Q.意識障害とは何ですか。高次脳機能障害の関係で,どのような意味がありますか。
意識障害は,日常用語で言うと分かったようで分からない言葉と言えます。
意識とは,自分の周囲で起こっていることが理解でき自発的に物事に対応して,きちんと会話によるコミュニケーションがとれ,体を動かし,自分を表現することができ,それらを記憶することができると言うことです。 2 意識障害の定義の難しさとは何ですか。 (クリックすると回答)
意識障害の対義語としては,意識清明です。 3 意識障害程度と脳損傷(高次脳機能障害)の関係は,ありますか。 (クリックすると回答)
交通事故による頭部外傷で意識障害の程度は問題となります。 4 JCS(ジャパン・コーマ・スケール)とは,どういうものですか。 (クリックすると回答)
JCSジャパン・コーマ・スケールは,英語ではJapan Coma Scaleであり,3-3-9度方式ともいいます。 5 GCS(グラスゴーコーマスケール)とは,どういうものですか。 (クリックすると回答)
これは,意識障害の判定にばらつきがあったことを解消するために考案されました。 6 GCS(グラスゴーコーマスケール)とJCS(ジャパン・コーマ・スケール)の関係は,どうなっていますか。(クリックすると回答)
GCSグラスゴーコーマスケールを最近の医療機関や救急隊では使用する例が多くなりジJCSャパン・コーマ・スケールJCSとも併記されている例も多く見るようになりました。 7 WHO(世界保健機構)による診断基準とは,何のことですか。(クリックすると回答)
意識障害についてWHO(世界保健機構)は次のように述べています。
外傷後健忘(posttraumatic amnesia)とは頭部外傷の受傷後に,日常的な出来事をはじめとして,新しい情報を覚えておくことができない病態を言います。
(1) 主として,閉鎖性頭部外傷によって生じるとされています。
しかし,意識障害程度が重ければ,それに対応した後遺障害としての高次脳機能障害が残りやすいとは言えます。
意識障害程度(レベル)について
JCS(ジャパン・コーマ・スケール),そしてGCS(グラスゴーコーマスケール)があります。
意識障害とは,それらの事柄が障害をされている状態を言い,「意識障害がある」という言い方をします。
というと,「普通」のことを意識して行っているか,行える状態が意識清明で,その対局が意識障害の状態ということになるのですが,実は当たり前すぎて何も言っていないのに等しいのです。
ましてや,意識障害の程度(レベル)の評価というと実際には難しくなります。
ところが,清明の状態での「意識」の定義自体は,医学的な問題に留まらず哲学的な様相もあり,極めて難しく観察者の主観も入り易いものです。
そうなると,意識障害の定義の難しさは当然のこととなります。
しかし,急性期の意識障害の程度は医師の脳損傷に対して如何なる処置をするかの基準です。脳に対する減圧措置の有無・程度を図るものです。
だが,一般的には受傷時点での意識障害程度と脳損傷(高次脳機能障害)の間には相関関係があります。
つまり,重い意識障害は重い高次脳機能障害等の後遺障害を残しやすいと言えます。
それは,3つの大分類に分け,さらにそれを3つの小分類に区分するため3×3の9のパターンとなるからです。
大分類つまり3つの群は,Ⅰ 自発的に覚醒しているか Ⅱ 刺激すると覚醒するか Ⅲ 刺激しても覚醒しないか という覚醒を軸にしています。
この方式は,超急性期破裂脳動脈瘤の治療方針に関して全国共同研究のために作成されたものです。
つまり,意識障害はテント切痕ヘルニアにより間脳・脳幹上部が圧迫されることにより生じるものであるため,まさに障害程度は「死への切迫程度」を示すものという沿革があります。
したがって,後遺障害を残すような外傷性脳損傷においてでさえも,そのまますべてが該当するかというと問題点があることは事実かと思われます。
しかし,少なくとも高次脳機能障害を残すような脳損傷であるか否かを振り分けるための尺度としては依然として有力だと考えられます。
内容について,種々説明がありますが,分かりやすくすると,次のようになります。
大分類Ⅰ
自発的に
開眼:まばたき,動作または話している
JCS1:意識清明のように見えるが今ひとつすっきりしない
JCS2:何日か,どこにいるのか,または周囲の者(看護師,家族)が分からない
JCS3:自分の名前や生年月日が分からない
大分類Ⅱ
