Q.現実収入が少ない若年男性労働者について逸失利益算定の基礎収入は,賃金センサス平均によるのでしょうか。
現実収入が低くとも,賃金センサスの平均賃金を前提にすると言えます。
したがって,現実収入を前提とするよりも高くなる傾向はあります。
18歳から24歳の若年者ということを前提に実際の裁判例を分析します。
裁判例の傾向としては,
1 男子労働者計を採用するものが多いと言えます。
なお,金額は全労働者(男女計)よりも男子労働者計が高めです。
2 全年齢平均賃金よりも年齢別平均賃金を採用するものが多いと言えます。
なお,金額は全年齢平均賃金の方が若年者については年齢別より高めです。
3 学歴別平均賃金を採用するものが学歴計平均賃金よりは多い傾向にあります。
4 賃金センサス平均から減額するかどうかについては,減額しないものが多いと言えます。
19歳を超えると,就労しており,その最終学歴による学歴別平均賃金により妥当な結論となるために,平均よりもさらに減額することはしない傾向にあります。
ただし,過去の就労歴や収入金額から見て賃金センサス平均そのものまでは認められないと言うことで,調整のために減額する例もあります。
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なお,具体例については,続きをご覧ください。
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判決の事案概要【参考】
①18歳男子
大阪地裁 平成12年6月16日判決被害者=18歳男子飲食店アルバイトの専門学校生被害状況=右大腿切断で後遺障害4級5号基礎収入=全年齢学歴計男子労働者平均賃金の7割
②19歳男子
京都地裁 平成12年10月19日判決被害者=高校卒業後梱包作業員のアルバイト19歳男子被害状況=死亡基礎収入=全年齢学歴別(高校卒)男子労働者平均賃金
③19歳男子
東京地裁 平成19年10月30日判決被害者=19歳男子,アルバイトしながら芸能専門学校に通う被害状況=死亡基礎収入=全年齢学歴別(高校卒)男子労働者平均賃金の9割
④20歳男子
京都地裁 平成12年8月31日判決被害者=20歳男子父親経営鮮魚店手伝い被害状況=死亡基礎収入=全年齢学歴計男子労働者平均賃金
⑤20歳男子
名古屋地裁 平成18年2月10日判決被害者=20歳男子パート看護師被害状況=9級10号(てんかん)基礎収入=全年齢学歴別(高専短大卒)男子労働者平均賃金
⑥20歳男子
大阪地裁 平成13年5月29日判決被害者=レンタルビデオ店アルバイト兼プロダクションに所属してタレント活動を行な う20歳男子被害状況=後遺障害併合7級相当基礎収入=全年齢学歴別(高校卒)男子労働者平均の3分の2
⑦21歳男子
大阪高裁 平成16年12月7日判決被害者=21歳男子,引越しのアルバイト被害状況=後遺障害等級10級基礎収入=全年齢学歴計男子労働者平均賃金
⑧23歳男子
東京地裁 平成15年9月3日判決被害者=23歳男子,親と同居して専門学校卒業後に就職をしないでアルバイトをしながらバンド活動被害状況=死亡基礎収入=全年齢学歴別(高校卒)男子労働者平均賃金519万7800円の7割
⑨23歳男子
東京地裁 平成20年12月24日判決被害者=23歳男子,アルバイト(幼馴染みと同棲中,認知した1歳児あり) 被害状況=死亡基礎収入=全年齢学歴別(高校卒)労働者平均賃金の7割(全年齢平均賃金を生涯を通じて得られた資料がない)
⑩23歳男子
東京地裁 平成20年12月4日判決被害者=23歳男子,大学中退アルバイト(なお,症状固定後専門学校通学) 被害状況=後遺障害10級基礎収入=全年齢学歴計全労働者平均賃金
⑪24歳男子
名古屋地裁 平成12年5月29日判決被害者=職を数か月毎に転々とし,就労の合間の1~2か月はアニメ作品の制作に集中する24歳男子被害状況=後遺障害3級3号基礎収入=全年齢学歴計男子労働者平均の7割
⑫24歳男子
名古屋地裁 平成12年7月21日判決被害者=準社員扱いのアルバイト24歳男子(高校卒) 被害状況=死亡基礎収入=全年齢学歴別(高校卒)男子労働者平均
⑬24歳男子
東京地裁 平成12年11月30日判決被害者=24歳男子アルバイト被害状況=労働能力喪失率20%相当の後遺障害基礎収入=全年齢学歴別(大卒)男子労働者平均賃金
⑭24歳男子
水戸地裁土浦支部 平成18年3月24日判決被害者=24歳男子,2級建築士資格を持ち稼働しながら再度専門学校に通学しつつ1級建築士を目指している被害状況=死亡基礎収入=全年齢学歴別(高校卒)男子労働者平均賃金
⑮24歳男子
京都地裁 平成12年8月17日判決被害者=24歳男子派遣会社員被害状況=後遺障害(併合10級 左睾丸喪失の生殖器障害(11級)のほか12級相当の右手関節機能障害)基礎収入=学歴計男子労働者年齢別25歳ないし29歳の平均賃金と同30歳ないし34歳の平均賃金の平均をとる