Q.女児(年少女子)が死亡した場合の逸失利益の計算については,どのようにしますか。
死亡逸失利益の計算方法としては,18歳未満の方式によります。
ところで,女児(女子)の死亡については逸失利益での基礎収入における男女格差をどう考えるのか及び生活費控除率が問題となっていました。
最近の裁判の傾向では男女格差をなくす努力がされています。
1 まず,一般的に死亡逸失利益の計算方法はどうですか。
逸失利益とは,死亡していなければ得られたであろう利益のことです。
計算式としては,次のようになります。
基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
生活費控除率を差し引くのは,生存したであろう生活費が死亡したことによって不要となったための損益相殺と言うことで説明されています。
就労可能年数に対応するライプニッツ係数とは,現在年齢から67歳までの年数に対応するライプニッツ係数ということです。
ライプニッツ係数とは,将来にもらえる収入を現在もらうことに対して現在価値に引き直す方法です。
なお,この計算式は,18歳を超える有職者または就労可能者を前提にしており,18歳未満の場合は,そのままでは当てはめることはできませんので,次の2のやり方になります。
2 18歳未満の死亡逸失利益の計算方法はどうですか。
計算式は,次のようになります。
基礎収入額×(1-生活費控除率)×(①死亡時年齢から67歳までのライプニッツ係数-②死亡時年齢から18歳までのライプニッツ係数)
例えば12歳では
①67年-12年=55年であるので55年に対応するライプニッツ係数=18.6335
②18年-12年=6年であるので6年に対応するライプニッツ係数= 5.0757
すると,18.6335-5.0757=13.5578
これが12歳に適用されるライプニッツ係数となります。
3 年少女子の死亡逸失利益で問題となることは,何ですか。
ずばり基礎収入における男女格差です。これについては,現在の現実社会において存在している賃金の男女格差に対してどのように考えるのかという問題です。
賃金センサスという統計資料から見れば,賃金の男女格差は,歴然としてあります。しかし,その事実について憲法が定める法の下の平等に照らして受け入れるべきかどうかは別の問題です。
現実に即した考え方をするのか,それとも理想を貫くのかということで長く争われていました。また,合わせて,生活費控除率の違いもあります。
子どもの場合は,男の子は当然に独身ですから50%となります。それに対して女の子は,30%となります。
基礎収入について男女を同一にすると,生活費控除率の違いから男女の逆転が生じてしまいます。その調整が問題となります。
4 三庁共同宣言ではどのようになっているでしょうか。
三庁共同宣言というのは,平成11年11月22日に東京,大阪,名古屋の交通専門部の総括裁判官から出されたものです。
逸失利益について
「原則として幼児,生徒,学生,専業主婦の場合及び比較的若年,おおむね30歳未満の,比較的若年の被害者で生涯を通じて全年齢平均賃金または学歴別平均賃金程度の収入を得られる蓋然性が認められる場合については,基礎収入を全年齢平均賃金または学歴別平均賃金によることとし,それ以外の場合には事故前の実収入による」としています。
つまり幼児について言えば,逸失利益の基礎収入として「全年齢平均賃金または学歴別平均賃金程度」とすると述べています。
幼児の場合には,「全年齢平均賃金」となるはずですが,平均賃金とは男女別を指すのか,それとも全労働者を指すのかははっきりとさせませんでした。
三庁共同宣言が出された平成11年時点では,子どもの基礎収入の男女格差は,今後の問題という認識であったのかもしれません。
5 結論として女児の問題をどのように考えるべきでしょうか。
「交通賠償論の新次元」(判例タイムズ社 p27~31)では,三庁共同宣言以降の平成19年4月21日時点での東京,大阪,名古屋の各地方裁判所交通専門部の総括裁判官から各現状での女の子の死亡逸失利益に関する傾向ないし方向性が述べられています。
東京地方裁判所:全労働者の平均賃金,生活費控除率は45%
大阪地方裁判所:全労働者の平均賃金,生活費控除率は45%
名古屋地方裁判所:全労働者の平均賃金,生活費控除率は45%,ただし例外もある。
この様に見ると,女の子の死亡逸失利益については,全労働者の平均賃金,生活費控除率は45%ということが,少なくとも平成19年4月21日時点では定着しつつあると思われます。
そして,現在のところでは,男女差をできるだけなくす観点から,基礎収入としては死亡した年の賃金センサスの全労働者・学歴計・全年齢平均を採用した上で,生活費控除率は45%として算定される傾向にあります。
(交通損害関係訴訟 八木一洋・佐久間邦夫著 青林書院 p82 2009年初版)
なお,年少女子の範囲(何歳までか)については,見解の違いがあり一致したものがありません。