Q.死亡した被害者の相続人が相続放棄をした場合であっても,扶養の利益を喪失したことを理由として損害賠償請求ができますか。

[扶養,死亡,相続放棄]

A. 最高裁は,扶養利益の喪失としての遺族からの請求を認めています。
相続放棄をした相続人,内縁関係という相続構成では請求ができない事例において意味を持ってきます。
その場合に,

(1)被害者の生前の収入およびそのうち被扶養者の生計の維持に充てるべき部分
(2)被扶養者各人の要扶養状態および扶養されていた比率割合
(3)扶養を要する状態が存続していたであろう期間
を総合して適正に算定すべきであるとしています。

1 相続放棄と遺族の賠償請求

相続人が相続放棄をすると,最初から相続人とならなかったものとみなされてしまいます(民法第939条)。
したがって,死亡した被害者に発生した損害賠償請求権を相続することはできないこととなります。


しかし,相続人が「死亡者から扶養を受けていた場合に,加害者は固有の利益である扶養請求権を侵害したものであるから,相続放棄した場合であっても,扶養利益喪失による損害賠償請求」をすることができる(最高裁平成12年9月7日判決)とされています。


確かに,死亡した被害者に負債が多くて相続放棄をすることもあると思われますが,扶養の利益については保護すべきであるという考え方です。
したがって,不要利益喪失という構成による請求について,最高裁も認めていると考えられます。



2 扶養構成による場合の具体的金額の算出
上記最高裁平成12年9月7日判決においては,「個々の事案において,扶養者の生前の収入,そのうちの被扶養者の生計の維持に充てるべき部分,被扶養者各人につき不要利益として認められるべき比率割合,扶養を要する状態が存続する期間などの具体的事情の応じて適正に算定すべきである。」とされています。

すると,
(1)被害者の生前の収入およびそのうち被扶養者の生計の維持に充てるべき部分
(2)被扶養者各人の要扶養状態および扶養されていた比率割合
(3)扶養を要する状態が存続していたであろう期間
を総合して適正に算定すべきであるとしています。

3 具体例
上記最高裁判決は,相続放棄した被害者の子の加害者に対する不要利益喪失に対する訴訟でした。
最高裁判決は,結論として「被害者の就労可能年数終了前に成長して要扶養状態が消滅することを考慮せずに金額を算定した」として差し戻しをしました。
しかし,差戻後に和解が成立して判決にはいたらリマ線でしたので具体的な算定方法は不明です。

下級審において元々も相続権のない内縁の妻からの扶養利益喪失の訴えに対して,亡内夫との収入の差額を認定して以下のような判決を下した例があります。
先例的な意味があると思われます。

原告丙川は一郎の逸失利益の半分を扶養利益の侵害として主張し、生活保持義務があるところ、生前の収入、生計の維持に充てる部分、被扶養者につき扶養利益として認められる比率割合、扶養を要する状態が存続する期間等を考慮して決めるべきであり、半額をもって直ちに扶養利益の侵害額とすることはできない。
そして、生前の双方の収入の合計は月47万円余りであったこと、その差は約19万円であること、原告丙川は、今後現在と同程度の収入を得る可能性があること、生活費の3分の2は一郎が出していたこと、その他本件で現れた事情を考慮すると、扶養料としては月8万円程度で、1年で100万円が相当であり、30年間で1537万2,400円となる。
名古屋地裁 平成21年7月29日判決
自動車保険ジャーナル・第1811号
5年に渡る同居の長さで有職の原告を内縁の妻と認め、月8万円、夫67歳までの扶養侵害分(夫死亡逸失利益の約3分の1)を認めた判決例

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