刺激を加えると
開眼,
離握手,または言葉で応じる
JCS10:呼びかけると,開眼,離握手,または言葉で応じる
JCS20:体をゆさぶりながら呼びかけると,開眼,離握手,または言葉で応じる
JCS30:痛み刺激を加えながら呼びかけると,開眼,離握手,または言葉で応じる
大分類Ⅲ 痛み刺激を加えても
開眼,
離握手,そして言葉で応じない
JCS100:刺激部に手をもってくる
JCS200:手足を動かしたり,顔をしかめる
JCS300:全く反応しない
現在では頭部外傷の意識障害の分類に関して国際的に広く用いられています。
分類としては,開眼,言語の応答,運動機能の3要素を尺度の基本として,それぞれを4から6項目に分け,それぞれの項目毎に1点から1点刻みで点数を振り分けて,その合計点数で評価するものです。
15点満点で意識障害なし,つまり意識清明となります。
Ⅰ 開眼(4段階)
自発的に開眼する=4点
言葉により開眼する=3点
痛みの刺激で開眼する=2点
開眼しない。=1点
Ⅱ 言語の応答(5段階)
見当識正常=5点
会話がめちゃくちゃ=4点
不適切な言葉=3点
意味不明な音声=2点
発声なし=1点
Ⅲ 運動機能(6段階)
命令に従う=6点
痛みの刺激に対し手足で反応=5点
痛みの刺激に対して四肢を引っ込める=4点
痛みの刺激で手足を異常に曲げる=3点
痛みの刺激で手足を異常に伸展させる=2点
全く動かない=1点
GCSは,あくまでも昏睡尺度であり,その後の転帰(治療経過,後遺障害)とはすべて一致するものではありません。
GCSは開眼,言葉および運動による応答を3要素に分けて表現しようとするものです。
JCSとの本質的な違いは,この3要素において開眼,言葉および運動を,それぞれ独立して観察・記載をしていて覚醒というものを取り入れていない点が優れているとされています。
しかし,逆にJCSが覚醒軸で意識レベルを表現するのに対して,GCSは3要素を並列することから,いろいろな組み合わせが可能となり(注:実に120通り),かえって複雑化しており,実態にもそぐわないという批判もあります。
例えば,発語しないとか,身体状況によって,「昏睡」程度として正常でありながら,点数が低くなると言うことが起こりえるのです。
また,意識障害が問題となるような場合,例えば開眼しているならば 言葉および運動による応答がどうであれ覚醒しているのであり,あえて点数化をして区別する意味はないとも評されているようです。
あるいは,命令に従うならば,開眼していなくとも覚醒しているか,結局覚醒したわけであり,これも同様に,実態とは合わないのではないかと言うことです。
そのことから開眼,言葉を用いないで運動項目だけという医療機関もあるようです。
そのようなことから,受傷時のグラスゴーコーマスケールGCSが満点でないことをことさらに取り上げて,「意識障害がある」と主張するのは妥当とは言えません。
外傷性脳損傷とは,外部から物理的な力が作用して頭部に機械的なエネルギーが付加された結果起きた急性の脳損傷である。
とした上で,診断基準として第一要件,第二要件,そして除外項目を設けています。
第一要件:受傷後に混乱または見当識障害,30分以内の意識喪失,24時間未満の外傷後健忘,または(and/or)これら以外の短時間の神経学的異常,たとえば局所徴候,痙攣,外科的治療を必要としない頭蓋内疾患等が少なくとも一つ存在することである。
第二要件:外傷後30分後,ないしは後刻医療機関受診時のGCS(グラスゴーコーマスケール)の評価が13点から15点に該当することである。
除外項目
上記の症状が以下の事由によってもたらされたものではないこと
1 薬,アルコール,処方薬
2 他の外傷または他の外傷の治療(たとえば全身外傷,顔面外傷,挿管)
3 心的外傷,言語の障壁,同時に存在する疾病
4 穿孔性頭蓋脳外傷
ただし,混乱=confusionについては,混迷あるいは錯乱の日本語を当てる解釈もあります。
【コメント】
WHO(世界保健機構)における診断基準は,脳損傷を残す可能性のある受傷時の意識障害の程度に関するもので,その後の症状程度までを分類するものではありません。
つまり実際には,症状の程度と意識障害の程度とは必ずしも比例するものではないと言われています。
これは受傷時の診断基準ですので、後遺障害としての認定基準とまではいえません。なお,意識障害というと気絶などの意識喪失のみをイメージしやすいのですが,
第一要件として
