Q.肩関節脱臼から動揺関節となると後遺障害(後遺症)はどうなりますか。
肩関節脱臼とは,肩関節の関節面がずれてしまうことです。
初期の整復を誤らなければリハビリ1ヶ月程度で治ります。
しかし,不幸にして反復性肩関節脱臼となると12級以上の後遺障害が残る可能性があります。
肩関節は,正確には解剖学的関節3つと機能的関節2つの5つがあります。
肩関節というのはこの5つの関節の総称ですが,普通に肩関節という場合には肩甲上腕関節を指しています。
肩甲上腕関節というのは,肩甲骨と上腕骨をジョイントしている関節です。
外傷性の中で,最も多い脱臼です。そして,肩関節脱臼のほとんどが上腕骨が前方へ脱臼するタイプです。
なお,脱臼とは,外力により無理な関節運動が強制された結果,関節を補強している靱帯や関節包などの支持組織が断裂破壊され,関節面相互の正常な位置関係が崩れてしまった状態を言います。
外傷後の時間と共に,脱臼した箇所に腫脹(腫れ)と皮下出血が現れます。
肩関節を自分で動かすことはできず,他人が動かそうとすると疼痛と抵抗(バネのように固定)があります。なお,骨折や神経,血管障害を合併することがあります。
整復法としては,コッヘル法とヒポクラテス法とが有名です。
整復は無麻酔でも可能な場合がありますが,疼痛をなくして筋肉の弛緩を得るために全身麻酔を施す方が良いとされています。
コッヘル法(リンク)とは,患者の腕を外側と内側に順番に回してずれをはめ込むようにして,整復する方法です。
ヒポクラテス法(リンク)とは,患者の腕を(無理にでも)引っ張って整復する方法です。
骨性の支持が少なく可動性の大きな肩関節は,その安定性を関節包や腱板などの軟部組織に依存しています。
従って,外傷性脱臼後適切な処置や治療法が行われないと,ゆるんでしまった関節上腕靱帯や関節包による制動効果が弱まり,その後も簡単に脱臼や亜脱臼を起こすようになります。
外傷後に頻発する脱臼を反復性肩関節脱臼,非外傷性のものを習慣性脱臼と呼びます。反復性脱臼は,若年ほど起こりやすく,20歳以下では初回脱臼を起こすと80~90%が反復性脱臼に移行すると言われています。
動揺関節とは,関節の安定性が反復性脱臼により,関節包が弛緩して関節の安定性が損なわれたため,関節の可動性が正常よりも大きく,あるいは異常な方向に運動が可能になったものを言います。
特に靱帯損傷が原因で生じている場合は関節不安定性と呼ばれています。肩関節がこの様な状態になったものを動揺性肩関節と呼びます。
動揺関節については,後遺障害等級表には,該当する箇所はありませんが,その運動が自動か他動かを問わずに次の通りに認定するとされています。
10級=常に硬性補装具を必要とするものは,10級の著しい機能障害に準ずる。
12級=時々硬性補装具を必要とするものは,12級の「単なる」機能障害に準ずる。
なお,習慣性脱臼は,12級の「単なる」機能障害に準ずるとされています。
☆習慣性脱臼という呼び方は,従来は脱臼を繰り返すものすべてを指していましたが,現在では非外傷性のみを習慣性脱臼と呼びます。<
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そこで,医学的に正確な表現としては,反復性肩関節脱臼とすべきかと思われます。