Q.びまん性軸索損傷の証明としての画像所見についての現在の判決例の流れはどうなっていますか。

[CT,PET,SPECT,びまん性軸索損傷,意識障害,拡散テンソル画像,画像所見,MTBI]

A.


現在の判決例の流れは,CT,MRIのみを高次脳機能障害と受傷による因果関係の判断資料としています。
そして,意識障害はあくまでも必要であり,それも軽度ではなく,一定レベルの障害であることを必要としています。


第1 画像所見について
現在の判決例の流れは,CT,MRIのみを高次脳機能障害と受傷による因果関係の判断資料としています。

そして,それ以外の画像所見については,判断資料として評価しないという流れです。

 

1 PETについて 

PETのみで異常を診断することはできない

(平成23年3月4日 「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について(報告) p6 井田正博医師意見陳述」より)

 

2  DTI(拡散テンソル画像),SPECTについて 

神経軸索そのものを撮影したものでない点などにおいて,

外傷性脳損傷の発見の性能において評価が固まっている状態とは言い難い上,これら症状がびまん性軸索障害に特異な所見であるということもできない。

東京地裁 平成25年9月13日判決

 

3  CT,MRI以外の画像所見全体について 

拡散テンソル画像(MR-Diffusion Tensor Imaging),fMRI,MRスペクトロスコピー,PETについては,
それらのみでは,
脳損傷の有無,認知・行動面の症状と脳損傷の因果関係あるいは障害程度を確定的に示すことはできない。

東京地裁 平成25年3月26日判決

 

4 現時点での東京地裁を中心とする裁判の流れ 

脳の器質的損傷の判断に当たっては,CT,MRIが有用な資料である。

CTは,頭蓋骨骨折,外傷性クモ膜下出血,脳腫脹,頭蓋内血腫,脳挫傷,気脳症などの病変を診断できるが,

びまん性軸索損傷のように,広汎ではあるが微細な脳損傷の場合,CTでは診断のための十分な情報を得難い。

CTで所見を得られない患者で,頭蓋内病変が疑われる場合には,受傷後早期にMRI(T2,T2,FLAIRなど)を撮影することが望まれる。

受傷後2,3日以内にMRIの拡散強調画像DWIを撮影することができれば,微細な損傷を鋭敏に捉える可能性がある。

受傷から3,4週以上が経過した場合,重傷のびまん性軸索損傷では,脳萎縮が明らかになることがあるが,

脳萎縮が起きない場合にはDWIやFLAIRで捉えられていた微細な画像所見が消失することがある。
したがって,この時期に初めてMRIを行った場合には,脳損傷が存在したことを診断できないこともある。

これに対し,
拡散テンソル画像(DTI),fMRI,MRスペクトロスコピー,PETについては,それらのみでは,
脳損傷の有無,認知・行動面の症状と脳損傷の因果関係あるいは障害程度を確定的に示すことはできない。

東京地裁 平成25年9月6日判決

 

5 裁判の流れをどう見るのか 

(1)CT,MRIが有用な資料である。

(2)CTでは診断のための十分な情報を得難い。

(3)MRIについて受傷早期に受ければ損傷をとらえることはできるが,その後の経過による脳萎縮を必ずしもとらえることはできない。

(4)拡散テンソル画像(DTI),fMRI,MRスペクトロスコピー,PETについては,それらのみでは,障害程度を確定的にとらえられない。
「だから採用できない。」 と言っているようです。

また,これが東京地裁民事交通部の基本的な考え方であり,全国的な潮流を示していると言ってもいいと思います。
そして,これは平成23年3月4日報告の井田医師による「主役はCT,MRIであるが,重要なことは適切な時期にきちんとした検査が行われることである」と言うことに符合しているものです。


ところで,判決例の流れは,「有用」だが「頼りない」CT,MRI所見を絶対とするものではないと思われます。
それは,このようにCT,MRI以外の画像所見の評価をめぐる事例は,ほとんどが受傷時の意識障害に争いがあるものと思われます。
判決例は,基本的には意識障害レベルとしては論者が言う軽度のものでは外傷性脳損傷としての因果関係は認められないと判断が前提にあるものと言えます。

逆に,意識障害が重度もしくは中等度であれば,CT,MRIでの所見が明確ではなくとも,高次脳機能障害と受傷との因果関係は裁判所としては認めると言うことです。 
結論から言えば,この画像所見をめぐる評価の違いについては,意識障害レベルの違いが変形して現れたものです。

つまり,意識障害が極めて軽度であったり,あるいは無いために, CT,MRI以外の画像所見が争点となっていると言えます。
この画像所見をめぐる争点については,現時点では裁判所としてのスタンスは決まっており,それが変更されることは考えにくいと言えます。


第2 意識障害に関する判決例
なお,判決例の詳細については,続きをご覧ください。

(1)神戸地裁 平成20年10月14日判決  5級
意識障害(JCS10→11)が1週間継続

(2)大阪高裁 平成21年3月26日判決 9級
病院に搬送後,名前,場所は答えられたものの,事故状況は思い出せないという見当識障害があり,搬送後約6時間後にようやく意識清明になった

