Q.民法債権法改正が逸失利益の計算に与える影響はありますか。金利3%改正へ。

[ライプニッツ係数,中間利息控除,債権法改正,民法改正,法定利息5%,逸失利益,3%,最高裁平成17年6月14日]

A.

逸失利益には中間利息控除があります。
その利率について,複利計算で年5%によるライプニッツ方式が採用されていました。
ところが,今回の改正により年3%となります。
これは,単純に言えば逸失利益が増額することを意味しています。
大変な影響があります。

1 逸失利益の計算における中間利息控除とは (クリックすると回答)

後遺障害あるいは死亡の場合において,将来得られた利益(収入)を喪失率に応じて一時金で賠償を求めることができます。
しかし,将来のものを現在時点で先払いを受けるために中間利息として控除されます。
つまり,5年,10年,あるいはそれ以上先のものを受け取るのだから,その間に運用できるはずであるとして控除するのです。
この控除については法律上の明確な規定がありません。しかし,裁判所と実務の運用として年5%の利率を複利とするライプニッツ式が採用されていました。
そして,年5%の根拠としては貸金で利率の約束がない場合の法定利息を定めている民法404条が挙げられています。
この点は,最高裁平成17年6月14日判決に述べられているところです。
よくライプニッツ係数と呼ばれるのは,ライプニッツ式で中間利息を控除した計算結果を示しています。
だが,根本的な問題として,中間利息といいながらも経済的な意味で言えば利息ではなく割引です。
利息を定めた民法404条を適用することは理論的に整合性があるのかという疑問があります。
さらに,運用を前提とするならば,長く続いている実質金利が,ほぼゼロ金利であることを全く反映しておらず,被害者の手取額が低く抑えられすぎており保護に欠けるのではないかということです。

2 民法債権法改正点は (クリックすると回答)

既に,平成26年8月27日付朝日新聞等で報道されておりますように,どうやら120年ぶりの民法債権法改正によって,この問題の決着が図られるとのことです。
報道内容と法務省関係部会のインターネット等で公開されている部会資料によれば次の通りです。
①いわゆる中間利息控除についても民法404条法定利息を適用することを明記する。法定利率とするという規定を新設するようです。
②民法404条法定利息の利率は原則年3%とする。
③その後,年3%とするかについては3年ごとに見直す。
短期金利(プライムレート)の60か月平均金利が,1%以上変動したとき,その変動幅を加減算する。
なお,変動が1%以内なら据え置き。なお,この点をとらえて自動変動型固定金利制とも言える。
それは,60か月平均金利の変動に自動的に連動しながらも,個別には基準時の利率3%なら3%と固定して算定されるからである。
④交通事故などの不法行為について適用する利率の基準時点は不法行為時(=事故時)であり,症状固定時ではない。

3 逸失利益計算の影響は (クリックすると回答)

ライプニッツ係数を従来は5%から3%で計算することから大きく変わります。
つまり,被害者にとっては逸失利益の金額が従来よりも増えることになるので,報道されているとおりに,朗報と言うべきでしょう。
ところで,あくまでも不法行為時(事故時)を基準とすることから,既に事故の被害に遭われている方には影響はありません。
なお,経過措置として施行前まで遡って適用する可能性があるかについては分かりません。
今後の,事故に関しては従来よりも被害者に有利な取り扱いになると言えます。

4 どのように考えるべきか (クリックすると回答)

確かに,法定利息5%で複利計算による控除というライプニッツ方式は,被害者にとって実質金利を考えると公平感を疑わせるものでした。
10年以上前には,大きな争点でした。4%あるいは3%,それ以下の金利による逸失利益の請求が多くなされていました。
しかし,最高裁平成17年6月14日判決以降は主張すること自体が空疎と思われる状態が続いていました。
その点で,中間利息控除についても法律上の根拠を与えた上で,3%原則としたことは交通事故賠償実務に,とてつもなく大きな影響を与えると思います。
画期的な法律改正と言えます。
その上で,若干の危惧する点を記します。

(1)利率の見直しの基準時と事故発生日のわずかな前後(例えば1日違い)で同じ障害(あるいは死亡)でも金額が異なる不平等が生じないか。
(2)自動変動型としたことは,法律そのものに,将来の利率変更の余地を認めたことになり,利率の変動を期待する賠償側が一時払いではなく頑なに定期金払いを主張する事例が増加するのではないか。
(3)3年毎の利率見直しと言うことになると,適用すべき利率が変動するために事案の管理が煩雑となって賠償側のみならず,被害者側にも影響しないか。
つまり,被害者側代理人弁護士が適用すべき利率を誤らないように注意する必要がある。
(余談であるが,3年毎に赤い本に掲載するライプニッツ係数が変わってくる。)
(4)自賠責保険の支払限度額の変更があるかは不明であるが,任意保険を含めた保険料の値上げとならざるを得なくなるおそれがある。
そのことが,保険に加入していない無保険車両の増大を招くことになるのではないか。

むち打ちや脱臼、脊髄損傷など、幅広い疑問にもお応えします。ご相談は埼玉の弁護士、むさしの森法律事務所にご連絡ください。

0120-56-0075 受付時間:月~金(土日祝日も対応)午前9時30分~午後10時

フォームからのご相談予約はこちら

ページの先頭へ戻る