Q.被害者が事故とは関係のない原因で死亡したら逸失利益と将来の介護費用は,どうなりますか。(切断説と継続説)
事故とは無関係な出来事で死亡したとしても,
その相続人は被害者が得られたであろう後遺障害逸失利益をそのまま相続することができます。
他方で,死亡後の介護費用は請求できません。
この点は,逸失利益について切断せずに認められることとは異なっています。
これらは,最高裁で判断が出されて,
それぞれ貝採判決
あるいは介護費用判決と呼ばれています。
しかし,それでも事故当時に死亡の原因が存在したのかどうかでの影響といった残された問題があります。
1 切断説と継続説
この途中死亡の場合に,後遺障害による逸失利益あるいは将来の介護費用は死亡するまでのものに限定されるのか否かの問題です。
つまり死亡によって切断されるのか(これを切断説と呼びます。),
それとも死亡後であっても,将来分ついても認められるのか(これを継続説と呼びます。)
という議論がありました。
2 議論の背景
逸失利益については,切断されてしまうと,つまり被害者が死亡するまでのものに限定されるとと,
死亡前と死亡後では同じ逸失利益でも扱いが異なってくるからです。
すなわち,死亡については生活費控除があります。
同じ逸失利益の金額でも,重度後遺障害であれば生存しているのですから,
生活費控除はないのに,死亡であれば控除されるのです。
生活費控除率は状況に応じて,30~50%の幅がありますが,かなりの率での控除です。
この点が議論となったのは,受取金額に大きな影響を与えるからです。
将来の介護費用については,切断されてしまうと
事件の解決が死亡前と死亡後では同じ介護を必要とする事案であっても損害賠償額が大きく異なってくるからです。
3 理論的問題
理論的には,交通事故の損害は,事故発生の時点で後遺障害も含めて一定の内容として発生しているのであるから,
その後の出来事が影響を与えるのかどうかと言うことが問題となりました。
損害が事故時点で発生しているのは当たり前ではないかと考えれば,先ほどの継続説が自然の結論となるのです。
しかし,当たり前というのは逸失利益だからなのかもしれません。
他方では,将来の介護費用ということになると,介護を必要としている人が死亡しているのにかかわらず
介護費用が発生するというのもおかしな気がします。
そのために,切断説が当然です。そういうバランスをとる意味で,理論的にも問題となったのです。
4 結論
結論から言えば,被害者が後遺障害を負って,逸失利益を請求できる場合に,
事故とは無関係な出来事で死亡したとしても,
その遺族は被害者が得られたであろう後遺障害逸失利益をそのまま相続することができます。
他方では,将来の介護費用を請求できる場合に,死亡した場合,
その遺族は被害者が得られたであろう将来の介護費用を請求することはできないことになります。
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逸失利益の問題は,既に,最高裁第一小法廷平成8年4月25日判決(貝採判決と呼ばれています)等で決着が付いています。
すなわち,継続説をとって,後遺障害の逸失利益は被害者の死亡によっても原則として影響されないことになっております。
貝採判決は,事故後の出来事は損害には影響をしないという理論的な理由に加えて,被害者が事故とは関係のないことで死亡した場合に,それを影響させると加害者が義務の全部あるいは一部を免れる反面,被害者ないしその遺族が損害賠償で不利益を被って不公平になるということを述べています。
これに対して,将来の介護費用については,被害者が死亡した場合には請求ができないという判決があります 。
最高裁第一小法廷平成11年12月20日判決(介護費用判決)は,切断説を採って,将来の介護費用は被害者の死亡によって終了することになって決着をみております。
この最高裁判決は,被害者が死亡すれば,その時点以降の介護は不要となるのであるから,もはや命じる理由はないことに加えて,その費用を加害者に負担させることは,被害者の遺族に根拠のない利得を与えて不公平になるということを述べています。
6 貝採判決と介護判決との整合性はどうなのですか。 (クリックすると回答)
この介護費用判決は,交通事故の発生時に損害も発生するという法律論はフィクションであるとして,不公平になるような場合にまでそのフィクションを貫くべきではないとして,介護費用については,継続説ではなく切断説をとったのです。
他方では,逸失利益については,貝採判決では公平のために,事故時に損害は発生するというフィクションをあえてとりました。
この二つの判決の論理に整合性はあるのかという疑問があります。
しかし,実質的な妥当性から,この判決の判例としての価値が失われることはないと思います。
7 事故当時に死亡の原因があった場合には,どうなりますか。 (クリックすると回答)
貝採判決では,「交通事故の時点で,その死亡の原因となる具体的事由が存在し,近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り」という限定を付けています。
つまり,事故後に別の原因で死亡しても原則としては,逸失利益に影響を与えないけれども,事故当時に原因があって,そのために後日死亡した場合は例外になると述べています。
例えば,事故当時にガンに罹患していた場合で,後遺障害を負ったけれども,そのガンによって死亡した場合には逸失利益について死亡時点までで区切られてしまう可能性があります。