(3)東京地裁 平成21年3月31日判決 5級又は3級
「ボーとした状態」であり,自動車から出るように促されても,出てくることができず,結局,10分前後で到着した救急隊員によって車外に出され,(救急車で搬送された病院では)意識レベルは清明だが衝突時の記憶がない

(4)名古屋地裁 平成21年7月28日判決 7級
救急搬送された病院では,意識清明となっていた点から自賠責は意識障害がないとしたことに対して,判決は,「子どもが泣いていることをしばらく気づかなかった」意識もうろう状態にあったとした


これらの点から,自賠責基準から見て意識障害に該当しない場合であっても,このころの判決例としては,びまん性軸索損傷→脳損傷→高次脳機能障害を認める方向にあったと言えます。
(1)を最後に,軽度な意識障害でも,因果関係を認める判決例は,どうやら存在しないようです。もっとも,(1)も事実関係では,「大声で叫ぶ,体動あり」「不穏様,入眠傾向あり,事故の記憶なし」「転倒の衝撃で脳震盪を起こしているのか。」といった診療録の記載が証拠となっていて,必ずしも,意識障害は「軽度」とはいえないとも言えます。

(2)は,JCS,GCSでの数値のハードルを下げる争い方をしたのですが,自賠責の高次脳機能障害の審査対象事案となる基準値がイコール高次脳機能障害となりうる因果関係を示すものではないと断定されています。

(3)は,軽度外傷性脳損傷(MTBI)を主張したものです。
立証の難しい一過性の15分間程度の「意識障害」では認められないと言うことなのでしょう。

 


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意識障害の判決例については,続きをご覧ください。

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現在の判決例の流れは,CT,MRIのみを高次脳機能障害と受傷による因果関係の判断資料としています。

そして,それ以外の画像所見については,判断資料として評価しないという流れです。

1 PETについて 
PETのみで異常を診断することはできない
(平成23年3月4日 「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について(報告) p6 井田正博医師意見陳述」より)


2  DTI(拡散テンソル画像),SPECTについて 
神経軸索そのものを撮影したものでない点などにおいて,
外傷性脳損傷の発見の性能において評価が固まっている状態とは言い難い上,これら症状がびまん性軸索障害に特異な所見であるということもできない。
東京地裁 平成25年9月13日判決


3  CT,MRI以外の画像所見全体について 
拡散テンソル画像(MR-Diffusion Tensor Imaging),fMRI,MRスペクトロスコピー,PETについては,脳損傷の有無,認知・行動面の症状と脳損傷の因果関係あるいは障害程度を確定的に示すことはできない。
東京地裁 平成25年3月26日判決


4 現時点での東京地裁を中心とする裁判の流れ 
脳の器質的損傷の判断に当たっては,CT,MRIが有用な資料である。

CTは,頭蓋骨骨折,外傷性クモ膜下出血,脳腫脹,頭蓋内血腫,脳挫傷,気脳症などの病変を診断できるが,

びまん性軸索損傷のように,広汎ではあるが微細な脳損傷の場合,CTでは診断のための十分な情報を得難い。

CTで所見を得られない患者で,頭蓋内病変が疑われる場合には,受傷後早期にMRI(T2,T2,FLAIRなど)を撮影することが望まれる。

受傷後2,3日以内にMRIの拡散強調画像DWIを撮影することができれば,微細な損傷を鋭敏に捉える可能性がある。

受傷から3,4週以上が経過した場合,重傷のびまん性軸索損傷では,脳萎縮が明らかになることがあるが,脳萎縮が起きない場合にはDWIやFLAIRで捉えられていた微細な画像所見が消失することがある。
したがって,この時期に初めてMRIを行った場合には,脳損傷が存在したことを診断できないこともある。

これに対し,
拡散テンソル画像(DTI),fMRI,MRスペクトロスコピー,PETについては,それらのみでは,脳損傷の有無,認知・行動面の症状と脳損傷の因果関係あるいは障害程度を確定的に示すことはできない。
東京地裁 平成25年9月6日判決


5 裁判の現状における流れの整理 
CT,MRIのみが有用な資料であることが東京地裁民事交通部の基本的な考え方であり,全国的な潮流を示していると言えそうです。
ところで,判決例の流れは,必ずしもCT,MRI所見を絶対とするものではないと思われます。
それは,このようにCT,MRI以外の画像所見の評価をめぐる事例は,ほとんどが受傷時の意識障害に争いがあるものと思われます。
判決例は,基本的には意識障害レベルとしては論者が言う軽度のものでは外傷性脳損傷としての因果関係は認められないと判断が前提にあるものと言えます。

逆に,意識障害が重度もしくは中等度であれば,CT,MRIでの所見が明確ではなくとも,高次脳機能障害と受傷との因果関係は裁判所としては認めると言うことです。 
結論から言えば,この画像所見をめぐる評価の違いについては,意識障害レベルの違いが変形して現れたものです。

つまり,意識障害が極めて軽度であったり,あるいは無いために, CT,MRI以外の画像所見が争点となっていると言えます。
この画像所見をめぐる争点については,現時点では裁判所としてのスタンスは決まっており,それが変更されることは考えにくいと言えます。



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