Q.高次脳機能障害の症状固定時期については,どのように考えたらよいのでしょうか。
高次脳機能障害の症状固定時期については,医学的に測定が一定可能な,知能と記憶に着目して,一応の基準として事故から2年程度となりそうです。
しかし,一応の基準ですから,年齢等により異なることがあり得ます。
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症状固定とは,その怪我が治ったわけではなく,治療の効果がもうこれ以上は期待ができず,将来においても回復の見込みがないことを言います。
高次脳機能障害は,脳の障害であることから,他の身体的障害と異なる面があります。
それは,被害者本人の障害だけではなく,その人を受け入れる社会の側の問題があると言うことです。
高次脳機能障害については,今まで社会が認識をしていなかったために,受け入れる体制になっていないのが現実です。
さらに,知能の障害である認知障害は分かりやすいものの,人格変化である情動障害あるいは行動障害については労働能力との関係で上手く当てはめて理解することが難しいのです。
そのような点から,高次脳機能障害の症状固定時期を定めていくことに困難があるのです。
2 機能障害,能力障害,社会的不利益(ハンディキャップ)との関連は (クリックすると回答)
高次脳機能障害を考える上では,機能障害,能力障害,社会的不利益(ハンディキャップ)が必要だとされています。
症状固定時期を考える上ではそれらはどう影響するのでしょうか。
高次脳機能障害の認知障害に関して,検査が可能であるのは,知能と記憶と言われています。
知能については,医学的にみて一般的には1年まで回復は継続するけれども,2年目にかけては大きく回復しないと言われています。
記憶については,知能の改善よりは遅れるものの,回復は3年まで続くと言われています。
高次脳機能障害を負った人は,認知障害に加えて,動作の点でも能力障害を負い,それらが合わさり社会的不利益(ハンディキャップ)となっていきます。
しかし,社会的不利益(ハンディキャップ)は,社会復帰をして初めて体験するものであり,受け入れる社会の変化により,また変化をしていくものです。
その点から,症状固定時期を考える上は,社会的不利益(ハンディキャップ)を要素に入れると,社会が変化しない限り,いつまでも症状固定とはならないと言うことになってしまいそうです。
高次脳機能障害の症状固定時期については,医学的に測定が一定可能な,知能と記憶に着目して,一応の基準として事故から2年程度となりそうです。
以下に,高次脳機能障害の症状固定時期が問題となった事例の判決を整理しました。
およその傾向としては,2年程度と言うことが一つの目安になっているようです。
もちろん2年未満の例もあります。
なお,約2年6ヶ月とする②は,事故当時5歳ということから小学校入学時期までの様子を見たと言うことだと思われます。
また5年以上となった④は,高次脳機能障害が後に見つかったという極めてレアなケースです。
①大阪地裁 平成10年11月12日判決
事故日 平成5年6月14日
症状固定日 平成6年11月8日(約1年5ヶ月)
脳挫傷、外傷性くも膜下出血
後遺障害等級表1級3号該当(当時,現在1級1号)
②大阪地裁 平成12年10月30日判決(リンク)
事故日 平成7年5月27日
症状固定日 平成10年5月31日(約2年6ヶ月)
5歳男子脳内出血、外斜視等で中枢神経障害と精神障害の併合2級後遺症
③大阪地裁 平成15年1月27日判決
事故日平成6年12月17日
症状固定日 平成8年5月31日(約1年6ヶ月)
硬膜下出血等から精神神経障害との併合1級18歳女子大学生
④東京地裁 平成15年8月26日判決
事故日 平成8年12月6日
症状固定日 平成14年4月4日(約5年5ヶ月)
必ずしも判然としなかった脳外傷による高次脳機能障害が残遺していることが明らかになったことから、平成14年4月4日を症状固定日として取り扱うことが妥当と判断する。
⑤神戸地裁 平成12年1月20日判決
発生日時 平成8年8月13日
症状固定日 平成9年12月13日(1年4ヶ月)
治療中に主治医は、平成9年12月13日時点で、発動性、注意力、見当識、記銘力、病識の欠如を指摘して(特に記銘力低下は重度であるとする。)、今後の症状の改善は期待できないと診断した2級3号(当時)
⑥大阪地裁 平成15年2月6日判決
事故日 平成8年7月19日
症状固定日平成10年7月31日(約2年)
被告の1年間で症状固定の主張を退けた。
⑦大阪地裁 平成19年9月26日判決
事故日 平成13年7月5日
症状固定日 平成15年9月25日(約2年2ヶ月)
19歳男子大学生2級3号(当時)
⑧千葉地裁 平成21年11月10日判決
事故日 平成17年3月9日
症状固定日 平成19年1月12日(約1年10ヶ月)