Q.死亡ではなく後遺障害(後遺症)でも近親者固有の慰謝料が認められることがあるのですか。
死亡については,民法第711条が定めています。問題は,後遺障害まで拡張できるのか,どの範囲までかと言うことです。 1 民法条文とその拡張 2 最高裁判例の射程範囲 最高裁昭和43年9月19日判決は, 3 最近の判決例の流れ
判例は「死亡に比肩する精神的苦痛」という表現をしております。
被害者本人の慰謝料だけではなく,その近親者にも慰謝料が認められることは,民法第711条が定めています。
それは,「他人の生命を侵害した」場合です。これが近親者固有の慰謝料です。
判例学説は,この範囲を拡張してきています。
先鞭をつけたのは,最高裁昭和33年8月5日判決です。
これは,
「死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛を受けた」として女児の顔面への後遺症に対する母親固有の近親者慰謝料を認めたものです。
「被害者が生命を害された場合にも比肩すべき,または右場合に比して著しく劣らない程度の精神上の苦痛を受けたときにかぎり,自己の権利として慰藉料を請求できるものと解するのが当裁判所の判例」であるとしています。
これによると,
①生命を害された場合にも比肩すべきとき
②①の場合に比して著しく劣らない程度の精神上の苦痛を受けたとき
という二つの場合があることになります。
最近の判決傾向としては,重度後遺障害であるかどうか,しかも介護を要するかどうかを重視していると思われます。
例えば,後遺障害1,2級の介護を必要とするような場合は,ほとんど無条件で近親者慰謝料が認められます。
その上で,近親者慰謝料の金額が争点となる傾向があります。
これは,被害者本人の慰謝料額が定額化しつつあることから,全体の金額の増加という実利もありますが,介護する当事者である近親者の実態を反映するものと思われます。
(同趣旨 高野真人著「交通事故判例140」学陽書房p269)
なお,介護を必要として,介護を行っている場合においても,近親者慰謝料が否定される可能性があります。例えば,大阪地裁平成20年4月28日判決では,「介護の負担は,決して軽微なものではないと認められるところである。しかしながら,これによる損害は,介護費用として別途損害賠償がされることにより,賄われるものである。」と将来介護費用が支払われることを理由に否定しているので,注意が必要です。