(1)受傷後に混乱または見当識障害
(2)30分以内の意識喪失
(3)24時間未満の外傷後健忘
(4)短時間の神経学的異常
を同列に置いています。
第二要件として,外傷後30分のGCS(グラスゴーコーマスケール)の評価が13点から15点でよいとしています。
GCSが15点とは満点ですから,医療機関を受診した際に,意識清明であるとか,それに近い状態でもよいとしているのです。
すると,第一要件と合わせ,
(1)受傷後に「混乱または見当識障害」とは,何かをめぐって議論があります。
いわゆるMTBIの提唱者の医師の見解によれば意識喪失はなくとも,ぼーっとして混乱がある,あるいは興奮状態といった意識の変容も含まれ,それが受診時には治まっている場合も意識障害に該当することになります。
これに対して,confusionに対する訳語では,従来から錯乱が多くは当てられており,この一般的な解釈では「せん妄」あるいは「場所的見当識の一時的喪失」という概念に近くなります。
また混迷,混乱,錯乱,いずれの日本語であるにしても,またはとして「見当識障害」となっていることから,興奮状態をも含むことは無理があるように思われます。
この点は,現在,WHO基準を日本においても適用しうるかという議論の中で,仮に適用するとしても,その程度の解釈論の問題として争点となっており,いわゆるMTBI論に対する批判がされている点でもあります。
(2)30分以内の意識喪失も,受診時には意識清明かそれに近い状態であっても意識障害に該当することになります。
(3)24時間未満の外傷後健忘は,外傷後,受診時,それ以降,帰宅したとしても,その後の記憶に健忘部分があれば意識障害に該当することになります。
この(2)(3)については,理論的な問題もさることながら,立証,つまり記録化及び客観化の問題があるようです。
さらに,WHO基準は,診断基準とされています。
それは,器質的脳損傷に限らない診断基準とされていることから,仮にこの基準に合致したとしても,後遺障害としての高次脳機能障害の因果関係の前提となる意識障害とは論理的にはならないものです。
治癒することも多く,日常的出来事を思い出す能力が持続するようになったときに外傷後健忘は終了したとされます。
(2) 判定基準としては,GOAT(Galveston Orientation and Amnesia Test)が用いられています。
GOATは,氏名・現在日・場所といった見当識及び事故後の健忘を検査するものです。以下のような項目があります。
①氏名を言って下さい(姓名とも言えないと2点減点)。
誕生日はいつですか(4点,以下減点の点数です。)。
どこにお住まいですか(市町村)。(4点)
②ここはどこですか(市町村)(5点)。さらに「病院にいる」と答える。(5点)
③いつこの病院に入院しましたか。(5点)
どうやってここに来ましたか。(5点)
④事故に遭ってから,思い出せる最初の出来事は何ですか。(5点)
その出来事について,例えば,日時やそばにいた人など詳しく述べて下さい。(5点)
⑤事故に遭うまで思い出せる最近の出来事について述べて下さい。(5点)
その出来事について,例えば,日時や一緒にいた人など詳しく述べて下さい。(5点)
⑥今,何時何分ですか。(30分ずれる毎に1点減点で,最大5点まで減点)
⑦今日は何曜日ですか。(一日ずれる毎に1点減点で,最大3点まで減点)
⑧今日は何日ですか。(一日ずれる毎に1点減点で,最大5点まで減点)
⑨今,何月ですか。(一ヶ月ずれる毎に5点減点で,最大15点まで減点)
⑩今年は何年ですか。(一年ずれる毎に10点減点で,最大30点まで減点)
(3) GOATは,100点から,上記の配点にしたがって減点することで評価をします。そして,75点以下の場合に事故後健忘が続いていると評価されます。
(4) 外傷後健忘の意味としては,脳損傷の重症度と予後の予測に有用であることです。
一般に,受傷後の昏睡期間を除き,GOATが75点以下の状態が2週間以上の場合には予後が悪いとされています。
外傷後健忘は,いわゆる「せん妄」だけで説明できるものではなく,広範囲の高次脳機能障害を伴っていると言われています。
(5) 外傷後健忘の快復後も,逆行性健忘はしばらくは残るものの,一般的には徐々にその期間が短縮しますが,受傷直前の短期間の逆行性健忘は永続することがあるとされています。
(石合純夫著 「高次脳機能障害学」医歯薬出版(株)p181,182参照)