Q.入社して間もない会社員(25歳・男性・大学卒)の後遺障害(後遺症)14級9号認定された場合の逸失利益をシミュレーションして下さい。
若年者だから,大学卒全年齢平均を基礎収入として67歳まで逸失利益が認められるとは,限りません。 14級9号の場合には,67歳まで認められ常に全年齢平均賃金で認められることにならないので,注意が必要です。
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なお,詳細は続きをご覧ください。
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(1)実収入と年齢別平均賃金との比較
事故当時の年収が301万余円とします。
ところで,平成28年度賃金センサス学歴別(この場合は大学卒)年齢別(事故時25歳とします。
すると,(25~29歳)平均は447万余円となります。
設例の被害者は,平均の約67%となります。
裁判所の考え方では,既に年齢別において平均との「乖離」があることになり賃金センサス平均をそのままでは適用できないことになります。
(2)14級9号の労働能力喪失期間
そして,症状固定時の年齢を27歳として,そこから労働能力喪失期間が始まると考えます。
まず,14級9号(局部の神経症状)は頚椎捻挫等の捻挫系によるものとすると裁判所でも現状の運用では喪失期間は67歳までではなくて,5年間を上限としています。
すると,27歳から31歳までの5年間における労働能力喪失期間となります。
2 常に全年齢平均で認められると思うのは勘違いでしょうか。 (クリックすると回答)
逸失利益の基礎収入について無条件ですべての事案において学歴別を含めて全年齢平均賃金センサスが適用されると考えている被害者の方が意外に多いのです。
特に,若年者(おおむね30歳未満)だから平均賃金,しかも全年齢平均で当然という傾向があります。
しかし,それは三庁共同提言の趣旨に対する誤解とも言えるかもしれません。
3 三庁共同提言の正しい読み方とは,どうなりますか。 (クリックすると回答)
三庁共同提言とは平成11年11月22日に東京・大阪・名古屋の各地方裁判所において交通事件を取り扱う裁判官により,基礎収入の認定等の検討結果として判例雑誌に発表されたものです。
いわゆる平成11年三庁共同提言と呼ばれるものです。
共同提言の「生涯を通じて全年齢平均程度の収入を得られる蓋然性」の「生涯を通じて」というのは労働能力喪失期間が終生に及ぶ例えば骨折後の可動域制限あるいは高次脳機能障害,遷延性意識障害等を意味します。
14級あるいは12級の神経症状のように喪失期間が5年間あるいは10年間となる場合には,「生涯を通じて」は「労働能力喪失期間を通じて」と読み替えるべきというのが裁判所の見解のようです。
すると,生涯を通じて「全年齢平均程度」を得られる立証は意味をなさないことになり,基礎収入は年齢別平均賃金を用いることが合理的であるとも言えます。
(「交通事故損害賠償実務の未来」法曹会平成23年3月20日発行p122 参照)
裁判所の考え方によれば,設例では,事故当時の年収が301万余円であるので,これを基礎収入とした5年間分となりそうです。
若年労働者はいかなる場合でも積極的な主張立証がなくとも無条件で全年齢平均が認定されるというのは,「幻想」と言えそうです。
しかし,事故がなければ昇給の蓋然性がなかったのか,その点を十分に検討すべきです。
つまり,少なくとも労働能力喪失期間である5年間に「年齢別」平均に近づいたであろうことを検討すべきです。