Q.鎖骨変形は,どのような外傷で生じますか。また後遺障害(後遺症)は,何級となりますか。
鎖骨骨折あるいは肩鎖関節脱臼だけでは,後遺障害とはなりません。
鎖骨の変形治癒,つまり変形障害となった場合に対象となります。
鎖骨の変形は,鎖骨骨折で生じますが,肩鎖関節脱臼による烏口靱帯及び肩鎖靱帯の断裂にいよっても,生じます。
また,鎖骨変形については,後遺障害と認定されたとしても労働能力に影響するかが争点となることが多くあります。
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1 鎖骨骨折
鎖骨に影響して鎖骨変形として後遺障害が残る可能性があります。
鎖骨骨折後の後遺障害(後遺症)は「鎖骨に著しい変形を残すもの」として後遺障害12級5号が考えられます。
しかし「著しい変形」とは裸体になったときに変形が明らかに分かる程度に限定されます。
そこで,レントゲン写真ではじめて変形が発見される程度では該当しないことになります。
なお,合併症として「鎖骨に著しい変形を残すもの」として後遺障害12級5号に該当することに加えて,肩関節にも運動障害(12級6号)が残った場合には併合して11級となります。
また,12級5号に該当しなくとも痛みが残存すれば14級9号の可能性があります。
あるいは,痛みが残存しても12級5号に該当すれば,それに含まれます。
その場合には,12級5号としての逸失利益が否定されても14級9号として認められる可能性があります。
2 肩鎖関節脱臼
肩鎖靱帯,烏口靱帯がともに,完全断裂しても靱帯損傷が修復されれば後遺障害は残らないといえます。
ただし,圧痛が残存すれば14級9号となる可能性はあります。
もし,手術ではなく保存的治療が選択された場合に,鎖骨が上方に転位したままになり,それが外見上明らかであれば,変形治癒として鎖骨変形である12級5号となる可能性があります。
3 鎖骨変形障害による労働能力喪失(=逸失利益)
「鎖骨に著しい変形を残すもの」としても,労働能力喪失には実際上は影響しないとして争いの対象になりやすいと言えます。
鎖骨変形それ自体では機能障害とは言えないと逸失利益を否定した判決もあります(大阪地裁平成9年8月29日判決,大阪地裁平成17年12月9日判決,静岡地裁平成18年1月18日判決)。
しかし,次のような場合には,労働能力喪失が認められると考えられます。
(1)「著しい変形」とは,裸体になったときに変形が明らかに分かる程度に限定されます。
すると,モデルのような容姿自体が仕事の上で重要性がある場合には,労働能力喪失を肯定できると考えられます。
(2)鎖骨変形は直接には肩関節の機能障害ではありません。しかし,鎖骨変形が肩関節に与える影響は否定できません。
だが,その場合も12級6号でいう健側の4分の3以下に制限されたという程度に至らないことが多いと思います。
但し,主に肉体的労働者,スポーツ選手等においては,労働能力喪失を肯定できるのではないかと考えられます。
(3)疼痛を伴う場合鎖骨変形は疼痛を伴うことが多いとされ,その場合の疼痛も変形障害に含まれるとされています。
しかし,その疼痛が労働に意欲や効率の面で影響していることもあるかと思います。
そのような場合には,変形障害だからと言うことで労働能力喪失を否定することはできないと考えます。
具体的な仕事の内容と疼痛の与える影響を主張立証することで,労働能力喪失を肯定できると考えます。
4 鎖骨と肩関節
鎖骨は,肩甲骨とともに,上肢帯として上肢の骨格をつくっています。
上肢帯とは自由上肢を体幹に結びつける帯の役割と言うくらいの意味です。
しかし,鎖骨は肩関節を形作るものではありません。
肩関節は,肩甲骨関節窩と上腕骨頭で作られているものです。
その肩関節を補強支持するものとして肩鎖関節・胸鎖関節があります。
肩鎖関節は,肩峰関節面と鎖骨関節面で作られ,胸鎖関節は,胸骨の鎖骨切痕と鎖骨の胸骨端で作られています。
肩関節は,それのみではなく,肩鎖関節,胸鎖関節そして周辺の靱帯を含めた複合体として運動をします。
鎖骨骨折は,肩鎖関節,胸鎖関節にダメージがありますが,肩関節そのものではありません。
そして,肩鎖関節は,肩鎖靱帯と烏口靱帯の二つの靱帯に支えられています。
肩鎖靱帯は,関節包を補強して肩鎖関節の前後方向の安定性を保っています。
烏口靱帯は,肩鎖関節から少し離れたところにあって,その上下方向の安定性を保っています。
外傷によって,この二つの靱帯のいずれか,あるいは両方が損傷することで,肩鎖関節にダメージがありますが,やはり肩関節そのものではありません。
それらの理由から,鎖骨骨折や肩鎖関節脱臼では肩関節の可動域制限もたらすことは,まずないのです。
あるいは,肩関節の可動域制限をもたらすことがあったとしても,認定基準以下の制限にとどまります。
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烏口(鎖骨)靱帯損傷(リンク)