Q.逸失利益を一時金ではなく,年金のように定期的に2ヶ月に1回の支払いをさせることができますか。
逸失利益の支払い方法として定期金賠償が認められるかという問題です。
判例の流れからすると,難しいと言えます。
損害賠償は,様々な損害項目(費目)を合計した金額を一括した一時金として支払うことが原則です。
これに対して,年金のように定期的に一定の支払時期を定めて支払うやり方もあります。
これが定期金賠償の問題です。
将来の介護費用において問題となりますが,それを逸失利益にも当てはめることができるかというのがここでの問題です。
①将来の予想できない問題に対応するためです。
植物状態(遷延性意識障害)となった場合には,健常者の平均余命まで生存することが可能であるかどうかをはじめとして,不確かな面があるからです。
植物状態になった場合の後遺障害逸失利益についても,この点は当てはまると言えます。
なお,死亡した場合の逸失利益であれば死亡によって損害は確定しているので,この予想できない問題に対応するという点でのメリットは乏しいと言えます。
②もう一つの側面は,被害者側,つまりは損害賠償請求権者からのものです。
(ア)一時金だと中間利息として年5%控除され手取額としては,いかにも少ないという気持ちが残ります。過失相殺があればなおのことです。そこで,定期金払いにすれば,その中間利息控除が回避できるのです。
(イ)事件や被害を風化して欲しくないという,制裁的な気持ちからです。つまり,定期的に支払えば,その都度,加害者も思い出して反省の念を抱くだろうと言うことからです。
3 それでは逸失利益についても定期金賠償を認めるべきでしょうか。 (クリックすると回答)
上の観点からすれば,植物状態の場合は将来の予想ができない問題があることから逸失利益についても定期金賠償になじむと言えます。
他方では,定期金賠償とするときに加害者と被害者とどちらにメリットがあるかの点では,将来の予想できない問題に対応できることは介護費用と同様に加害者側,つまり賠償側にメリットがあると言えます。
しかし,後遺障害であっても,植物状態のような将来の予想できない問題がない場合には,賠償側にはメリットはないことになります。
他方では,被害者側である賠償請求権者にも中間利息控除が回避できるという実質的メリットがあります。
後遺障害逸失利益についての定期金賠償に関する判例は,ほとんどありません。
これは賠償請求権者からの請求がないからだと思われます。
危険運転致死の典型的なケースとして有名となった事案について,一定の範囲で逸失利益を命日に支払うことを命じたものがあります。
俗に命日判決といわれているものです。(東京地裁 平成15年7月24日判決)
そして,この判決は既に確定しております。
しかし,事案の特殊性,とりわけ悪質性から導かれる結論と言えることから,一般化をすることはできないと言えます。
死亡の場合においては,多くの裁判例では既に逸失利益は具体的に損害として確定しているとして被害者側からの定期金払いの方式を否定しております。
さらには,「中間利息の利率と実勢利率の乖離については中間利息を控除する場合に法定利率を用いるべきかという議論にすぎず、判例(最高裁判所平成17年6月14日)を踏まえても改めて議論する意味がないというべきで、この点を考慮して定期金賠償を採用する理由はない」というものもあります(名古屋地裁 平成26年8月21日判決)
このことは,死亡による逸失利益のみならず後遺障害逸失利益にも該当するものといえます。
被害者側であるあなたが望んだとしても,定期金賠償が認められることは現在は難しいと思います。