Q.脾臓摘出したのですが,逸失利益は認められますか。
脾臓摘出による逸失利益とは現在の後遺障害等級(13級11号)のとおり喪失率9%で認められる傾向にあると思われます。
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脾臓
脾臓は,腹腔の左上部にあって横隔膜と胃底に接しています。
重さは約150グラムのリンパ性実質臓器です。
脾臓は,赤脾臓と白脾臓に区別されています。
赤脾臓は,老廃した赤血球をマクロファージで貪食処理する言うなれば血液濾過装置です。
白脾臓は,構成するBリンパ球が抗体産生細胞に成熟して抗体再生を開始するので,抗体再生機能を果たしています。
さらに脾臓としては,血液の血小板の貯蔵機能もあります。
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脾臓摘出についての医学的な考え
脾臓にはこの様に大切な機能がありますが,脾臓の全摘出をしても,肝臓,リンパ節,骨髄などにその機能が代償されて,人体には影響がないとされています。
他方で,脾臓は人体最大の免役臓器であることから摘出後の影響がないとは言い切れないとして厚生労働省専門検討委員会でも肺炎球菌,髄膜球菌,インフルエンザ菌といった感染症にかかりやすいという指摘がなされています。
さらに,発症率は低いものの脾臓摘出後重症感染症あるいは脾臓摘出後重症敗血症といった死亡にいたるまでの重い感染症の発症も言われており,万が一発症した場合の死亡率もかなり高いと指摘されています。
なお,脾臓摘出後の死亡と事故との因果関係を認めた判決があります(東京地裁昭和62年1月27日判決)。
しかし,脾臓摘出だけでそのような感染症を発症するのか,その患者の基礎的疾患との関連性はあるのかないのか,医学的にもまだ未解明なものが残っています。
感染防御機能の低下の面を重視すると,労働能力喪失への影響は大きく13級11号に留まらないものと言うことになります。
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等級変更後の裁判例の傾向
有力な見解としては,感染防御機能の低下を重視して,変更前の等級(8級)を前提として20ないし40%を目安にするとも言われていました。
13級変更後の裁判例としては,目立ったものがないために,13級の9%で実務としては落ち着いていると考えることができます。