Q.事業所得者(個人事業者)の休業損害・逸失利益について,基礎となる収入はどのように計算するのですか。

[事業所得者,個人事業者,固定経費]

A.

事業所得者とは,法人化していないで,個人名で事業を行っている人です。
自営業・自由業と呼ばれる人も含んでいます。

基礎収入として,原則は事故前年の確定申告書における所得額によります。
計算方法は,売上額から現価と経費を引いた残額を前提とします。
そして,固定経費についても一般的には加算されます。
さらに,所得における本人の寄与分が問題となります。

1 基礎収入の計算方法はどうなりますか。   (クリックすると回答)


事業所得者とは,法人化していないで,個人名で事業を行っている人です。
個人事業主,自営とか自由業者も同じことです。

基礎収入は,原則として事故前年の確定申告書における所得額によります。
資料としては,税務署の受付印がある確定申告書の控えによります。
控えに受付日印がないときや,控えが鉛筆書きであるときは,さらに市区町村長の納税証明書または課税証明書(所得額が記載されたものでなければなりません。)を出す必要が出てきます。
但し,収入額が年ごとに変動がある場合については,事故前の数年分を用いて平均額を算定することもあります。

計算方法は,売上額から現価と経費を引いた残額を前提とします。
固定経費は休業をしても,支出をしなければならないものです。
具体的には家賃・人件費等です。
通常は,相当性があれば休業損害として認められます。
そのためには,具体的な資料が必要となります。

2 本人の寄与分とは何ですか。  (クリックすると回答)


賠償対象となるのは,本人の寄与分の利益のみです。
事業所得に,本人以外の家族とか従業員の利益が含まれているならば,それは除外されてしまいます。
この寄与分は割合で認定されるのですが,実は極めて困難な作業です。
事業内容・規模あるいは家族や従業員の関与の程度とか,様々な要素が考えられます。
裁判例では5割,6割,7割と言ったものが見られますが,一般的な法則性を見出すことは困難で,事案毎の具体的な判断と言わざるを得ません。

3 請求できる固定経費としては,どのようなものがありますか。  (クリックすると回答)


休業していたとしても,支出の見込まれる固定経費には,租税公課,損害保険料,利子割引料,地代家賃,従業員給料,諸会費,リース料等が代表的です。

接待交際費については,業種によっては一部認められるものがあります。
保険外交員関して①冠婚葬祭費・慶弔費・お見舞い金②お歳暮・中元の贈り物および③飲食代の一部を認める判決もあります(東京地裁 平成23年1月26日判決)。

接待交際費がいわゆる変動経費である特徴から収入との関連性も検討しておりますが,保険外交員という職種の特殊性を考慮しているものであり,個人事業者(事業所得者)すべてについて一般化することはできるかは何とも言えません。

4 申告に問題がある場合(無申告・過少申告・赤字申告)にはどうなりますか。  (クリックすると回答)


(1)無申告・過少申告
交渉段階でもそうですが,裁判となったとしても厳しい状況となります。
確定申告があれば,原則として申告書の控えで認められるものが,別の資料を用いて立証をしなければならないからです。
別の資料とは収入・経費等を示すかなり広範なものとならざるを得ないものです。
裁判所としては,税金を正しく納めていないのに,賠償における「もらい得」を防ぐために厳格な証明を必要とするということです。

(2)赤字申告
無申告・過少申告と同じように厳格な証明が必要です。
しかし,正しく申告をしていることにより,多少は裁判所の評価としては無申告・過少申告とは,受け止め方がケースによりますが異なると思われます。
会計帳簿・預金通帳等による事業と金銭の流れの実態が証明されて相当の収入があると認定されたならば賃金センサスの範囲で認められることがあります。

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5 休業損害として申告所得を超える収入が認められることはありますか。  (クリックすると回答)


申告外収入ですが,過少申告とも言われそうです。

しかし,認める判決例も散見されます。
そのやり方も様々です。
個人事業者には,過少申告がありがちということを承知しているように思われます。
特に,「5 現実収入」を認めた例はタクシー運転手の妻の膨大な記録から立証を成功させたものです。
いずれにしても,大変な労力を要求されます。

(1) 修正申告をした場合に修正後の金額を認める場合があります。
(2) 固定経費の調整による場合もあります。
(3) 過少申告であることを前提に経費率を修正する場合もあります。
(4) 賃金センサスによる場合もあります。
(5) 現実収入を認める場合もあります。
(6) 専従者給与及び固定経費を加算する場合もあります。

6  事故に遭わなければ仕事をして得られたであろう収入を休業損害として請求することはできますか。(クリックすると回答)


事業所得者が,休業損害として請求できるのは,現実の収入減があった場合とされています。
すると,事故に遭わなければ仕事をして得られたであろう収入というのは,果たして現実のことなのかが問題となります。

例としては,
(1)映像コンテンツの企画,演出等の業務を行っていた事業所得者が事故による受傷によって請負契約が解除された(東京地裁 平成18年7月19日判決)
(2)歯科医師が個人事業者だが雇用形態に類似するとして事故により就労できなかった(大阪地裁 平成18年9月15日判決)
各場合においては,事故に遭わなければ仕事をして得られたであろう収入が休業損害として認められたものがあります。

7 休業中に代替労働力を使用した場合に,その費用を損害として請求できますか。 (クリックすると回答)


被害者が他の者を雇用するなどして事業を継続し収入を維持した場合には,一般に,それに要した必要かつ相当な費用が損害として認められます。

事故によって,業務ができない場合に代行要員に費用を支払った場合には損害として認められます(大阪地裁 平成11年8月31日判決)。

被害者本人の収入を著しく超える費用でなければ相当性は認められると考えられます(横浜地裁 平成15年3月7日判決)。

犬等の動物の飼育料については,単なる物の保管料ではなく,専門業者への代行及びその費用が損害として認められます(名古屋地裁 平成16年9月15日判決)。

8  減収がない場合であっても休業損害が認められますか。(クリックすると回答)


事業所得者(個人事業者,自営業者)の休業損害は,現実の収入減があった場合に認められます。
そして事故前後の収入の比較を行い,事故との間に相当因果関係の存在が立証された範囲で賠償を認めることとなるとされています(八木・佐久間 交通損害関係訴訟 青林書院 P141)。

しかし,事故前後の収入において減少がなくとも休業損害が認められる場合があります。
それは,本来であれば減少したはずが近親者の協力でそれを防止していた場合,
あるいは事業所得者(個人事業者,自営業者)の特性として営業活動と売上にタイムラグが生じてたまたま事故後に売上=所得が維持されているような場合です。

その根底には,事業所得者(個人事業者,自営業者)の基礎収入は,本人の寄与割合によることも関係していると考えられます。

妻と子どもが協力して個人鍼灸院の経営を維持した場合に本人の寄与分に相当する額を基礎収入とした例(大阪地裁 平成12年3月7日判決)からも,その点がうかがえます。

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