Q.外傷性脳損傷にはどのようなものがありますか。
頭蓋骨骨折により脳損傷が起こることはもちろんあります。
しかし,頭蓋骨骨折がなければ脳損傷が起こらないとは限りません。
また,直接的な打撃が頭部になければ脳損傷が起こらないとも限りません。
例えば,頭蓋骨の変形による損傷は骨折がなくとも頭蓋骨のたわみによって直下の脳組織に損傷が起こるとされています。
あるいは,回転性加速度衝撃では頭部が頚椎を支点として,回転性に加速ないし減速される運動をすると,脳は異なった物理的な性状を有する組織からなっているので損傷をします。
この場合には,頭蓋骨は無傷であっても脳は損傷します。
外傷性脳損傷には,次のようなものがあります。
脳挫傷,びまん性軸索損傷,外傷性脳内血腫,(外傷性)くも膜下出血,急性硬膜下血腫,硬膜外血腫,慢性硬膜下血腫があります。
脳細胞の挫滅,つまり壊死が部分的に群(巣)をなしてできたものが脳挫傷です。
また,時に多発性のことが多くあります。
損傷部位の周辺には浮腫が認められます。
直撃を受けた直下の直撃損傷と,その反対側の対損傷によることが多いとされています。
発症しやすい部位は前頭葉の先端部,側頭葉の先端部,後頭葉の後端部です。
脳挫傷から頭蓋内圧亢進症状と巣症状が出現します。
脳浮腫が発生し,局所の脳循環障害のため,挫傷自体と周辺の浮腫をさらに増悪させて,頭蓋内圧が上昇して,ついには脳ヘルニアへと移行することが多くあります。
救命されたとしても,重症例の多くが後遺障害を残存させると言われています。
頭部外傷は局所性脳損傷と広範性(びまん性)脳損傷に区分されます。
脳挫傷が前者の典型であるならば,びまん性軸索損傷は後者の典型です。
びまん性軸索損傷は,頭部外傷直後より昏睡状態が続いているにもかかわらず,頭蓋骨骨折はもちろん,CTによっても頭蓋内に血腫はおろか点状出血と言った病変が見当たらないものです。
軸索という脳細胞のネットワークが損傷して,脳細胞がびまん的(広範囲)に損傷します。
相当数が死亡あるいは高度の高次脳機能障害をはじめとした後遺障害を残存させるものです。
脳内血腫とは頭部への衝撃によって脳の実質に出血が起こり血腫を形成したものを言い,外傷を原因とするものを外傷性脳内血腫と言います。
発生としては,
①粉砕骨折による骨片が脳に刺さり脳実質に出血
②異物が脳実質を貫通して創ができたことによる出血
③脳挫傷に近接して脳の内側実質に出血
④衝撃を受けた側とは反対側の脳内に出血
なお,血腫自体がゆっくりと大きくなることがあり,亜急性期(受傷4日から3週間まで)に症状が悪化するものがあります。
これを遅発性(晩発性)脳内血腫と呼びます。
受傷直後から意識障害が続いていることが多いとされています。
遅発性(晩発性)脳内血腫では血腫の増大によって亜急性期に意識障害の程度も進行します。
その他の症状も脳挫傷,硬膜下血腫等と類似しています。
くも膜下出血とは,くも膜下腔(くも膜と脳組織のすぐ表面をおおっている軟膜との間)に出血が起こり(脳脊)髄液に血液が混じった状態を言います。
くも膜下血腫とは言わずに「くも膜下出血」と通常は言います。
しかし,血腫がある場合には「くも膜下血腫」があると言うようです。
通常は,脳挫傷に伴って発生します。
衝撃のために発生した脳挫傷や脳裂傷によって起きた出血はくも膜下腔に広がり,既に破損された薄い軟膜やくも膜の外に大部分は出血して硬膜下血腫を形成します。
そのために,脳挫傷や硬膜下血腫を発症するような患者の場合には,多かれ少なかれくも膜下出血が起こっていると言えます。
頭痛,嘔気・嘔吐,意識障害等であり,脳挫傷があればその症状に応じた症状も出現します。頭痛はこれまで感じたことのないような激しいものとされています。
急性硬膜下血腫とは,頭部への打撃が頭蓋骨を通して脳の表面に及んで硬膜とくも膜の間に出血をして血腫ができるものを硬膜下血腫といいます。
そして,およそ受傷3日以内に発症したものを急性硬膜下血腫といいます。
血腫の下に脳挫傷や脳裂傷を伴っていることが多いとされています。
つまり脳の表面である脳皮質の動脈,静脈の出血や,脳の表面から硬膜静脈洞への(架)橋静脈の出血が発生原因となります。
好発部位は,中頭蓋窩,前頭蓋窩です。
ときには,後頭蓋窩や脳表を左右にまたぐようにできる血腫もあります。
受傷直後から意識障害が持続し,血腫の増大や脳浮腫の進行に伴って昏睡に陥ります。
意識清明期があるのは,血腫が薄くて,脳実質の損傷がごく軽微のものに限られると言われています。
(架)橋静脈が出血すると,大量で急速に起こるために脳挫傷が軽微であっても短時間で重篤な意識障害となります。
あるいは,(架)橋静脈の破綻にはびまん性脳損傷を伴うこともあるとされています。
急性硬膜下血腫は,脳挫傷,脳幹出血を合併していることが多く重症化しやすく,手術をおこなっても手術中に死亡するか,手術後に死亡するものが高率であると言われています。
予後は,悪いとされています。
救命できたとしても,よほど脳損傷が軽微で血腫除去が早期の場合でなければ,高次脳機能障害,半身麻痺,言語障害,外傷性てんかん等に悩まされることとなり得ます。
硬膜外血腫とは,頭蓋骨と硬膜の間に出血して血腫のできたものです。
頭蓋内では最も脳の外側にできるものです。
頭蓋骨骨折によって硬膜血管が破綻して硬膜と頭蓋骨の間に出血して血腫ができるものが90%を占めると言われていますが,骨折のない例が若者に多いとも言われています。
発生しやすい部位は,側頭から頭頂部が多く,ほとんどが片側(一側)性です。
硬膜外血腫の典型例では脳実質の損傷がなく,血腫による脳の圧迫だけが問題となるので,血腫を早期に除去すれば予後は良好で後遺障害も残らないことが多いとされています。
しかし,問題は,血腫を見逃して診断と治療が遅くなれば重症化したり生命の危険をもたらすこともあります。
受傷直後の意識障害がなく,むしろ意識清明であったりすると,血腫の発生を見逃しやすいとされています。
慢性硬膜下血腫とは,硬膜内面の外側被膜(外膜)とくも膜表面の内側被膜(内膜)に包まれた暗赤色流動性の血腫です。
急性硬膜下血腫のような単純に硬膜とくも膜との間に出血して形成された血腫ではありません。
また,急性硬膜下血腫との違いは,単純に急性か慢性かということではなく本質的に異なる病態に属します。
軽微な外傷後3週間から数ヶ月で血腫が徐々に増大して,圧迫による症状が現れてくるものです。つまりゆっくりと大脳表面の硬膜下に血腫がたまってくるものです。
受傷後2ヶ月から3ヶ月頃に症状が現れてくるものが多く,若年者よりも高齢者に多く見られるとされています。
初期症状は,頭痛です。
血腫の増大とともに血腫と反対側に片麻痺が生じて,その後に意識障害を呈してきます。
急速に意識障害が生じることもあります。
頭痛が生じた場合には,CT撮影で血腫があるかを探る必要性があります。