Q.後遺障害等級認定前に症状固定から3年経過した場合に消滅時効にかかってしまいますか。
A.
認定された等級に不満がある場合に(特に非該当),異議申し立てをすることが多くあります。
ところが,ようやく認定されても症状固定日から3年間過ぎてしまっていると大変なことになります。
これは,実務をやっていく上で,起こりうる大問題なのです。
1 不法行為の消滅時効の起算点
交通事故による損害賠償請求権は,民法の不法行為の消滅時効の規定に従います。
その起算点,つまり始まりについては,被害者またはその法定代理人が「損害及び加害者を知ったときから」とされています(民法724条前段,改正法では724条1号,なお現行法では消滅時効期間は,3年間ですが,改正法では生命・身体損害については5年間となっています。)
被害者が,損害を知るとは,損害が発生した事実を知れば足り,それは損害の発生を現実に認識することが必要であると判例でされています(最高裁平成14年1月29日判決)。
2 損害発生を現実に認識するとは何か
後遺症ということで言えば発生当時,つまり受傷時には顕在化していないものが後から発言することがあります。これはこれで問題を含みます。
しかし,多くは受傷後まもなく発現していたが,残存して固定するのに相当期間が必要であったという場合に,いつから時効が進行するのかは,期間が現行法では3年間であることもあって実務上はシビアな問題となります。
判例では,後遺症が顕在化したときが「損害を知ったとき」であり,後遺症に基づく損害であって,その当時において発生を予見することが社会通念上可能であったものは,すべて認識があったものとして時効は進行するとしています(最高裁昭和49年9月26日判決)。
だが,「後遺症が顕在化したとき」でいう顕在化とは何かについても問題が残ります。
それは,症状固定とされて後遺障害等級が認定されるまでに相当期間が経過した場合に,症状固定日と等級認定日のいずれが起算点となるかです。
3 後遺障害等級認定と消滅時効の関係
最高裁平成16年12月24日判決は,2の点について自賠責の等級認定のための経過期間は,消滅時効進行に影響しないという判断を下しました。
つまり,症状固定日と等級認定日のいずれが起算点となるかについて症状固定日であるという初めての判断を出したのです。
上記最高裁判決の事案の事実関係は,症状固定後の後遺障害認定は非該当であったところ,症状固定日から約2年経過したところで異議により12級13号の認定を受け,さらにそれから約1年半経過して再度異議を申し立てたが,認められなかったため,症状固定日から約4年間経過した時点で訴訟を提起したものです。
最高裁判決は,次のように述べています。
「遅くとも上記症状固定の診断を受けた時(注:症状固定日)には、本件後遺障害の存在を現実に認識し、加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に、それが可能な程度に損害の発生を知ったものというべきである。
自算会による等級認定は、自動車損害賠償責任保険の保険金額を算定することを目的とする損害の査定にすぎず、被害者の加害者に対する損害賠償請求権の行使を何ら制約するものではないから、上記事前認定の結果が非該当であり、その後の異議申立てによって等級認定がされたという事情は、上記の結論を左右するものではない。
そうすると、被害者の本件後遺障害に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、遅くとも症状固定日から進行すると解されるから、本件訴訟提起時には、上記損害賠償請求権について3年の消滅時効期間が経過していることが明らかである。」
4 留意点
後遺障害認定等級を追求したいという心情はもっともと思われます。
しかし,根本となる不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は症状固定日から起算されることを肝に銘じるべきです。
認定制度と時効とは関係しないことが宣言されている以上は,時効中断の措置を執っておくかあるいは,それまでに方針を定めて訴訟提起をすべきだったと思われます。