Q.頭蓋骨骨折によって高次脳機能障害は生じますか。
A.
頭蓋骨骨折がなくともびまん性軸索損傷により高次脳機能障害を残すこともあり得ます。
しかし,多くの頭蓋骨骨折は脳挫傷といった局所(局在)性脳損傷を発症させて,それによる嗅覚,視力等の障害,失行・失認・認知力低下などを残存させます。
頭蓋底骨折の中でも前頭葉眼窩部(OFC)損傷による高次脳機能障害(特に,社会行動異常や人格変化,遂行機能障害)を起こすことがあり得ます。
1 頭蓋骨の構造
(1)頭蓋骨
脳を格納する脳の保護器
頭蓋骨→神経頭蓋+顔面頭蓋
神経頭蓋→頭蓋円蓋部+頭蓋底
(2)頭蓋骨の分類
円蓋部と頭蓋底
円蓋部→前頭骨+側頭骨+頭頂骨+後頭骨等
いわゆるドクロのイメージの部分
(3)頭蓋底とは
頭蓋底→①前頭蓋窩・②中頭蓋窩・③後頭蓋窩
前頭葉底面を支える(防御する)
①前頭蓋窩→前頭骨眼窩部,篩骨篩板(しこつしばん),蝶骨骨体部・小翼
前頭骨眼窩部→前頭葉底部(眼窩部)への局所的損傷のリスク
(前頭葉眼窩損傷=OFC損傷)
篩板→嗅神経:嗅覚障害のリスク
蝶骨小翼→視神経:視覚障害のリスク
②中頭蓋窩→蝶骨骨体部・大翼,側頭骨鱗部,椎体骨前面
側頭葉底面を支える(防御する)
中頭蓋窩中央部→下垂体を格納
海綿静脈洞→動眼・外転・滑車の外眼筋に関わる神経と三叉神経
③後頭蓋窩→側頭骨錐体部内後面,後頭骨,小脳テント
脳幹(橋・延髄)・小脳を格納
顔面神経・聴神経,さらには舌咽・迷走・副神経,そして舌下神経が通過
2 特に重症化する頭蓋底骨折とは,中でも眼窩部(OFC)損傷について
(1)頭蓋骨にたわむような力が働くことによって頭蓋底に屈曲した線状骨折が生じたもの
(2)頭蓋底には,神経や血管が張りめぐらされていることから,脳神経や血管の損傷を 合併したり,髄液が漏れたり,空気は入ってきて頭蓋内気腫を合併するおそれ
症状は,頭蓋底の前部・中部・後部の3つにいずれかにより異なる
a)前部頭蓋底骨折(医学用語としては,前頭蓋窩骨折)眼の周りの皮下出血によるパ ンダの目徴候や鼻血が特徴
前頭葉眼窩部(OFC)損傷,嗅神経損傷,視神経損傷
【後遺障害(後遺症)】
嗅覚障害,視力障害。嗅覚脱失となれば12級相当一眼の視力を失えば9級2号,視 野狭窄となれば9級3号
さらに前頭葉眼窩部(OFC)損傷として社会行動異常,意思決定能力低下といった 高次脳機能障害
ただし,知能や記憶が保存されていることが多くわかりにくい。
b)中部頭蓋底骨折(医学用語としては,中頭蓋窩骨折)
【後遺障害(後遺症)】
顔面神経麻痺,聴力障害,外眼筋運動麻痺,三叉神経麻痺
c)後部頭蓋底骨折(医学用語としては,後頭蓋窩骨折)
【後遺障害(後遺症)】
特になし。