
なお,症状固定までの傷害部分あるいは症状固定後の後遺障害部分に対する被害者請求とは,この直接請求権を根拠にしているものです。
2 自賠責保険直接請求権の支払限度額とは(クリックすると回答)
症状固定までの傷害部分については120万円,後遺障害については各等級に応じた金額(例えば14級ならば75万円等)が原則です。
しかし,被害者に7割を超える過失がある場合には重過失減額として金額が一定減らされます。
なお,被害者に100%過失がある場合には免責として支払がされません。
3 保険会社(あるいは加害者)が治療を打ち切ったら(クリックすると回答)
最初は,治療費等を支払っていたという場合,つまり一括対応を最初はしていたところ,途中で打ち切られることがあります。
この場合に,自賠責保険の支払限度額120万円の残額があるならば,自己負担した治療費等が自賠責保険から支払われる可能性があります
。これは,自賠責保険に対する直接請求権に基づくものです。
しかし,治療の必要性や金額の相当性が認められなければ否認されることがありますので,注意して下さい。
これは,自賠責保険のものとは違って法律で定まったものではありません。
保険約款の定めに従って保険契約者と任意保険会社との契約によって生じたものということになります。
従って,権利性は強くはありません。
また,重要なことは,自賠責保険のものは,症状固定前の治療中でも直接請求ができるのに対して,任意保険の直接請求権は判決又は和解(裁判所の和解だけではなく示談を含めます)によって賠償額が確定していなければなりません。
保険法の改正経過の中では,任意保険の直接請求権について法律上のものとすべきかの議論はあったようですが,保険会社の反対もあり,そこまで至りませんでした。
5 任意保険会社による一括対応と直接請求権の関係は(クリックすると回答)
保険約款で任意保険に対する直接請求が認められるようになった経緯としては,一括対応をすることとの引き替えだとも言われています。
しかし,一括対応(一括払い)とは本来は任意保険会社が自賠責保険分を取り込んで先行払いをすることです。
被害者のためのサービスです。
他方で,任意保険に対する被害者の直接請求権は,賠償額が確定した後に確実に支払がなされるためのものです。
従って,両者は別のものです。
このように,治療期間(いわゆる傷害部分)において被害者の直接請求権が任意保険に認められるのではないことから,一括対応(一括払い)が途中で打ち切られたとしても,症状固定前に法律的に任意保険会社あるいは加害者に対して何か請求できると言うことではないのです。