Q.会社役員の休業損害等における基礎収入算定方法には,給与所得者との違いはありますか。
基礎収入について,会社役員については,原則として事故前の報酬の金額を採用するが,利益配当の実質を有する部分は,除くことで特別に異論はないとされています。
すなわち,労務対価部分に限られるということです。
労務対価部分が報酬に占める割合(寄与率)は,会社の規模・営業状態,その役員の職務内容・報酬額,他の役員や従業員の職務内容・報酬額・給与額等を勘案して判断されます。
(交通損害関係訴訟 八木・佐久間 青林書院 p79より) 。
死亡事案については,議論がありますが,後遺障害の逸失利益あるいは休業損害に関しては,基礎収入としては報酬額から利益配当部分を除いた労務対価部分が対象となると言うことです。
休業損害についての特徴や注意点は,どうですか。 (クリックすると回答)
1 事故後に会社が業績不振になった場合にも休業損害において基礎収入を計算する上では,影響しません。
2 名目的取締役であり,従業員として労働に従事していたような場合には,利益配当部分はないものとして全額が基礎収入とされます。
3 ワンマン会社に近いような形態では全額が基礎収入とはされず,賃金センサスとの比較から,報酬の7割程度が基礎収入とされることが多いようです。
4 同族会社で実際は従業員であるのに形式的な理由で監査役になっていたような場合に報酬全額が基礎収入とされる例もあります。
5 会社役員ではあったが,設計・製作技術者として高度な能力を有し,会社には代替しうる社員はおらず,もっばら設計・製作の実務を担当していたものであることが認められるる場合には全額労務提供に対する対価としています。
6 女性が,専務取締役として夫経営の会社に勤務していた場合に利益配当部分を40%であるとして,残る60%について基礎収入としたものがあります。
業務内容,他の従業員との比較,そして,設立以来,全く株主への配当がなされていないことを理由としています。
7 取締役となっているが実質は従業員である場合には報酬の全額を基礎収入としています。
8 他の役員の報酬や従業員の給与及びこれらの職務内容が明確に証明できなかったり,会社の経営者と親族関係にあるような場合には,利益配当部分があるとされやすいとも言えます。
9 会社となっていても,実質個人企業である場合には利益配当部分はなく役員報酬全額を基礎収入とされやすいと言えます。
10 会社設立して間もなくて実績がないような場合,例えば事故2週間前に設立した会社から受けることになっていた役員報酬月額80万円全額を労働の対価と認めた例もあります。